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湖岸に向かう1

「チベット仏教って何《なん》なの? 日本の仏教とどう違うの?」

 車は西明寺を出ると急に沙苗さんに訊かれた。付け焼き刃の彼は焦《あせ》った。

「似たようなもので、密教と呼ばれて、それを日本に伝えたのが弘法大師空海で、彼が唱えたのが真言密教なんです」

「じゃあ御室とヒマラヤは密教で繋がっててるの」

 澤村さんが誘った箕面の森は当て馬だ。確かに標高差は二百メートあるが、箕面は俗化されてハイキングにはもってこいだ。御室八十八カ所巡りは低い山を取り巻くように作られてるが、断然箕面の山が気分的には楽な場所だ。

「 何とも言えんが、それよりどっちも知らない石塚は単に標高差で決めたのなら、石塚はまだ完全に復活してないなあ」

「どうもその辺が気になるわね」

 沙苗さんに難しい顔をされた。車は湖東三山の山すそから走ると道の両側には田園風景が広がり始めた。

「もっと澤村さんについて知ってることはないの」

 ウーンと唸りたくなった。時間なら二が月、二年で四ヶ月は澤村さんと一緒に居た。休日に穂高近辺を縦走した以外は、朝から晩まで仕事上のやり取りばかりで、唯一北穂高に伴走したぐらいだ。あの時は相当突っ込んだ話もした。そこで彼女がチベット仏教に連なる密教に、関心を寄せていると初めて知った。要するにヒマラヤに登るのなら、そこに住む人々の心のよりどころとするチベット密教を学びだした。

「それじゃあ何故《なぜ》、必要なんですか?」


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