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貞操逆転世界の孤高なる料理人「男ですが、路地裏で定食屋はじめました」  作者: たうやん


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20/42

第20話:真夏の夜の出店要請と、路地裏の職人が放つ極上ソース焼きそば

「頼む、創! この通りだ! 今年の夏祭りを盛り上げるために、あんたの力を貸してくれ!」

うだるような暑さの7月半ば。夕方の仕込みをしていた『食事処 藤』に、地元の商店街振興組合の女性幹部たちが、切羽詰まった表情で飛び込んできた。

聞けば、今夜開催される数万人規模の『地元の夏祭り』で、メインエリアをさらに盛り上げるための「目玉となる飲食ブース」の枠が一つ、直前まで空いたままなのだという。

女がバリバリと社会を動かし、男は大人しく家を守るのが普通のこの世界。お祭りの運営を仕切るのも当然、責任感の強い女性たちだ。

「今年は例年以上に祭りの活気を出したいんだよ! だけど、エリアを引っ張ってくれるようなパンチのある出店がどうしても足りなくてね。創、あんたのその確かな料理の腕で屋台を出して、お祭りにドカンと活気を注入してやってくれないかい!?」

「ええっ!? そんな急に言われても、うちの夜の営業が……」

俺――藤崎ふじさき はじめが困惑していると、背後から聞き覚えのある豪快な声が響いた。

「おいおい、商店街の盛り上げ役だってのに、創をタダでこき使おうなんて虫が良すぎるんじゃないかい?」

暖簾をくぐって現れたのは、最古参の常連でガテン系姉御肌の千草だった。

「千草さん!」

「安心しな、創。活気が欲しいなら、あんたの料理が一番だ。あたしがトラックを出して、店の鉄板もガスボンベも全部会場まで運んでやる。その代わり、商店街のババァたち! 創の屋台の売上は、出店料なしで全額創の懐に入れさせてもらうからね!」

「あ、ありがたい……! 助かるよ!」

こうして俺は、地元の夏祭りに最高の活気を呼び戻すための切り札として、お祭り会場のど真ん中へと鉄板ごと繰り出すことになったのだ。

職人の手解き:屋台の常識を覆す、目にも留まらぬ鉄板捌き

19時。お祭りは最高潮を迎え、会場は人、人、人で埋め尽くされていた。

他の屋台が「お色気系お兄さん」を看板にして客寄せをする中、俺の『食事処 藤・特設屋台』は、白シャツの袖を肩まで捲り上げた俺が、ただ黙々と巨大な鉄板に向き合っていた。

メニューはお祭りの王道にして最高峰、『特製・出汁香るお肉たっぷりソース焼きそば』。

お祭りの焼きそばといえば、大量の麺をまとめて作り置きし、ベチャッとした状態でパックに詰めるのが一般的。だが、俺のやり方は違った。

「よし、いくぞ!」

俺は千草が運んでくれた大型バーナーの火力を限界まで上げ、鉄板をカンカンに熱する。

まず鉄板に躍り出たのは、たっぷりの豚バラ肉と、ザク切りにした新鮮なキャベツ。

ジューーーーーッ!!! バチバチバチッ!

豪快な音とともに、お肉の焼ける香ばしい匂いが夜風に乗って広がる。

そこへ、あらかじめ軽く蒸して表面に香ばしい焼き目をつけた「特製の太麺」を投入。俺は両手に持った大きな鉄ヘラを、目にも留まらぬ速さで「ザカザカザカッ! シャキーン!」とリズミカルに動かし、麺と具材を空気に触れさせながら一気に煽っていく。

そのヘラ捌きに合わせて、白シャツの下で波打つ俺の逞しい腕の筋肉、額から流れる汗を拭いもせず、真剣に鉄板を見つめる男らしい横顔。

通りかかる女性たちが、その圧倒的な「職人の色気」に引き寄せられるように、次々と足を止め始めた。

「な、なによあの屋台の男の人……めちゃくちゃ格好いい……」

「料理の手際がヤバすぎる……。っていうか、匂いが他の焼きそばと全然違う!」

仕上げに、自家製の濃厚ウスターソースに醤油と「極上の和風出汁」をブレンドした特製タレを、熱々の鉄板へダイレクトに回しかける!

ジャァァァァァァァッッッ!!!

立ち上る濃厚なソースの焦げる匂いと、出汁の芳醇な香りの爆弾。

それが周囲の屋台の匂いをすべてかき消し、お祭り会場全体を支配した。

「お待たせしました! 出来立て熱々、青のりと紅生姜たっぷりの特製焼きそばです!」

祭り一番の大行列、そして熱狂の「屋台ごと拉致」宣言

「美味しい……っ!! なにこれ、今まで食べた焼きそばと全然違う……っ!」

最初に買った若い女性客が、パックから麺をひと口すすった瞬間、その場にへたり込んだ。

「麺が一本一本しっかりしてて、モチモチで全然ベチャついてない! それにこのソース、ただ辛いだけじゃなくて、奥の方からすっごい深いダシの旨味が溢れてくる……! キャベツがシャキシャキで、お肉の脂が甘い! 箸が、箸が止まらないよ……っ!」

その絶賛の声は、瞬く間に口コミとなってお祭り会場を駆け巡った。

活気不足を心配していた枠だったはずが、気づけば俺の屋台の前には十重二十重の恐ろしい人だかりができ、ついにはお祭り広場を半周するほどの「祭り一番の大行列」が形成されてしまったのだ。

「ちょっと! 私の方が先に並んでたわよ!」

「うるさいわね、私はあのマスターがヘラを振る姿を最前線で見たいのよ!」

行列は伸び続け、並ぶ女性たちの熱気で屋台の温度がさらに数度上がる。

俺は休む間もなく、何十回、何百回と重い鉄ヘラを振り続け、焼きそばを仕上げていく。逞しい腕はパンパンになり、白シャツは汗で完全に肌に張り付いていたが、俺はただ「お待たせしてすみません! すぐ作りますからね!」と、いつもの飾らないナチュラルな笑顔を向け続けた。

その、限界の中でも崩れない優しい笑顔と男らしさに、並んでいる女性たちの理性が完全に消し飛んだ。

「あぁっ、もうだめ! あの笑顔、あの腕、あの焼きそば……全部まとめて愛おしすぎるわ!」

地元のヤング女社長が、興奮で鼻血を出しそうになりながら財布から分厚い札束を取り出し、鉄板の前に叩きつけた。

「マスター……いや、お兄さん! 焼きそば1パックに100万円払うわ! だから今すぐその鉄板ごと、私の別荘に来て! 一生、私の隣でその逞しい腕で焼きそばを焼き続けてよ! 毎晩あんたの流す汗を、私が最高級のシルクで拭いてあげるから……っ!」

「いいえ、私の方がお金ならあるわ! 私のプライベートビーチで焼きそばパーティーを開きなさい! 旅費も機材も、あんたの人生も全部私が買い取る……っ!」

お祭り騒ぎに便乗した、狂乱の札束飛び交うプロポーズ合戦。

「あはは、お祭りですから、みんな熱くなりすぎですよ」

俺は本気で困惑して、照れくさそうに頭を掻きながら、冷たいお茶を行列の先頭の人たちに配って笑った。

「僕はただの定食屋ですからね。お祭りに来て、お腹を空かせた皆さんが、この焼きそばを食べて『あー、楽しかった!』って笑顔で帰ってくれるのが、一番の願いなんです。だから、誰か一人のお抱え料理人にはなれません。……ほら、後ろの人も待ってますから、熱いうちに食べて、お祭り楽しんでいってくださいね」

俺がいつものように、裏表のない無邪気な笑顔で優しくいなすと、女性たちは「うぅ……数千人の女を大行列させた挙句、その圧倒的な包容力で全員を等しく振るなんて、どこまで罪作りな男なの……っ!」と、胸を押さえて真っ赤になって悶絶していた。

女が神輿を担ぎ、男はただ大人しく見守るのが当然とされる夏の夜。

だけど、どんなに血気盛んなお祭りの女たちであっても、俺が魂を込めて鉄板で焼き上げた一皿と、飾らない素顔の前では、ただ一人の男に胃袋を掴まれ、恋に落ちる愛らしい女の子に変えることができる。

「こんな場所でも、俺にできる事は料理だけだからな」

21時半、用意した数百人前の食材がすべて完売し、お祭りの終了を告げる花火が夜空に大きく打ち上がった。

「ありがとね、創! 最高の祭りになったよ!」と、片付けを手伝いながら嬉そうに笑う千草たち常連の笑顔を見つめながら、俺は心地よい疲労感の中、賑やかな夏の夜の余韻に、いつまでも浸るのだった。







『食事処 藤』特製・出汁香るソース焼きそば(2人前)

材 料

焼きそば用中華麺(蒸し麺):2玉

豚バラ肉:150g(食べやすい大きさに切る ※お肉たっぷりが藤流!)

キャベツ:1/4個(ざく切り)

もやし:1/2袋

サラダ油:大さじ1(麺焼き用)+大さじ1/2(具材炒め用)

天かす(揚げ玉):ひとつかみ(コク出しの隠し味)

【お祭り広場を支配する特製ブレンドソース】

市販の濃厚ソース(お好みソースや焼きそばソース):大さじ4

ウスターソース:大さじ1(スパイシーさをプラス)

醤油:小さじ1(香ばしさを引き立てる)

和風出汁(顆粒を少々の水で濃いめに溶いたもの):大さじ1(★これが劇中の深い旨味の秘密!)

みりん:小さじ1(ツヤとまろやかさを出す)

【トッピング】

青のり・紅生姜・かつお節:各たっぷり

作り方

1. 麺の「焼き付け」(ベチャつかせない最大の極意)

1 焼きそば麺は、袋のまま電子レンジ(600W)で約1分温めてほぐれやすくしておきます。

2 フライパンにサラダ油大さじ1を熱し、ほぐした麺を入れます。

3 すぐに炒めるのではなく、フライパンに麺を押し付けるようにして、中火でじっくり焼き目をつけます。

4 2〜3分焼いてカリッとした焼き色がついたらひっくり返し、反対側も同様に焼きます。両面に香ばしい焼き目がついたら、一度お皿に取り出しておきます。


★マスターのこだわりポイント

お祭りのベチャッとした焼きそばと差をつける一番のポイントがこれ! 具材を炒める前に麺の水分をしっかり飛ばして焼き付けることで、後からソースを吸ってもモチモチした食感がキープされ、屋台の鉄板で焼いたような香ばしさが生まれるんだ。


2. 具材の炒め(旨味をキャベツに吸わせる)

1 【特製ブレンドソース】の材料をあらかじめ一つの器によく混ぜ合わせておきます。

2 空いたフライパンにサラダ油大さじ1/2を足し、豚バラ肉を強火で炒めます。

3 お肉からジューシーな脂が出てきてカリッとしたら、ざく切りのキャベツともやしを投入します。

4 強火のまま、お肉の旨味をキャベツに絡ませるように手早く一気に煽ります。キャベツが少ししんなりしたらOKです。


3. 運命の合体とソース焦がし

1 炒めた具材の上に、取り出しておいた麺を戻し入れ、天かす(ひとつかみ)を散らします。

2 全体をさっくりと混ぜ合わせたら、火力を最大(強火)にします。

3 混ぜ合わせておいた【特製ブレンドソース】を、鍋肌フライパンのフチから円を描くようにドバッと回し入れます!

4 ジャァァァァァッ!!!とソースが焦げる強烈に香ばしい匂いが立ち上ったら、ヘラを使って全体を豪快に、かつ素早く炒め合わせます。

5 ソースの水分が飛び、麺にしっかり味が絡んだらすぐに火を止めます。


4. 盛り付け

1 お皿に山高く盛り付け、仕上げに青のり、かつお節をこれでもかと振り、脇に紅生姜をたっぷりと添えれば完成です!


店主(創)からのワンポイントアドバイス

「焼きそばを美味しく作るコツは、とにかく『水分との戦い』。野菜を入れてからダラダラ炒めると水気が出ちゃうから、麺は先に焼いておく、ソースを入れたら強火で一気に仕上げる!これが鉄則。和風出汁と醤油を少しブレンドしたソースは、鉄板で焦げたときに信じられないくらい良い匂いがするんだよね。千草さんたちが神輿を担ぐみたいに、ガツンとスタミナをつけたいときは、大盛りご飯と一緒に炭水化物コンボでガツガツいっちゃって!」


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