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彼の国(かのくに)  作者: 春の雪
 第三章 アカデミー

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第34話 それぞれの事情 1

(1)

 「すまん。驚かせたか。

 夕波秋光はわしの師匠の友人でな。師匠と一緒に家に呼ばれたこともある。

 

 その時に娘も一緒に飯食ったから、わしが見たらわかったかもしれんな。

 まぁ3才と18才ではだいぶ変わってるやろけどな。」


 雪野は先ほどの時宗の硬い声が気になったが、あれこれ訊く立場でもないと思ったので黙っていた。


 「夕波秋湖は父親のことは何か言ってたか?」


 「元々こちらに居て、15年年遠くのアカデミーに行っていたと。」


 「そうか。何か君のことを聞かれたとかは?」


 「いいえ。4人で話したのは将来やりたいこととか、好きな男の子のタイプとか、好きな食べ物とか、好きな音楽とか…。」


 「………そうか。楽しそうでよかったな。」


 「あの…秋湖ちゃんに何か問題でも?」


 「……秋湖にも問題があるかどうかはまだ分からん。

 

 しかし、父親に会ったら絶対に目を見るな。体に触れるな。どんな理由をつけても逃げてわしに連絡しろ。

 相手がアカデミーの教員やという遠慮は一切するな。」


 雪野は驚いてポカンと口を開けて時宗を見た。


 秋湖に(・)も(・)問題があるかどうかは分からない、と言うことは父親には何かあることは確実だ。

 しかも雪野に害を為すようなことが。


 雪野は秋湖の笑顔を思い浮かべた。

 思ったことをズバズバ言い過ぎるところはあるが、悪意や陰湿さは感じられない、真っ直ぐな性格だと思う。


 雪野はさっきの鮮やかな楽しい時間が急に色を失ったように感じて涙ぐんだ。慌ててポーチからティッシュを出して涙とハナ水を拭いた。


 鼻の先を赤くした雪野の顔を見て、

 「すまん、もっと順を追ってゆっくり話すんやったな。」

 時宗はそう言って雪野の頭を撫でた。


 雪野はズビっとハナをすすって、

 「いえ、私は小さい子供じゃありません…そんなお気遣いは…ズズっ、必要ありません。」


 「ぷぷっ、そうか。ほな、自分でハナかめるか?はい、チーンして。」

 時宗はティッシュを雪野の鼻に当てた。


 雪野はムスッとしてティッシュを取り、自分でハナをかんだ。

 「秋湖ちゃんのお父さんは精神医学の専門医と言っていました。

 もしかして、精神干渉系の危険な術を使うとか?」


 「驚いたな!ハナったらしの子供かと思ったら、自分でハナもかめるし、そんなこともわかるんか!」


 「先生、ご自身は何歳まで人にハナをかませてもらってたんですか?」


 「わしは生まれた時から自分でかんでたで。」


 雪野は吹き出したが、何となく時宗ならあり得る気がして否定できなかった。


 「まあ、夕波秋光のことは美春も危ないし、ちょっと小百合ばあさんとも相談してみよ。

 秋湖も医者志望なんか?」


 「いえ、秋湖ちゃんのお母さんは弁護士で、彼女もそっちを志望してると言ってました。」


 「母親も一緒に戻って来たんか?」


 「いえ、今勤めてる弁護士事務所との契約が1年残ってるので来年戻って来るそうです。


 秋湖ちゃんは高等科後期に進学する時だったからお父さんと先に戻って来たとか。」

 「なるほどな。」


 そこで中央棟地下の駐車場に入ったので話は中断した。

 車を降りて1階に上がり、雪野は受付を済ませ、二人は奥の廊下沿いに並ぶ面談室の一つに入った。

 


(2)

 その部屋には小さめのテーブルと折りたたみの椅子が4脚あった。

 時宗は奥側に座り、雪野は扉の側に座った。


 時宗はテーブルの上に2つの箱を置いた。

 「こっちは電話回線が繋がるだけでネットには繋がらん。


 これは君と、わし、影5、影5X、つまり君にガードが付く時のその担当と、あと、中央棟の幹部執務室の、いつも小菊が座ってる机の電話に繋がる。

 その5つの番号にしかつながらん。

 

 メールは電話回線で短文やったら送れる。


 これは、まぁ言ったら護身用や。」

 「はい。」


 「番号は君が0、わしが1、影5が5、護衛が6、幹部執務室が9や。」

 「はい。」


 「もう1つ、こっちのスマホは普通にネットにも繋がるし、多分君が和の国で使ってたのと同じようなものや。」

 「はい。」


 「ただ、この2つは中央棟から君に貸与する物や。

 スマホの方は、いろいろ検索したりアプリを入れることもできる。

 

 しかし、メールも含めて全て中央棟の管理下にある。

 検索した内容も送受信したメールの内容も全部中央棟の通信管理室が把握することになる。」

 「はあ……」


 「あと、他にアカデミーからタブレットを貸与される。

 休講を含む連絡事項や、時間割が決まり次第必要な科目のレポートの内容などもそこに送られる。

 もちろん資料や授業内容を入れて使ってもいい。」

 「はい。」


 「その3つは君の物であって君の物ではないことを承知しておいてほしい。」

 「はい。」


 「他にも君が自分で好きに使う携帯を買うことはできる。

 君は未成年やから契約に保護者の同意が必要やけど、わしが保護者になってるから、いつでも買いたい時に言って。」

 「はい。」


 「それは使い方は自由やし、何か事件にでも関わったりせん限り干渉されることはない。」

 「はい。」


 「そしたらこれを使ってみよか。」

 時宗はそう言って1つ目の箱から携帯を出して雪野に渡した。

 

 自分もマントの中から同じ電話を出し、0を押した。

 雪野の携帯が鳴る。雪野がOKボタンを押すと

 「聞こえるな?」と、時宗の声がする。

 「はい。」と答えると、時宗の携帯から雪野の声が漏れる。


 「1回切って、そっちからかけて。」

 雪野は一旦切って、少しおいて1を押した。

 

 時宗の携帯が鳴る。

 「大丈夫やな。」という声が聞こえて切れた。

 雪野はドキドキしながら切った。


 「この携帯にはGPSが最初から入ってる。

 あと横にアンテナがあるやろ。それを引き抜くと防犯ブザーが鳴る。

 鳴らしてみて。」


 時宗が手をかざすと室内の音の響きがおかしくなった。


 『防音シールドを張った。部屋の外には音は漏れへんから大丈夫や。』


 雪野は防犯ブザーを鳴らした。

 部屋の中には反射するような音がけたたましく鳴り、慌てて引き抜いた細い棒を元に戻す。


 「問題ないな。

 この携帯は説明書はない。今言ったことしかできんからな。」

 「はい。」

 

 「次はこっちのスマホな。使い方はわかるやろ。

 普通に使って構わんけど、メールアドレスをY0Y00000にしてほしいんや。

 わしのはJ1T11111

 他の必要な人からは適宜わしが頼んで君宛に送ってもらうからそれを登録して。」

 「はい。」


 スマホを渡された雪野はとりあえずメールアドレスとパスワードを登録した。

 少し考えてパスワードも時宗に知らせた。


 「そしたら今日はこれで帰ってもらうけど、わしはこの後また会議があって送ってやれん。十分に気をつけて帰りや。

 帰って戸締りして部屋の中を確認したらメールして。

 

 明日、もしかしたら呼び出すかもしれんから電話に気をつけといてな。」

 「はい。ありがとうございました。」


 雪野は受付で退室時間を記入して外に出た。 



(3)

 時宗は面談室を出て、幹部会議室へ向かった。手の中で携帯を開いて雪野のGPSを追う。


 そのまま画面を開いて持ちながら会議室に入った。

 統領と親爺様、副統領2人、小菊が座っていた。

 

 「すんません、お待たせしました。」

 時宗が言いながら席に着くと統領が、

 「いや、今、和の国の例の高校拠点のことを話し終えたところだ。

 雪野が来てたのだろう?待機させなかったのか?」


 「そのつもりでしたけど、もう1件厄介ごとが持ち上がったので今日は一旦帰しました。


 明日、アカデミーは時間割調整日で学生は休みなので、呼び出すかもしれんと言っておきました。」


 「厄介ごととは何だ?それも雪野関連か?」


「雪野も含めてですが、夕波秋光とその娘のことで。」


 「なんじゃ、もう何かやらかしおったのか?」


 「いえ、まだ。

 ただ、雪野が娘の秋湖と知り合って、美春、小夏と4人で昼飯を食ったと。

 

 今日は父親のことは15年年ぶりに戻ったことと、精神科医であることくらいしか話さなかったらしいけど、秋湖が父親に3人のことを話す可能性はあるかと。」


 「全く、いい待遇で呼び戻してやったのだから大人しくしていればよいものを。」


 「まだ何かやらかすつもりかどうかは分かりませんが、娘を介して雪野達に手を出されるとかなり危険です。」


 「確かにな。ではその件も含めて話し合おう。」


 統領は会議室に結界を張った。





 


だいたい大安に更新してます

次の大安は25日です

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