石塚の思い1
週明けは大学に行く足取りも軽かった。気になるのは石塚だ。彼奴も初日から躓くようでは、この恋は諦めるように説得するつもりで、講義室に入って石塚を探した。居た居たいつもの定まらない視線でなく、今日は澄まして座ってる。服装は変わらない。当たり前だ。凝った服を着るような奴でもなく、いつもどおり大丈夫なようだ。まあ恋は継続協議と謂うところか。いつもと違うのは講義が終わると向こうからのこのことやって来た。これが唯一のしかも大きな変化だ。
「よお」
幾分にやけたした顔で、こんな砕けた挨拶は初めてだ。その顔でその服装は似合わない、少しはお洒落をしろと言いたいが、これだけでも大変な進歩だと澤村さんを褒めてやりたい。
「どうした、先日は好いハイキングだったようだなあ」
面倒くさそうに頷く石塚を講義室から連れ出し、次の授業がないのを確認して校外に出た。お互い聞きたいことが山ほどあり、近くの喫茶店で珈琲を注文した。
此処は小さなテーブル席が多く、個人で文献やレポートの整理に学生や教授の溜まり場だけに二人は珍しい存在だ。二人には周囲に馴染み客がいなくて込み入った話がし易い。
どうやら沙苗さんから耳に入っているのか話題は澤村さんに偏った。
「澤村さんはお前には、チベット仏教なんて余計なものは言わなかっただろう」
その点を沙苗さんが気にして先ずはズバリ聞き出した。それはないと切り出したところで、姉からも最初に聞かれたようだ。澤村さんはチベット仏教どころか、毎月二十一日に東寺で行われる空海の月命日にあやかって開かれる弘法さんの縁日の話で盛り上がった。あれは境内一面に色んな、それこそ骨董品から自家製のクッキーやジャムが露店に並び見飽きない。




