表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貞操逆転世界の孤高なる料理人「男ですが、路地裏で定食屋はじめました」  作者: たうやん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/42

第31話:怪使たちの居残り夏休みと、港町の新たな火種

中央都を裏から動かす二大巨頭――地主のおばあちゃん(大旦那)と、天領グループ総帥・天領てんりょう かおるが、まさかの『田舎に長期滞在宣言』をしてから一夜。

八重凪町の最高級旅館は、馨の権力によって丸ごと一棟貸し切られ、即席の「総帥リモート執務室」と化していた。そして俺――藤崎ふじさき はじめの夏休みは、のんびり骨を伸ばすはずが、この二人の怪物の胃袋を満たすための「出張・食事処 藤」へと変貌を遂げていた。

「――ちょっと! 私たちが先に並んでたんだからね!」「どきなさい、私はこのアジフライとスズキを食べるために有給を取って都から追いかけてきたのよ!」

翌日の昼時。『みなと食堂』の周辺は、昨日の一件をどこからか聞きつけた地元の女性たちに加え、大旦那の工務店の社員、さらには天領グループの息がかかった都のキャリアウーマンたちまでが八重凪町へ大挙して押し寄せ、静かだった海岸沿いの通りに、物凄い数のお国自慢の大行列が出来上がっていた。

「うわぁ……夏休みでのんびりするはずだったんだけど、なんだか大変なことになっちゃったな」

厨房で苦笑いしながら、俺は冷蔵庫を開けた。

今日も外は立派な入道雲が湧き上がり、じりじりと肌を焼くような猛暑。これだけ暑い中、外で何時間も並んで殺気立っている女たちの胃袋を満たし、かつ、疲れ切った身体を一瞬でクールダウンさせる料理は何か。

「マスター……! 外の女たちの熱気がすごくて、もうお店のクーラーが追いつかないよぉ……っ!」

渚さんが顔を真っ赤にして、パタパタと団扇で胸元を仰ぎながら厨房に駆け込んでくる。その、暑さで上気した無防備な姿に、カウンターに陣取ったおばあちゃんと馨、そして地元の漁師たちも「うへえ、本当に暑いねぇ……」とダレていた。

俺はふっと目を細め、白シャツの袖をさらにきゅっと上へと捲り上げた。

「よし、渚さん。今日はお腹に溜まる揚げ物や油っこいものじゃなくて――このうだるような暑さを一瞬で吹き飛ばす、最高にさっぱりした冷たい魚料理を作ろう」

「さっぱりした魚料理……? でも、生魚を普通に出しても、暑さでみんなの箸が進まないんじゃ……」

「大丈夫。漁師さんが持ってきてくれた新鮮なアジを、この地方の夏野菜と合わせて、氷水でキンキンに冷やすんだ。一度食べたらスプーンが止まらなくなる、職人の夏飯さ。……仕込み、手伝ってもらえますか?」

俺が真剣な職人の目で包丁を握り、ニカッと頼もしい笑顔を向けると、渚さんは「は、はい……っ! どこまでもついていきます、マスター……っ!」と、胸を高鳴らせて返事をした。

職人の手解き:氷水が織りなす極上涼味『冷や汁仕立てのなめろう丼』

俺が作ると決めたのは、夏の港町にふさわしい至高のさっぱり魚料理――『藤特製・黄金アジの冷やひやじるなめろう丼』だ。

この世界の漁師めしといえば、ただ塩を振って無骨に焼くか、効率重視のプロテインバーで済ませるもの。だが、新鮮な青魚の旨味を、香ばしく焼いた味噌と薬味の力で昇華させれば、暑さを忘れる極上の清涼料理へと進化する。

「渚さん、まずアジを細かく叩いて『なめろう』を作ります。ネギ、生姜、大葉をたっぷり刻んで、ここに地元の麦味噌を少し。包丁の刃で粘りが出るまで、しっかり叩き合わせてください」

「うわあ……! 薬味のいい香りがして、アジの生臭さが全くないよ……!」

「本番はここからです。別のフライパンで、残りの味噌を薄く伸ばして直火で軽く炙ります。焦げた味噌の香ばしさが、冷や汁のコクを引き立てるんです」

俺は白シャツの袖を捲り上げた逞しい腕で、炙った香ばしい味噌をすり鉢に入れ、冷たい和風出汁と氷水で丁寧に伸ばしていった。

そこに、薄切りにして塩もみしたシャキシャキのキュウリと、手で崩した豆腐を投入する。氷水がカランと音を立てる、目にも涼しい特製の「冷や汁」の完成だ。

「よし、仕上げです。温かい白米の上に、さっきの叩きたてのアジのなめろうをこんもりとのせて……その上から、このキンキンに冷えた具だくさんの冷や汁を豪快に注ぎます!」

トトトトト……シャリ、カラン。

氷と夏野菜が涼しげな音を立て、お椀の中で完璧な「温×冷」の芸術が完成する。

「お待たせしました。特製・黄金アジの冷や汁なめろう丼です。さあ、冷たいうちに一気にかき込んでください!」

酷暑を消し去る衝撃、二大女帝の理性の完全崩壊

目の前に並べられたのは、キンキンに冷えた出汁の中に、緑鮮やかな夏野菜と豆腐、そして濃厚なアジのなめろうが美しく調和した、見た目にも涼しげな一椀。

「……冷たいお汁をご飯にかけるの? そんなサラサラしたものが、この私の火照った身体を満足させられるかしら」

馨は少し疑わしげにしながらも、スプーンでなめろうと出汁、ご飯を一緒にすくい、一気に口へと運び入れた。

シャキッ……ツルンッッ!!! ……じゅわぁぁ……!!!

「――――っっっ!!!!」

馨の動きが、完全に凍りついた。

直後、彼女の白い肌がカァッと一気に赤くなり、端正な顔が快楽に似た恍惚さで歪んだ。

「な、何これ……っ!? 冷たいのに、アジの濃厚な旨味と、炙り味噌の香ばしいコクが信じられないくらい深く広がっていく……っ! 生姜と大葉のキレが完璧で、キュウリのシャキシャキした食感が、このうだるような暑さを一瞬で全て洗い流していくわ……っ!」

「どれ、私にも食わせな! ……ガブッ、ふぉおおおっっ!? 美味いっっ!!」

おばあちゃんも豪快に口にした瞬間、目を剥いて絶句した。

「温かいご飯と、キンキンに冷えた出汁のギャップがたまらん! さっぱりしているのに、アジの脂のコクがしっかり生きていて、スプーンを動かす手が止められないよ……っ!」

「美味すぎるぜマスター!! 暑さでバテてた身体に、スルスル入っていく!」

漁師たちも、狂ったように冷や汁丼をかき込み始めた。

「機能性ゼリーなんてクソ食らえだ! 夏の最高の贅沢は、この一杯にすべて詰まってるわ……っ!」

世界の頂点に立つ女帝二人が、額に汗を浮かべながら、エリートのプライドも優雅さもすべてかなぐり捨てて、必死になって冷たい丼を口へと吸い込んでいく。

器が完全に空っぽになり、ぷはぁ、と冷たい至福の息を漏らした二人は、ガタッと同時に立ち上がり、カウンター越しに俺の白シャツの袖を左右からがっしりと掴んだ。

「藤崎創……! あなたのこの料理は、我が天領グループが全力を挙げて世界に流通させるべき国の宝よ! もう夏休みなんて終わりにしなさい! 私がこの町に、あなたのためだけの最高級リゾート庵を建ててあげるから、そこで毎夏、私だけにこの冷たさを注ぎ続けなさい!」

「天領の小娘、また創を独り占めしようとしてるね! 創、私の工務店なら明日にはここに『藤・八重凪別邸』を完成させてやるよ! 私と結婚して、一生この涼しい飯を私に食わせておくれ!」

「おいおい二人とも、マスターは私の店の手伝いをしてるんだから、置いてかないでよぉ!」

渚さんも涙目で参戦し、田舎の食堂は再びガチの求婚大戦争の修羅場と化した。

「あはは……。皆さん、落ち着いてください。夏休みはまだ始まったばかりですから」

俺は困惑して照れくさそうに頭を掻きながら、包み込むような優しい笑顔でいつものようにいなすと、女たちは「あ、あの無防備な笑顔……ズルすぎる……っ!」「なんて大人の包容力なの……っ!」と、顔を真っ赤にして悶滅し、カウンターに突っ伏してしまうのだった。

その日の夕方。

大盛況の営業を終え、俺は渚さんと一緒に、静かになった夕暮れの海岸を歩いていた。

「マスター、本当にありがとう。お店、今月で閉めるのやめることにしたよ。私、マスターみたいなお客さんを笑顔にできる料理人になりたい!」

「うん、渚さんならきっと大丈夫ですよ。美味しい魚は、ここにつくほどありますから」

俺が夕日に照らされながら微笑むと、渚さんはまた顔を赤くして俯いた。

都会の喧騒を離れたはずの八重凪町。

だけど、俺を巡る女たちの執念と、美味しいご飯の熱気は、この港町をまだまだ終わらない『大熱狂の夏休み』へと巻き込んでいくのだった。







『みなと食堂』夏の特製・黄金アジの冷や汁なめろう丼(2人前)

材 料

【薬味たっぷり 黄金アジのなめろう】

新鮮なアジ(刺身用・三枚おろし):2尾分(約150〜200g)

長ネギ:1/4本(みじん切り)

生姜:1片(みじん切り)

大葉シソ:4枚(細かく刻む)

麦味噌(または普通の合わせ味噌):大さじ1/2

【キンキンに冷えた 具だくさん冷や汁】

麦味噌(または普通の合わせ味噌):大さじ2(★炙って香ばしさを出します)

冷たい和風合わせ出汁(昆布とカツオ、または煮干し出汁):300ml

木綿豆腐:1/2丁(約150g)

キュウリ:1/2本

塩(キュウリの塩もみ用):少々

白いりごま:大さじ1

氷:数個

【土台】

炊きたての温かい白米:2丼分

作り方

1. 冷や汁のベース作り(炙り味噌と出汁の融合)

1 フライパンにアルミホイルを敷き、冷や汁用の味噌(大さじ2)を薄く平らに伸ばします。

2 中火〜強火にかけ、味噌の表面に少し焦げ目がつき、こうばしい香りがフワッと立ち上るまで直火で炙ります(トースターや魚焼きグリルで2〜3分焼いてもOK)。


★マスターのこだわりポイント

渚さんが「ただの冷たい汁じゃない」と驚いた秘密がこれさ。生の味噌をそのまま溶かすんじゃなくて、一度表面をがっつり炙る。この焦げ目の香ばしさが、冷たい出汁に溶けた時に異常な深みを生むんだよ。


3 すりまたはボウルに、炙った味噌と白いりごまを入れ、冷たい和風出汁を少しずつ注ぎながら、ダマにならないよう丁寧に溶き伸ばします。


2. 冷や汁の具材仕上げ(氷水でキンキンに)

1 キュウリは薄い輪切りにし、塩を軽く振って揉み、5分置いてからギュッと絞って水気を切ります。

2 1の出汁の中に、水気を切ったキュウリを入れ、木綿豆腐を手のひらで粗く崩しながら加えます。

3 氷を数個浮かべ、冷蔵庫に入れて食べる直前までキンキンに冷やしておきます。


3. アジのなめろう作り(職人の叩き技)

1 アジの身を1cm幅くらいにざっくりと切り、まな板の上に並べます。

2 その上に、みじん切りにした長ネギ、生姜、刻んだ大葉、そして隠し味の味噌(大さじ1/2)をのせます。

3 包丁で、アジと薬味、味噌を一緒にトントンと小気味よく叩き合わせていきます。


★ここが職人の手解き!

完全にペースト状にするんじゃなくて、「少しアジの身のコロコロした食感が残るくらい」で止めるのが藤流さ。そうすれば、冷たい汁をかけた後でもアジのジューシーな脂と弾力をしっかり楽しめるからね。


4. 運命の盛り付け(温×冷の一体化)

1 大きめの丼に、炊きたての温かい白米をよそいます。

2 ご飯の中央に、3で作った叩きたてのなめろうをこんもりと贅沢にのせます。

3 食べる直前に、冷蔵庫から出したキンキンに冷えた冷や汁を、なめろうの上から周りへと豪快に注ぎ入れます。


店主(創)からのワンポイントアドバイス

「お待たせ。八重凪町の夏の暑さを一瞬で吹き飛ばす冷や汁なめろう丼の完成さ。

食べる時は、スプーンで上の濃厚ななめろうを崩しながら、下の温かいご飯、そして冷たいお汁とキュウリを一緒に、ガバッと豪快にかき込んでくれ!

温かいご飯の熱で、アジのなめろうの脂がフワッと溶け出した瞬間、キンキンに冷えた炙り味噌の出汁がそれを包み込む……。この『温と冷』のギャップに、馨さんもおばあちゃんも理性を飛ばして絶句してたよ。

食欲が落ちる真夏でも、これなら何杯でもスルスルいけちゃうから、ぜひ山盛りの白米を用意して作ってみてくれよな!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ