金剛輪寺1
裏を返せばこれでもかと沙苗さんは、弟の生き方に奮起を促していた。やっと腰を上げて動き出した今こそ、助走をつけないでいつつけるのかと、姉はここぞばかりに昔の彼を懐かしんだ。
「以前の石塚は、もっと活発に野外活動に精を出してたんですか」
百済寺の拝観を終えた二人は、湖東三山の次の寺、金剛輪寺に向かって車を走らせている。
「子供の頃はねぇ」
やんちゃでとても手に負えなかった。学校から帰ると鞄をほっぽらかして遊びに出た。エッ! ディズニーランドでアトラクションの乗り物漬けになって、エスカレーターのない処は極力避けていた男が。
「学校で友達が出来ると、ものの見事に外で遊び呆けた」
小学校を出て、私立の中高一貫校へ行くと、また元の木阿弥。なんせ極端すぎて両親も手を焼いて、それからあの子には一切無関心にやりたいようにやらせた。
「その結果が、ひと月近い旅館での滞在ですか」
「ええ、だから何も言わずに弟の口座にお金を振り込み続けたのよ父は。ただ無言抗議のように三、四日分しか振り込んでないけどね」
「それは、早う帰って来いっていうことの意思確認の為ですか」
「口で言うより、それが一番確かな方法なの。元々弟には主義主張が定まってない。そんな弟に親が何を言っても無意味なの」
「定まってなかったん、ですか? 彼奴の精神は」
それでどうして弘法大師が祀られてる御室八十八カ所に行くのか。単なるハイキングならもっと別な場所もあったのに、なぜ澤村さんは推薦したんだろう。思案するまもなく着いてしまった。数キロでは車ならそう時間が掛からない。




