西明寺2
石塚にもそんな要素がないのか、と彼女の父は密かに願いを込めていたのかも知れない。何れにせよ、あの男にはそんな欠片も存在しない。
「越村さん、そんな難しく考えなくてもいいのよ。人それぞれですから」
今は此の池に散在する飛び石を見ていた。が別に彼女に見透かされてはいない。
「処で、そのお父さんの会社の社員ってどんな人です」
「あらッ、関心があるの」
「そうでもないけど、例えばマンションの間取りに因っては、システムキッチンの組み合わせにも様々なパターンがあるんでしよう」
「そうでもないわよ。そんなジグソーパズルでもないのよ。あら、だいぶ上まで来たわね、此の先に三重塔があるのよ」
「それはさっき見た金剛輪寺とどう異うんです」
「見て非なるものの典型的がこの三重塔なの」
こちらも本堂の隣に立っていた。でもこっちは本堂もそうだが、とても質素な造りだ。
「それよりあたしが気にしているのは、何で澤村さんは弟をそんなところに誘ったのかしら?」
越村と同じ疑問に、彼女も行き着いたのか。
「足腰の初歩的な鍛錬に丁度いい場所だと思ったんでしょう」
「でも他にもありそう。そんな場所が」
そりゃあそうだ。別に御室でなくても、あれぐらいのハイキングコースは市内に幾らでもある。これで沙苗さんと共通の話題を見付けて胸が高まり暫くは付き合ってもらえる。
「仏教、特にヒマラヤのチベット仏教に関心があるんですよ」
「チベット仏教?」
「勿論、澤村さんはそんな仏教そのものには興味はなかったんですが、いつかヒマラヤに登りたいと夢見ている登山家の一人で、先ずはその地域の風土を調べるにうちに、仏教の真髄を覗き見するようになった。多分、御室八十八カ所を選んだのはそこからの発想じゃないかなあ」




