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彼の国(かのくに)  作者: 春の雪
 第二章 彼の国にて

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第8話 忍具店へ


(1)

 部屋に戻った雪野はサンドイッチを食べ過ぎたことを後悔しながら外出着に着替えた。

 幸い、Tシャツにジャンパースカートという()()()()だったのでボタンが止まるかどうかで苦しむことはなかったが、車の乗り降りでうっかりドッコイショなどと言わないように気をつけなければ、と自分を戒めた。


 それから買ってもらいたい文房具をもう一度確認して、少し早めにリュックを背負って部屋を出た。


 玄関でスニーカーを履いたところで時宗が現れた、と思ったらあの編み上げ草鞋(わらじ)を履いて立っており、下駄箱にはスリッパが入っていた。


 時宗の履き替えを見ようと、いい位置に立っていた雪野はひどくがっかりした。


 雪野が自分の足元を見てがっかりした表情をしたのに気付いた時宗は声を上げて笑った。

 「すまんな。見学希望者がおるんやったらもう少しゆっくり履くんやったな。習慣でな。」

 雪野が赤くなって、

 「いえ、またの機会に…。」と言うと時宗は笑いながら

 「ほな行こか。」と言ってマントの中からキーを取り出した。


 「昨日も少し言ったけど、この扉は中からも外からもこの鍵がなかったら開けられへん。


 今朝みたいに君が中におってわしが外におるような時に絶対に無理に扉を開けようとせんようにな。警報が鳴って警備隊が飛んで来るからな。

 禁域内で鍵でも壊したら器物損壊では済まんからな。」

 「はい。」


 時宗はキーをかざして扉を開けて外に出た。

 雪野も慌てて時宗に張り付くようにして出た。


 外から鍵をかけた時宗は雪野に、

 「扉に触れてみ。」と言った。

 雪野がそっと触れると低い警報音が鳴る。時宗がキーをかざすと止まった。


 「次、足元見て。タイルの横の土の上、踏んでみて。」

 雪野が土の上に立つと、先ほど扉に触れた時より高くてせわしない警報音が鳴る。また時宗がキーをかざすと鳴り止む。


 「わしらが鉄柵の外に出て鍵をかけたら、その時からはタイルの上を踏んでも警報が鳴るようになる。」


 「凄いんですね。金山とか銀山とか何かみたいですね。」

 「それに匹敵するような薬草もあるからな。」

 雪野は目を丸くした。



 二人は駐車場へ下りて行った。

 昨夜は暗くて、外灯が点いた所しかよく見えなかったが、今は森の中の道がよくわかった。


 山に入った所から駐車場までは細い土の階段道と、簡単に舗装した車道が平行に通っており、駐車場からラボの鉄柵までは土の道だけが通っている。


 そして駐車場も鉄柵に囲まれている。

 中に入ると、昨日の車の他に軽トラックと、二人乗りの軽自動車、バイクが駐めてある。


 

 雪野は、時宗がバイクに乗っているところを想像して胸をときめかせた。


 「バイクは危ないからやめとき。」

 雪野はドキッとしたが、どうやら時宗は雪野がバイクに乗りたがっていると思ったらしい。


 いつもは雪野が思っていることを当ててしまう時宗だが、今回は外れたようで雪野は思い切りホッとした。



 「さ、行くで。」

 二人は車に乗り込んで出発した。


 山を出て30分ほど行くと賑やかな道に入った。縦横に商店が並び、歩道は人があふれている。


 「凄く大きな商店街ですね。」

 「市内で一番大きな商店街や。特に土日は人が多い。」

 雪野は目を輝かせて窓の外を見た。

 

 「いつも買い物はどないしてるんや?」

 「まだこちらに来て10日ほどですし、小菊様が必要な物を揃えておいて下さったので、アカデミーの近くのスーパーを覗いて見たくらいです。」

 「そうか。まあ、あそこでも食材と日用品は揃うしな。」



 大通りを少し行って曲がると大きな立体駐車場があった。その裏に広い空き地のような駐車場もあり、時宗は平地の方に車を駐めた。


 「立体駐車場は何かあった時、逃げるのがたいへんやからなるべく平地に駐めるんや。」と言ってシートベルトを外した。


 二人は降りて、それぞれのリュックを背負った。そして立体駐車場の横を通って大通りに戻った。

 

 少し行くと『中央忍具店』という古い木の看板が掛かっている店の前に立った。



(2)

 「ここがこの国で一番大きな忍具店や。だいたいの忍具が揃うし、注文もできる。」

 「入り口だけ見るとそんなに大きく見えませんが奥に細長いのですか?」

 「細長いスペースが集まって広いんや。まあ入ったらわかる。

 それより、ここは国内外の諜報員がたくさん出入りしてるから気をつけや。」


 サラッと怖いことを言われたが、雪野はどう気をつければよいのか分からず、とりあえず時宗のマントの端を握った。


 時宗は思わず吹き出して、

 「いや、それもええけど、ずっとそうしてる訳にもいかんやろ。」

 

 雪野は慌てて手を離して泣きそうな顔をした。

 「気をつけると言うのは、人が近寄って来たら距離を取るとか、自分がおる所が店のどのへんで、何かあったらどっちに逃げるかをいつも意識しとくとか。あと、人を顔だけで判断せんようにな。」


 雪野はとりあえず頷いたが、そんなに怖い所なのかと、楽しいお買い物気分が一気に冷めた。

 


 



 

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