西明寺1
湖東三山巡りのラストになる西明寺に向かった。ハンドルを操作する沙苗さんの表情には何処となくよぎる何かを感じた。それでも車の運転に差し障りがあると越村が見過ごすと向こうから聞いてきた。
「どう、こうして湖東の山裾にある見なれない古いお寺は」
「それより何で思いついたか、そっちの方を知りたい」
彼女は直線道路に入るとハンドルの上に気怠く手を乗せて、そうねーと語尾を長く引かせて、再びハンドル操作を細かくすると目的の寺に近付いた。
此処は駐車場から山門は更に短くて目の前だが総門は格式がある。入ると直ぐ拝観受付で短い石段の先に庭園入り口があり、山裾と言っても開けた平地で高低差がほとんどなく歩き易い。三山の中では参道以外の斜面に覆われた苔が美しい。
「此処はゆったりしてい好いですね」
「喜ぶのはまだ早いわよ。此の先昇りの石段があって、その先の中門を入れば凝った池と庭がかなりの高低差に作られて、結構歩くわよ」
此処は広くて庭を巡りながら、足元さえ気を付けていれば話が出来る。そう言えば紅葉かまだで、見所が少なく話に身が入りそうだ。
「それでさっきの話だけど」
彼女の思いつきには深い訳がある。父はシステムキッチンの販売を手掛けている。新築分譲より高級マンションの方が実入りがいい。なんせ一軒一軒注文を取るよりマンションなら施工時から全室同じタイプのシステムキッチンを組み入れる。これで父はあちこちの建設会社とマンションの設計段階から参加して好成績を上げていた。システムキッチンの基本構造は、庭園巡りの中で水の流れる配置構造を食器に置き換えて、それをコンパクトにまとめ上げた。工夫されたこの庭園の流れは、人生の流れに似たものだと父から教わったが、あたしにはまだその極意が掴みきれない。それでこうしてあなたを連れて、色々な場所を案内している。兄もそうした才能はない。営業の社員は五人いるが彼らも似たようなものだ。
「此処もそうだが、とても君のお父さんが見る様な感性は僕には備わってないよ」
「一度だけ見て分かりっこないわよ。父は十年以上も見続けて、ある日閃いたと言ってるもん」




