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彼の国(かのくに)  作者: 春の雪
 第二章 彼の国にて

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第24話 雪野の決意

(1)

 雪野は 部屋に戻り、残っていた水筒の水を飲んでから、今日買ってもらった物を広げた。


 まず、衣類をベッドの上に置いて1枚ずつ袋から出して点検した。

 改めて見るとずいぶんたくさん買ってもらったものだが、一点も不良品はなかった。


 次に靴やリュックなどを点検しながら履いてみたり背負ってみたりした。


 どれも素材が良く、軽くて丈夫そうだった。


 ただ、基本的に忍衣なので形は実用的、色は白、黒、茶、モスグリーンなど、地味な物ばかりだった。


 今まで着ていた服は高校の制服がほとんどではあったが、私服はそれなりに若い女の子の着る可愛い物が多かった。


 もうあんな服を着て友達と遊びに行くことはないのだろうか。


 雪野は、時宗が倉庫から持って来させてくれた防弾防刃忍衣を引っ張り出した。


 柔らかくて軽いが丈夫そうで、手で触ると五円玉の形の薄い金属のような物が全面に貼り付けられている。


 ふと、短剣を突きつけられてトラウマに苦しんでいるという影子を思い出した。


 母がもし、こんな忍衣を着てクナイを投げている雪野を見たら何と言うだろう……投げているだけならまだしも武器を突きつけられているところなどを見たら悲鳴を上げて錯乱するだろう。


「今からでも遅くはない。」

 軍事拠点を車で回っている時の時宗の言葉がよみがえる。

 

 「もし君が平穏に暮らしたかったら、今やったらギリギリ間に合う。地方の静かな街で、忍びなどには縁のない学校に通うこともできる。」

 そんな選択肢も用意されていたらしいのは意外だった。


 もし今、やっぱり怖いから嫌だ、と言えば和の国には帰れなくても、殺されることはなく、この国の田舎街でのどかな暮らしができる。


 しかし雪野は、

 「君は影の所属やから」と言った時宗の言葉がたまらなく嬉しく、今さら他の選択肢を選ぶ気にはなれなかった。


 雪野は衣類を丁寧に整理して新しいリュックのうちの一つにまとめて入れた。

 次に文具もシールなどを剥がして、すぐに使えるようにした。

 明日使うノートなどは机の引き出しに、その他は持って来たリュックに入れた。

 

 そして寝る支度をして、いつものように日記帳を広げた。


 朝、シュッシュッ、ゴン!で始まり、アカデミーの時間割、ボリュームサンド。

 

 忍具店での買い物と北の国の諜報員との接触、軍事拠点のこと。

 

 美味しい鰻。この国のこと。


 あまりにいろいろな体験と、いきなり流れ込んで来た多大な情報。

 何からどう書けば良いのか頭の中がまとまらなかった。


 ………結局、サクッとまとめて、

 『今日、私はこの国の国民となることを決めた。』と書いた。

 

 それから少し考えて、

 『彼の国( か  くに)は、我が国となった。』

 と付け足した。



(2)

 翌朝、雪野は5時に起きた。

 昨夜、時宗に命じられていた値札の金額の合計を出さないまま寝てしまった。

 

 ベッドに入ってから気づいたが、再び起き上がるよりアラームを30分早くかけ直すことを選んだ。


 耳をすませると時宗はもう出たようだった。

 顔を洗って着替えると、本当に時宗がいないかを確認しがてら水を飲みにキッチンに行った。


 時宗が、好きに飲んでいいと言っていた冷蔵庫の水を水筒に入れて少し飲み、それから玄関に行って編み上げ草鞋がないのを確認して、部屋に戻った。


 とりあえずやるべきことを、と値札を分類して、衣類は衣類ごと、靴は靴ごとにと分けて計算し、次に忍具店の各階ごとと、文具店、最後に全部の合計を出した。


 金額を見てびっくりした。

 文具や地図は安かったが、衣類や靴は驚くような金額だった。


 確かにあの上質な素材と縫製ならブランド品ではなくても高いはず、いや、もはや伊賀ブランド?


 さらに時宗に預けたクナイなどを足すといくらになるのか……。


 雪野は母がよく、

 「元手をかけるのはそれ以上の成果を要求されるということだから、うまい話しに気軽に乗らないように。」と、言っていたのを思い出して青ざめた。


 とりあえず自分の身を自分で守れるようになる、という程度でよいものだろうか。


 だとしても倉庫で最新鋭の武器を買えるセレブ忍びへの道は遠い……


 計算が終わってからはキッチンで湯を沸かしながら昨日の組織図を見た。 覚えることは苦にならない雪野は、顔と役職だけの2枚は完全に覚えた。


 そこで6時10分前になったので湯をポットに入れて、出かける支度をした。

 昨日買ってもらった長靴とカーキ色の運動靴を持って玄関に行ったところで時宗が戻って来た。


 「おはようございます。」


 「おはよう。ちょうどよかった、長靴を履くように言うのを忘れたと思ってたところや。」


 雪野はホッとして長靴を履いて立った。

 まっすぐに時宗の目を見て、

 「今日もよろしくお願いします。」と言った。


 時宗が目を見開いた。そして、

 「ああ。今日も忙しくなるけど頑張ろな。」と言った。


 ――昨日とは目の輝きが違う。

 時宗は雪野が "決心"をしたことを悟った。


 

 

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