第22話:最大大手の『天領大御祭』、肉汁の爆弾で気取った会場を支配せよ!
「おいおい、見てみろよ。あの屋台、最高級フレンチの『エルミタージュ』の隣なのに、ただの『唐揚げ』だぜ?」
「しかも、看板を背負って立ってるの、男じゃない。あんな逞しい腕剥き出しにして……色気で客でも釣る気かしら」
『天領大御祭』のメインエリア。
周囲の高級老舗店が、金箔を散らした冷製スープやトリュフ風味のカナッペといった、SNS映えする小洒落た料理を並べる中、俺の『食事処 藤』の屋台は、お祭り仕様の巨大な揚げ鍋と、山積みにされた特製ダレに漬け込まれた鶏もも肉だけという、あまりにも無骨な構えだった。
男は愛らしく守られ、女の引き立て役に徹するのが当然のこの世界。
周囲の有名女性シェフや、お忍びで訪れている目の肥えた良家のお嬢様たちは、俺の屋台を物珍しそうに、どこか見下すような視線で眺めていた。
だが、俺――藤崎 創は、そんな外野の雑音には一切耳を貸さない。
「よし……油の温度はバッチリだ」
俺は白シャツの袖を肩まで捲り上げ、一粒一粒が拳大ほどもある大ぶりの鶏もも肉を掴む。
醤油、酒、すりおろしたてのニンニクと生姜、そして鶏の旨味を極限まで引き出すための「隠し味の隠しダシ」に一晩じっくり漬け込んだ、俺の魂の塊だ。
これに片栗粉を薄く、均一に纏わせ、160度の低温の油へ静かに滑り込ませる。
シュワワワワワワ……ッ!!!
優しく、だけど確かな泡の音が静かに響き始める。じっくりと中に火を通し、肉汁を閉じ込める一歩目だ。
周囲の着飾った男の売り子たちが黄色い声を上げる中、俺はただ黙々と、巨大な揚げ鍋から立ち上る熱気と正面から向き合う。その、一切ブレない真剣な職人の横顔と、油の照り返しでキラキラと汗を光らせる逞しい腕に、通りかかる女性たちの足が、無意識のうちに一人、また一人と止まり始めた。
「……ねえ、なんかあの男の人、すごい雰囲気ない?」
「ちょっと、あの腕の筋肉……ヤバくない? ガチの料理人の身体だよ……」
職人の手解き:二度揚げの咆哮、匂いの暴力が会場を襲う
「ここからが本番だ」
一度引き揚げ、余熱で中まで完璧に肉汁を閉じ込めた唐揚げを、今度は200度まで一気にブーストした高温の油へドバッと再投入する!
バチバチバチバチッ!!! ガラガラガラッ!!!
激しい二度揚げの咆哮とともに、醤油とニンニク、そして生姜が油の中で焦げる、あの『全人類の本能を狂わせる暴力的な香ばしさ』が、爆風のように一気にお祭り会場のど真ん中に吹き荒れた。
「――っっ!? なにこの匂い、凄まじく暴力的……っ!」
「トリュフの香りが、一瞬で全部かき消されたんだけど!?」
気取った高級料理の繊細な香りを、俺の唐揚げの匂いが容赦なく、圧倒的なパワーで圧殺していく。
お腹を空かせた来場者たちの鼻腔へダイレクトに突き刺さるその匂いに、周囲の高級屋台に並んでいた客たちが、まるで狐につままれたようにゾロゾロと列を離れ、俺の屋台へと引き寄せられていく。
ザルに引き揚げられた唐揚げは、黄金色の衣がパチパチと音を立てて震え、見るからにカリッカリの極上な仕上がり。
「お待たせしました! 『食事処 藤』特製、肉汁溢れる熱々大ぶり唐揚げです! 噛むと肉汁が飛び出るんで、火傷に気をつけてくださいね!」
俺が満面の、裏表のないナチュラルな笑顔で最初の一パックを差し出すと、並んでいたキャリアウーマンの女性が、我慢できずにその場で大ぶりの唐揚げをガブッと文字通り貪り食った。
数十万人の理性の崩壊、そして最大大手の『大行列伝説』へ
サクゥッッ!!! ……じゅわあああああぁぁぁっっっ!!!
「ーーーーーーーーっっっ!!!!」
静寂。次の瞬間、その女性の口から、お祭り会場の喧騒を突き破るような絶叫が響き渡った。
「な、何これえええええええっ!? 衣が信じられないくらい軽くてカリカリなのに、中からマグマみたいな熱さの肉汁が、口の中で大爆発した……っっ!!」
彼女はハァハァと熱い吐息を漏らしながら、目を血走らせて唐揚げをさらに頬張る。
「ニンニクと生姜のガッツリしたパンチの後に、信じられないくらい深い『和風の出汁のコク』が追いかけてくる! お肉が信じられないくらい柔らかくてジューシーで、噛むたびに本能が『もっと喰え』って脳に命令してくる……! こんなの、今まで食べたどんな高級宮廷料理よりも、何百倍も美味しくて、身体が震える……っ!」
その絶叫と、お祭り会場の空気を完全に支配した匂いの爆弾が引き金だった。
「私にもちょうだい!」「こっちも3パック!」「いや、あるだけ全部よ!」
商店街のお祭りの比ではない。数十万人がひしめき合う最大大手の舞台で、俺の屋台の前には一瞬にして地平線の彼方まで続くような、『天領大御祭・過去最高にして最大の大行列』が出現してしまったのだ。
「ちょっと! 私が先に並んでたのよ!」「どきなさい、私はこの唐揚げを食べるためなら、来年の予算を全部注ぎ込んでもいいわ!」
あまりの大混乱に、視察に来ていた実行委員会の東條さんたち黒スーツの幹部たちが、慌てて警備員を引き連れて飛んできた。だが、彼女たちもまた、俺の屋台から漂う匂いを嗅いだ瞬間、ゴクリと激しく喉を鳴らした。
「東條さん、これはいけません……! 完全に会場の全店舗の客が、あの男の唐揚げに奪われています……!」
「……いや、スカウトの目は確かだった。あれは、お祭りの活気どころか、この国の『食の常識』を一人でひっくり返す、孤高の化け物よ……」
東條さんは、恍惚とした表情で唐揚げを求める大行列を見つめ、震える手で胸を押さえていた。
俺はといえば、あまりの注文の嵐に、数人がかりで回すような巨大な揚げ鍋の前に一人立ち、休む間もなく唐揚げを揚げ続けていた。逞しい腕の筋肉は悲鳴を上げ、白シャツは完全に汗で肌に張り付いていたが、俺はただ、並んで待ってくれている人たちのために、一枚一枚、真剣に衣を塗し、油に投入し続ける。
「お待たせしてすみません! 最高の状態で揚げますから、もう少しだけ待ってくださいね!」
額の汗を腕で拭い、いつもの飾らない無邪気な笑顔を向けると、並んでいた良家のお嬢様やエリート女性たちが、「あ、あの無防備で逞しい笑顔……ずるすぎる……っ!」「あの男が揚げるなら、何時間でも、一生でも並び続けるわ……っ!」と、顔を真っ赤にして悶絶していた。
高級な食材で着飾り、男を侍らせるのがステータスとされる、この世界の最大大手の祭典。
だけど、どんなにプライドの高いエリート女たちであっても、俺が魂を込めて油で揚げた、熱々の一玉の前では、ただ純粋に「美味い」という本能にひれ伏し、一人の男の腕前に恋をする、素直な生き物に変えることができる。
「こんな大舞台でも、俺にできる事は料理だけだからな」
夜空に、天領大御祭のグランドフィナーレを告げる特大の花火が何百発と打ち上がり、会場が五色に染まる中。
俺の屋台の前には、お祭りが終わってもなお、熱狂の冷めない美女たちの大行列が、どこまでも、どこまでも続いているのだった。
『食事処 藤』第22話特製・肉汁爆弾の極上カリカリ唐揚げ(2〜3人前)
材 料
鶏もも肉(大ぶりなもの):2枚(約500〜600g)
揚げ油(サラダ油など):適量(鍋の深さ3cm以上)
【本能を狂わせる特製漬け込みダレ】
醤油:大さじ2
酒(または紹興酒):大さじ1
みりん:小さじ1
ニンニク(すりおろし):1片分
生姜:1片分
和風出汁の素(顆粒):小さじ1/2(★これが周囲の高級店を圧倒した隠し味!)
ごま油:小さじ1(香りのブースター)
塩・コショウ:少々
【驚異のカリカリ感を創るハイブリッド衣】
小麦粉(薄力粉):大さじ2(肉の旨味と肉汁を逃さない内壁)
片栗粉:大さじ4〜5(外側をガラスのようにクリスピーにする外壁)
作り方
1. 肉の切り出しと漬け込み(肉汁の仕込み)
1 鶏もも肉は、余分な黄色い脂肪や筋を丁寧に取り除きます。
2 「一粒が拳大(約40〜50g)」になるよう、大きめにカットします。
★マスターのこだわりポイント
小さく切ると火が通りすぎてジューシーさが消えちまう。お祭りで驚かれた「肉汁の爆弾」を作るには、お肉を贅沢に大きく切るのが鉄則なんだ。
1 ボウルに切った鶏肉と【特製漬け込みダレ】の材料をすべて入れ、汁気がなくなるまで手でしっかりと揉み込みます。
2 表面にぴったりラップをして、冷蔵庫で最低30分(できれば一晩)じっくり寝かせます。
2. 創流「二段階」の衣付け(カリカリの絶対障壁)
1 揚げる15分前に冷蔵庫から肉を出し、必ず常温に戻しておきます。(芯まで綺麗に火を通すため)
2 汁気が少し残っている状態のボウルに、まず小麦粉(大さじ2)を入れて全体をよく混ぜ合わせます。肉の表面にねっとりとした薄い膜を作るイメージです。
3 次に、バットなどに片栗粉を広げ、小麦粉を纏った鶏肉を一つずつ移し、外側にしっかりと片栗粉をまぶします。余分な粉はパタパタとはたき落としてください。
3. 一度目の揚げ(余熱でじっくり肉汁を閉じ込める)
1 揚げ鍋に油を注ぎ、160度(低温)に熱します。(菜箸を入れたら、先から静かに小さな泡がフワフワ出るくらい)
2 衣をつけた鶏肉を静かに油へ投入します。一度にたくさん入れると油の温度が下がるので、鍋の面積の半分くらいまでにします。
3 約4〜5分、時々ひっくり返しながら優しく揚げます。この時点ではまだ衣の色は薄いキツネ色です。
4 一度油から引き揚げ、油を切る網の上で【3分間】休ませます。
★ここが職人の手解き!
ここですぐに色をつけようとしたら肉がパサパサになっちまう。一度お肉を外に出して休ませることで、肉の外側から内側へと「余熱」がじわじわ伝わり、肉汁を閉じ込めながら最高に柔らかく仕上がるんだ。
4. 二度目の揚げ(本能を狂わせる咆哮)
1 肉を休ませている間に、バーナーの火力を上げて油の温度を200度(高温)にブーストします。(箸を入れたら、勢いよくバチバチッと激しく泡が出る状態)
2 休ませておいた唐揚げを、一気に油へ再投入します!
3 ジャァァァァァッ! バチバチッ!と激しい音が鳴る中、約45秒〜1分、網で空気に触れさせながら一気に揚げ上げます。
4 表面が濃い黄金色になり、衣がカチッと硬くなったら、一気に引き揚げてしっかり油を切ります。
店主(創)からのワンポイントアドバイス
「最大大手の『天領大御祭』で、並み居る高級フレンチや中華の香りをねじ伏せたのは、この二度揚げの瞬間に弾けるニンニクと醤油、そして和風出汁の香ばしさなんだ。
最初の160度で中をフワフワのジューシーに仕上げて、最後の200度で外側の水分を完全に飛ばしてクリスピーにする。このメリハリが、噛んだ瞬間に『サクゥッ、じゅわあああ!』ってなる肉汁爆弾の正体さ。お祭り気分で、冷たい炭酸水やビール、そして山盛りの白飯と一緒に豪快にかぶりついてくれよな!」




