石塚の思い6
そこで顔を近付け「お父さんどう思うかしらってお母はんに聞いていたぞ」と聞かされた。
「今の話は姉貴から内緒だと言われたが、どや、吉報だと思わんか」
「まあなぁ」
ちょうどやって来た珈琲に、砂糖を入れて掻き回した。なにしてんのんや、お前いつもブラックだと嗤われた。
「お父さんがやってる店には良く顔を出すのか?」
癪に障って越村は話題を変えた。
「子供の頃はお母はんの走り使いで良く行かされたが、今は行ってない。姉貴はたまに遊びに行ってる」
なんせシステムキッチンを見て、新婚生活を思い浮かべるのが楽しいようだ。女はそんなもんか。実家の若狭には親兄弟が多いせいか、姉や妹はそんな考えなんてこれっぽっちも持ち合わせていない。生活環境の違いをまざまざと知った。これも早めに頭を切り替えないと沙苗さんにどう思われるか気が気でない。
「沙苗さんは車の運転が好きなのか」
「今までの休みには女友達と良く行っていたが、流石にお前と行った時は楽しかったと言っていたぞ」
ほ〜お、それはこの先、大いに期待が持てる。
「ところで次の休みもドライブするそうだ。どこが好いのか訊かれて困ったもんだ」
「何が困るんだ」
「そっちはまたお手々繋いで東寺の弘法さんの縁日か。はぐれないようにしっかり手を繋いで歩く、それもいいが。車じゃあ沙苗さんは運転が疲れるだろう」
「それは姉貴がやることだ」
「そっちが弘法さんならこっちは天神さんにするか」
「アルバイトはいいのか」
「今はそれどころじゃない。たまには縁日の人混みに揉まれるのも好いと思うが、沙苗さんに訊いてくれ」
これで貸し借りなしか。いやに今日のアップルパイは甘すぎたと二人は珈琲を嗜んだ。




