石塚の思い3
「それで何を話した」
石塚はまたにやけた。彼女の話になるとこうも表情が崩れっぱなしになるか。全く免疫のない男だ。これなら澤村さん以外でも良かったが、今更ながら女に対するガードが脆すぎる。
「正直言って箕面の話が出たときは飛びついた。待てよ最初が肝心だと、遠すぎるとわざと難色を示した。そしたらどうだ。彼女は直ぐに標高の低い御室八十八カ所を挙げて拍子抜けした」
「お前のことだ標高差に釣られると澤村さんは思った。行ってみて俗化された箕面とそうでない一応は霊場の御室八十八カ所とは足腰のなまったお前では全然違うだろう」
箕面にはトイレも茶店もあるが御室八十八カ所は何もない自販機もない山道だ。
「苦労はしたが、お陰で急な所では、手を差し伸べてもらって有意義だった」
北穂高で越村がサポートしたのを、あんな低い山で澤村さんはしてあげたのか。
「ほ〜お、それじゃあ御室にして大正解か」
満更でもない顔をした。
それでも二時間ばかりで御室を出て、仁和寺前からバスで市内に行った。さっさと山を下りるなんて、そこまで行けば仁和寺から竜安寺、等持院と彼女を案内すればいいのに。もう商店のないところ歩きたくないのか、澤村さんは多少は寺院の仏像には興味があるはずなのに。それじゃあ二人きりの初デートで寺院巡りは精進臭いか。こっちは湖東三山でもかなり突っ込んだ話が出来たのに。
「それで市内ではどうした。手を握れるほどの急峻な坂や道はないぞ」
「だけど似たようなカップルがいれば、以前のように卑屈にならなくて済んだ」
嫉妬か。いつも難しい女性論をぶってる奴が、あれは何だったのかと嗤った。
今までの憂いに帯びた表情は瞑想でなく、単なるカップルに対する引け目を感じていただけだとやっと解った。




