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彼の国(かのくに)  作者: 春の雪
 第二章 彼の国にて

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第10話 潜む敵

 時宗は2階の売り場に入る前に影に、

 「ありがとうな。ここまでで大丈夫や。」と言った。

 「では自分は()()におりますので品物が揃いましたらお声かけ下さい。」

 そう言ってスッと消えた。

 

 雪野はキョロキョロしたが、時宗が売り場に入って行ったので慌てて後を追った。


 「時宗先生、ご無沙汰してます。」

 今度は静かな女性の声がして、影と同じような黒っぽい衣装を身につけた若い店員が横に立った。


 「ここは付いててもらわんでええのに。」と、時宗が言うと、

 「ですが先生に女性下着を(あさ)って、いえ…探していただく訳にはまいりませんので。」

 「ぷっ…言い方やな!」時宗は吹き出したが、

 「まぁええ。わしの弟子になった子や。仲良くしたって。」

 

 雪野がいつものように自己紹介をして、丁寧にお辞儀をすると、

 「こちらこそ、これからご贔屓に、よろしくお願いします。私は…えーと…」と困ったように言って時宗を見た。


 時宗は、

 「雪野、この店の店員は自分の名前は表に出さへんのや。

 

 男は影、女は影子と呼ぶ。その後に番号が付くんや。こいつは影子12、さっきのは影の3番や。


 ただ、番号を付けるのも他の店員に呼び出してもらうような時だけな。」


 「はい。影子さん、よろしくお願いします。」

 影子もホッとしたように、

 「改めまして、よろしくお願いします。」と言った。


 「今日は雪野の忍衣一式を揃えてやってほしいんや。

 忍衣は全く何も持ってないし、訳あってほとんど着の身着のままで先週この国に来たんで他の服もほとんどない。

 これからの季節の物一式と、普段着にも使える物は多めに頼む。」


 「承知しました。」

 

 「ほな、わしは男性下着でも(あさ)っとくから何かあったら呼んで。こいつから離れんようにな。」


 このフロアは1階のように細かく仕切られてはなく、真ん中のボードで男性用衣類と女性用衣類のコーナーに分かれているだけだった。


 時宗は先ほど入って来た階段の所に出て、スッと気配を消した。

 眼を閉じて神経を集中させる。

 それから店内に索敵(さくてき)をかけた。


 忍具店に入った時から、この国の(しのび)ではない忍の気配を11人(とら)えていた。

 

 そのうち4人は友好関係にある国の者で、よく知っている忍だった。時々フラッと遊びに来て新しい忍具などを買って行ったりする。


 しかし、あとの7人は敵対する国の忍で、名前も顔も確認済みではあるが、A級の敵であった。


 SS級が発見次第捕獲もしくは殺害、S級が捕獲、A級は危険行為や怪しいところがあれば捕獲という対象であり、相手もそれを知っているので、7人もまとまってこの忍具店に入り込むなど、普通ではあり得ないことだった。


 時宗が()で見たところでは、4人は1階で忍具や、忍具のパンフレットを見ながら周りに視線をめぐらせていた。


 あと3人は、3階の靴.鞄売り場に2人、2階の男性用衣類売り場に1人にいた。


 ―まとまってれば一気に捕らえられるけどちょっと面倒やな…

 時宗は舌打ちをした。


 土曜日の午後で、店内は混んでいる。

 影が地下に降りてからは新たな客は入れてないはずだが、まだ1階には10人以上、2階3階にもそれぞれ5人以上の客がいる。


 1階の4人の敵は脅せば自分達から出て行くだろう。

 しかし、2階3階の3人は逃げ切るために人質を取ろうとするかもしれない。


 のんびり買い物をしているであろう雪野を思い浮べると、やはり裏で待たせておくべきだったかとも思った。


 しかし、雪野が、目の前に見えてない所で起こっていることをどれだけ感じ取れるかも知りたかった。


 相手がこの7人なら雪野に気付かせずに制圧できるだろう。

 この忍具店の店員は皆、選び抜かれた(しのび)達だ。


 そして、ここでウロウロしている敵の諜報員を捕えるのも日常茶飯事だ。


 先ほど1階から移動する時影に、

 「外階段を見せて内階段を上がる。」と言ったのは、外を固めて中で捕える、という意味だった。


 地下の警備部に行った影は既に外に警備の忍達を配置し終えているだろう。


 おそらく今は客を減らしているのだろう。

 客と言っても忍具を買いに来るのはほとんどが忍なので何人かは、

 「1時間ほど外に出てほしい。」と言えば何も聞かずに出てくれるだろう。


 ただ、あまり急に誰もいなくなると敵に気付かれる。私服警備員と入れ替えて、相手が、おかしい、と気付くと同時に捕えるくらいが理想だ。


 時宗は一旦5階の警備部に上がった。

 

 「状況は?」

 「時宗様。いつでも大丈夫です。」


 時宗は店内カメラの画面を見た。

 1階は敵4人の他は私服を着た若い警備員が4人…理想的状況。


 2階は敵1人と私服警備員2人……雪野と影子は?

 影子が独断で裏に連れて行くほどの状況ではない。3階か?


 3階のカメラを見ると、いた。

 2階の買い物がよほど早く終わったのか3階の靴売り場にいた。


 3階には、雪野と影子、敵の2人、私服警備員が2人。

 

 しかし、位置が悪い。敵2人が真ん中にいて、向こうに警備員2人、こちら側に雪野達。

 

 しかも敵の1人は手を伸ばせば雪野に届きそうだ。


 「周りに気をつけろて言うたやろ…。」

 だが雪野は壁に掛かっている商品に釘付けになっている。


 時宗はズームを寄せて商品を見て頭を抱えた。

 ()()草鞋(わらじ)だった。


 時宗の周りで一緒にカメラを見ていた警備隊員達は目を見張った。

 時宗迅が頭を抱えるところなど見たことがなかった。

 

 爆弾でも掛かってるのか?

 皆、顔を寄せてカメラを見たが、いつもここに掛かっている編み上げ草鞋にしか見えない。


 画面の中で雪野が動いた。

 自分のサイズが見つかったのか編み上げ草鞋の1つを手に取った。

 

 影子に渡すと、影子は少し離れた所に置いたカートのカゴに入れようと数歩動いた。


 「まずい!」時宗が舌打ちした。

 敵2人が雪野と影子の間に入った。

 


  雪野は急に人が目の前に来たのでびっくりしたが、

 「すみません。」と言って避けた。

 ぼんやりと白と黒の組み合わせの服だと感じたが、よくわからなかった。


 とりあえずその人を避けて棚の方に戻ると、後ろから

 「お客様!」と声をかけられた。

 

 振り向くと影子が慌てた顔をしている。

 「下で何かあったようです。急いで非常口から逃げてください。」


 雪野はうろたえた。

 ―非常口ってカーテン裏ってこと?

 他のお客さんもこんな近くにいるのに?まさか一緒に?


 「お客様、急いで!」

 雪野は強い違和感を感じた。


 自己紹介をしてから今までずっと雪野様とか、雪野さんと呼んでいたのに急にお客様?しかも裏口に行けと?


 この人は誰?

 


 


 

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