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貞操逆転世界の孤高なる料理人「男ですが、路地裏で定食屋はじめました」  作者: たうやん


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第17話:若き女性エリート官僚の崩壊と、背徳の自家製おろしポン酢ガ

21時。夏の湿った夜風が暖簾を揺らす『食事処 藤』の片隅で、高級なオーダーメイドのパンツスーツを着た女性が、ネクタイを緩めて深くため息をついていた。

彼女の名前は、大河内おおこうち一葉ひとは。財務省に所属し、若くして国の予算編成を任されている超エリート官僚だ。

女が国を動かし、男はそれを内助の功で支えるのがこの世界の常識。彼女は「一円の妥協も許されない」国家予算の重圧と、派閥争いの板挟みに遭い、連日の徹夜で心身ともに限界を迎えていた。ストレスのせいで自律神経はボロボロ、高級料亭の接待料理さえ砂を噛むような味にしか感じられなくなっていた。

「……もう嫌。数字も、答弁書の作成も、根回しも……全部放り出してしまいたい」

冷え切った声で呟き、眼鏡を外して目元を押さえる。

「いらっしゃいませ。……うわ、目の下にものすごいクマ。大丈夫ですか?」

俺――藤崎ふじさき はじめが、すかさず冷たいお水と、お腹に優しい温かい麦茶を同時に差し出す。

一葉はハッとして顔を上げた。いつも彼女の周りにいる男たちは、出世の道具として媚びを売ってくるか、夜の付き合いのために着飾ったエリートばかり。だが、俺の目はただ純粋に、目の前の「限界まで働いてボロボロになった一人の女性」を心配していた。

白シャツの袖を捲り、冷たい水で一気に顔を洗って「よし!」と気合を入れる俺の姿。実直に店を切り盛りしてきた、男らしくもどこか安心感のある佇まいだ。

(なんなの、この男……。私の肩書きを知っても態度が変わらない。それどころか……どうしてそんなに、実家のような安心感のある顔で笑うのよ……)

「……マスター。私、もう何が正しくて何が美味しいのかも分からないの。私のこの、官僚組織にすり潰された心と胃袋を、ガツンと叩き起こすようなものをちょうだい」

国家の頭脳が漏らした、切実な悲鳴。

俺は「任せてください。一発でシャキッとさせますからね!」と頼もしく笑い、鶏肉の塊を冷蔵庫から取り出した。

メニューは、限界の身体に本能的な飢えと活力を呼び覚ます、『特製・ガツンとジューシー!自家製おろしポン酢のガツ盛り唐揚げ定食』だ。

職人の手解き:その手際は、予算編成よりも正確に

一葉は、厨房で無駄なく、しかし男らしくダイナミックに動く俺の姿を、吸い寄せられるように見つめていた。

俺は新鮮な鶏もも肉を、通常よりも一回り大きい「ガツ盛りサイズ」に手際よく切り分ける。

醤油、酒、おろしニンニク、おろし生姜、そしてほんの少しの隠し味を加えた特製ダレに、肉をガシガシと力強く揉み込んでいく。揉むたびに引き締まる俺の腕の筋肉に、一葉の目は釘付けになり、のぼせるように頬が熱くなっていく。

片栗粉を薄く、均一に塗し、180度の熱い油へ次々と投入する。

バチバチバチバチッ!!!ジューーーーッ!!!

豪快な音が店内に響き渡る。と同時に、ニンニク醤油の香ばしい匂いと、お肉が揚がる油の匂いが湯気とともにブワッと広がった。一葉の鼻腔を容赦なく突き抜け、彼女の喉が自然とゴクリと鳴る。

「仕上げに、これをたっぷりね」

俺はカラリと揚がった黄金色の巨大な唐揚げを、山盛りの千切りキャベツの上に高く積み上げていく。

そしてその頂点に、直前にすりおろしたばかりのみずみずしい大根おろしをこれでもかと乗せ、刻んだ万能ネギを散らし、自家製の特製カボス生ポン酢をドバドバと回しかけた。

ジュワァァァ……と、衣がおろしポン酢を吸う最高の音が響く。

「お待たせしました! おろしポン酢唐揚げ定食、ご飯大盛りです! 遠慮しないでガブッといっちゃってください!」

エリート官僚の理性の崩壊、そして「国家予算」プロポーズ

目の前に現れたのは、まるで要塞のようにそびえ立つ、おろしポン酢まみれの巨大な唐揚げ。

一葉は理性の眼鏡をテーブルに置き、箸で重たい唐揚げを一つ掴むと、大きな口を開けて思い切り齧り付いた。

サクゥゥゥッ……じゅわあああぁ……っ!

「――ーーーっっっ!!!!」

一葉の脳内で、国家予算の何百倍もの価値がある劇的な経済効果(旨味の爆発)が起きた。

「美味しい……っ!! 身体の細胞が、一斉に歓喜の悲鳴を上げているわ……!!」

彼女はなりふり構わず、高級料亭では絶対に許されない勢いで、唐揚げを咀嚼し、タレの染みた大盛りご飯を猛烈にかき込み始めた。

「衣は驚くほどサクサクなのに、中から鶏もも肉の凶暴な脂と肉汁がジュワッと溢れ出してくる……! なのに、この大量の大根おろしと、カボスの酸味がきいた爽やかな生ポン酢のおかげで、信じられないくらいサッパリ食べ進められるわ! ニンニクのパンチとお酢の酸味……完璧な法案バランスだわ……! ああ、だめ、食べる手が止まらない……!」

食べるごとに、冷徹なエリート官僚の仮面がバラバラに崩壊していく。

気づけば彼女の白い肌はポッと赤くなり、潤んだ瞳でハァハァと熱い吐息を漏らしながら、俺のことを激しく、狂おしいほどの眼差しで見つめていた。

大盛りご飯と大量の唐揚げをすべて胃袋に収め、ぷはぁ、と完全に野生に返ったような溜め息を吐いた一葉は、ガタッと立ち上がり、カウンター越しに俺の両手をがしっと掴んだ。その手は、驚くほど強くて熱い。

「創さん……っ! 財務省なんて、国なんてどうでもいいわ! 私は今日限りで官僚を辞める!」

「ええっ!? お、大河内さん!?」

「私のこれからの頭脳は、日本の予算のためじゃない、毎日私にこんなに最高に元気が湧くご飯を作ってくれる、創さんの『家庭の予算編成(お財布管理)』のために使うの! だから……お願い、私と結婚して! 国家予算の数十兆円は動かせないけど、私の個人資産の数億円なら今すぐ貴名義の口座に振り込めるわ! 貴方は何も心配しなくていい、私が一生、貴方を最高級の特等席で養ってあげるから……っ!」

日本の未来を担うトップエリートが、一人の定食屋のあんちゃんに完全にメロメロになり、全財産を提示してプロポーズしてくる。

「あはは、数億円なんて僕には使い切れませんよ」

俺は本気で困惑して、照れくさそうに頭を掻きながら笑った。

「僕はただの定食屋ですから。大河内さんみたいに、国のために戦ってボロボロになった人が、うちのご飯を食べて『よし、明日も頑張るか!』って笑顔になってくれるのが、一番の報酬なんです。だから、誰か一人のものにはなれません。……でも、もしまた書類の山に押しつぶされそうになったら、いつでもサボりにきてください。また、山盛りで作って待ってますから」

俺がいつものように、飾らないナチュラルな笑顔で優しく語りかけると、一葉は「うぅ……そんな無邪気な包容力で私の完璧な提案を却下するなんて、どこまで罪作りな男なの……っ!」と、胸を押さえて真っ赤になって崩れ落ちてしまった。

女が国家の命運を握り、男はただ大人しくその庇護下に入るのが当然とされる世界。

だけど、どんなに冷徹な日本の頭脳であっても、俺が心を込めて作った一皿と、飾らない素顔の前では、ただ一人の男の腕の中に飛び込みたい、愛らしい女の子に変えることができる。

「こんな世界でも、俺にできる事は料理だけだからな」

冷たい麦茶を淹れ直しながら、俺は「日本のこと、よろしくお願いしますね」と、すっかり心も身体も満ち足りたエリートの輝きを取り戻し、何度も愛おしそうに振り返りながら帰っていく彼女の背中を、夜の路地裏でいつまでも温かく見送るのだった。







『食事処 藤』特製・おろしポン酢ガツ盛り唐揚げ(2人前)

材 料

鶏もも肉:2枚(約500〜600g ※ガツ盛りサイズ!)

大根:1/4本(おろし用)

万能ネギ:4〜5本(小口切り)

片栗粉:適量(衣用)

揚げ油:適量

【限界突破のガツンと下味】

醤油:大さじ2

酒:大さじ1

おろしニンニク:1片分(たっぷり!)

おろし生姜:1片分

ごま油:小さじ1(コク出し)

塩・コショウ:少々

【創特製・カボス香る自家製生ポン酢】

醤油:大さじ3

カボス果汁(またはレモン、ゆず、市販のポン酢でも可):大さじ2

みりん:大さじ1

和風出汁(顆粒を少々の水で溶いたもの):大さじ1

作り方


1. 肉のカットと下味(ジューシーに仕上げる基礎)

1 鶏もも肉は、揚がったときに肉汁をしっかり閉じ込めるため、通常より一回り大きめの「ひと口大」(1枚を5〜6等分)に切り分けます。

2 ボウルに鶏肉と【ガツンと下味】の材料(醤油、酒、おろしニンニク、おろし生姜、ごま油、塩・コショウ)をすべて入れます。

3 手で揉み込むようにして、肉が調味料の水分を完全に吸い込むまで、1〜2分しっかりガシガシと揉みます。

4 そのまま室温で約15〜20分置き、味をしっかり馴染ませます。


2. 薬味の準備(劇中の爽やかさを再現)

1 鶏肉を寝かせている間に、大根の皮をむいてすりおろします。

2 すりおろした大根は、ザルに上げて「優しく自然に水気を切る」くらいにしておきます。


★マスターのこだわりポイント

大根おろしをギュッと絞りすぎてしまうと、みずみずしさと甘みが消えてパサパサになってしまいます。水分が少し残るくらいにしておくことで、後からかける特製ポン酢と合わさって、唐揚げの衣にじゅわっと最高に染み込むようになります。


3【自家製生ポン酢】の材料を小さな器にすべて混ぜ合わせ、万能ネギは小口切りにしておきます。


3. カラリと揚げる(サクサクの要塞)

1 味を馴染ませた鶏肉に、片栗粉をたっぷりと塗します。余分な粉はしっかり叩き落としてください。(これが薄衣でサクサクにするコツです)

2 フライパンに揚げ油を深さ2〜3cmほど入れて170〜180度に熱し、鶏肉を静かに入れます。

3 最初の1〜2分は衣が固まるまで触らず、その後ひっくり返しながら、計4〜5分じっくり揚げます。

4 最後に火力を強めて油の温度を少し上げ、衣がキツネ色になってカラッとしたら引き揚げて、しっかり油を切ります。


4. 盛り付け(背徳のガツ盛り)

1 お皿に千切りキャベツ(分量外・たっぷり)を敷き、その上に揚げたての巨大な唐揚げをゴロゴロと山高く積み上げます。

2 唐揚げの頂点に、水気を軽く切った大根おろしをこれでもかと贅沢に乗せます。

3 刻んだ万能ネギを全体に散らし、食べる直前に【自家製生ポン酢】を上からドバドバと豪快に回しかければ完成です!


店主(創)からのワンポイントアドバイス

「唐揚げをジューシーにするコツは、肉を大きめに切ることと、下味の段階で水分をしっかり肉に吸わせること。ニンニクが強めにきいてるんだけど、直前にすりおろした大根おろしと、カボスのきいた生ポン酢を合わせることで、いくらでも食べられちゃう悪魔の味になるんだよね。一葉さんみたいに、毎日プレッシャーと戦って自律神経がボロボロになっちゃった時は、このおろしポン酢唐揚げを大盛りご飯と一緒にガブガブッといって、本能のままにお腹を満たしてほしいな!」

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