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彼の国(かのくに)  作者: 春の雪
 第二章 彼の国にて

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第9話 忍具店で

 二人が店内に入って行くと、スッと影のように男が近寄って来た。

 「いらっしゃいませ時宗様。」

 「邪魔するで。最初にこっちの1、2階でこの子の物を買う。わしの弟子になった子や。」


 影は一瞬目を見開いて雪野を見て、

 「いらっしゃいませ。これからご贔屓(ひいき)に。」と言った。


 「柳生雪野と申します。よろしくお願いします。」

 雪野が丁寧にお辞儀をすると影はかすかに表情を緩めて時宗の方を向き、

 「忍具からですか?衣類から?」

 「忍具からやな。」時宗は答えて、慣れた感じで左側のコーナーに向かった。


 細長いコーナーの壁にはキルクのようなボードが貼られており、そこに長い釘がたくさん刺してあり、短剣やクナイ、手裏剣といった投擲とうてき忍具が所狭しと掛けてあった。


 時宗が何本かのクナイを手に取ると、影がスッとカゴを差し出した。

 時宗はクナイの他にも手裏剣や短剣、それらを入れておくホルスターのような物も入れた。


 「とりあえずこれを試してみよか。」時宗が言うと、影はカゴを持って奥に向かって歩き出す。

 時宗と雪野もその後について行く。


 細長いコーナーを二つ抜けて行くと、その奥に黒い分厚いカーテンで仕切られた倉庫のような部屋があった。


 そこは先ほどのコーナーの倍の幅があり、奥行きも長かった。

 

 部屋の真ん中辺に大きなボードが立ててある。ボードにはよく見る何重かの円の(まと)が描かれている。


 時宗は入り口近くの小さなテーブルの下に自分のリュックと雪野のリュックを置いた。


 影は先ほど時宗が武具を入れたカゴをテーブルの上に置いて、自分は少し後ろに下がった。


 時宗はカゴの中のクナイを1本雪野に渡し、自分もマントの中から自分のクナイを出した。


 「これはクナイと言う武具で、攻撃、防御の他にもいろいろ使える。

 持ち方も投げ方もいろいろあるけど、とりあえず基本的な持ち方、投げ方からな。」


 そして自分の手の上にクナイを乗せて見せて、ゆっくりと指をかけた。

 雪野も同じように持ってみた。


 次に時宗は肘から先をゆっくりと折って、伸ばすのと同時にクナイを離した。


 クナイは、よく見えないほどの速さで飛んで、部屋の真ん中のボードの的の中心に刺さった。


 雪野は目を丸くして息を飲んだ。

 クナイの投げ方など全く知らない雪野でも、今のが理想的な手本となる投げ方だとわかるほど美しい投げ方だった。


 「やってみ。」と言われて雪野は困った顔をしながら時宗が投げたように投げてみた。


 ヒョロヒョロと飛んだ割にボードまで届いて、丸い的の少し上に刺さった。

 雪野は、ちゃんと飛ぶとは思ってなかったので驚いて嬉しそうな顔をした。


 「投げ方はそれでええ。今度はこれを投げてみて。」そう言って別のクナイを渡した。


 先ほどのより少し軽かった。雪野が同じように投げてみると、的には近くなったが、刺さらずに当たって落ちてしまった。


 そうやって重さや大きさが少しづつ違うクナイを何本か投げているうちに、持ちやすい大きさ、しっかり刺さりやすい重さなどがわかってきた。


 同じようにして手裏剣や短剣も試し投げをしてみた。

 だんだん腕がしびれて動かなくなってきたが、雪野は頑張って投げ続けた。

 

とうとう手裏剣が頭の上や後ろに向かって飛ぶようになってきたところで時宗が止めた。


 「二百本、三百本、続けて投げられるくらいの体力はつけんとな。」と、時宗が言った。

 雪野は冗談かと思って時宗の顔を見上げたが、時宗は眉間にシワを寄せて真面目な顔をしていたので雪野も慌てて眉間にシワを寄せて、

 「はい。」と頷いた。


 時宗は、重さや素材の違う何種類かのクナイや手裏剣を、数を指定しながら影に渡した。

 他にもウエストホルスターやレッグホルスターも渡した。

 

 影はそれらを先ほどとは別のカゴに入れて、ベストのポケットから取り出した端末に品番と数を打ち込んだ。


 「さて、次は忍衣やな。2階に行くで。」

 影はカゴを持って、

 「かしこまりました。」と言って、先ほど入って来た入り口のカーテンを開けた。


 「そっちやない、裏からや。」時宗が言うと、影は、

 「えっ⁈」とひどく驚いて立ち止まった。

 「外階段に出るのですか?」

 「違う、外階段を教えて内階段を上る。」


 「……かしこまりました。」

 影は今行きかけたのと逆の、部屋の奥に向かって歩いた。


 奥の壁にも黒いカーテンが掛かっており、影はそのカーテンを開いた。

 そこは石膏ボードの壁になっており、影はカーテンの裏に手を入れて何かを引っ張ったように見えた。


 すると、石膏ボードの壁の一部が動いた。

 時宗は雪野に、

 「この的の真ん中から真っ直ぐの所でカーテンが二つに分かれとる。

 そして左側のカーテンが二重になっとる。

 その、奥側のカーテンをしっかりつかんで思いきり下に引く。

 するとこの石膏ボードの壁が横に開く。やってみて。


 影、外から閉めてくれるか。」

 「かしこまりました。」

 影は開いている壁の所から外に出て、外から壁を閉めた。


 雪野は時宗に言われたように、的のボードの真ん中からカーテンの所まで真っ直ぐに歩き、カーテンの裏側に手を入れた。


 「そんな、どうやって開けるか分かるようにやったらあかん。

 自分がカーテンの後ろに隠れてから引くんや。」

 「はい。」


 雪野はカーテンを合わせて隠れ、影がやったように2枚ある側のカーテンを1枚強く下に引いた。


 壁の一部が横に開いた。雪野はカーテンの間から顔を出して得意げに時宗を見た。

 

 「そんな嬉しそうにこっちに顔出したらあかんやろ。

 開いたら即座にそっちに抜けて閉めるんや。」

 

 時宗は雪野の肩を押すようにして自分もスッと外に出た。

 「出たらすぐ閉める。」そう言って時宗は開いた壁に付いているボタンを押した。するとすぐに壁が閉まった。


 「何でわざわざこっちから出るのかを考えるんや。誰かに追われてるとか、見つからんように移動せなあかんとか、想像して動くようにな。」


 「はい。」

 「この作りは1階から4階まで同じ作りになっとるから覚えときや。よし、先に進むで。」

 「はい。」


 壁の出口からは真っ直ぐ垂直方向と、壁に沿って右方向に進むニ方向の通路があった。

 通路は暗かったが、影が壁の下の方のボタンを踏むと天井の灯が点いた。


 「この垂直方向の通路を行くと立体駐車場とわしらが車を駐めた平地の駐車場の間に出る。裏口と呼んどる出口や。


 裏口の手前には、裏口に出ずに地下に降りる階段もある。

 地下には駐車場に向かって右方向、つまり平地の駐車場に沿って行く方向に地下通路が通ってる。かなり長い通路や。


 平地の駐車場の横を通って道を渡ったところまで続いていて、道の向こうの建物の地下に通じとる。その建物は忍具店の倉庫ということになっとる。

 今日は行ってる時間がないけどな。」


 方角音痴の雪野は頭の中に描いた地図が正しいという自信はなかったが、真面目に頷いた。


 「今日はこっちの通路や。一緒に行ってみるで。」

「はい。」


 雪野は二人の後について右へ向かう通路を歩いて行った。少し行くと奥に階段が見えてきた。

 こちらから見えているのは階段の横の面、つまり手すりの面で、昇り口は左に曲がった方にあるようだ。

 

 思った通り、階段の手すりにぶつかった所で左に曲がると少し行ったところから上に昇るようになっていた。


 階段を昇り、2階の店内に続く踊り場に立つと、左側の壁に人1人が通れる鉄扉があった。

 時宗が階段の手すりの裏側のボタンを押すと鉄扉の鍵がはずれたようで、外に押すと重い扉がゆっくりと開いた。


 時宗に促されて扉の外を覗いて見ると、そこは外階段の踊り場になっていた。

 かなりの長さのある踊り場で、急に扉を開けても降りて来る人や昇って来る人にぶつかることがないようにできていた。


 「この忍具店は地下1、地上5階建の建物や。

 1階から3階が店舗、4階が事務所、地下と5階が警備部になっとる。


 この外階段は地下から屋上まで通ってる。

 ただ、手すりがフルサイズやから外から入ったり、階段の途中から外に出ることは、仕掛けを知る人間にしかできへん。


 また詳しく教えるけど、今日はとりあえず買い物や。2階にはいるで。

 さっきの逆で、ボードの壁を開けてカーテンの裏に入る。行くで。」

 「はい。」



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