第22話 第二拠点 1
時宗は少し考えて雪野に、
「内容は多分昼間の奴らのことや。スピーカーにするから君も聞いてていい。
ただ、内容によっては急にオフにすることもある。
質問はあとからまとめてな。途中で声は出さんといて。
音は立ててもいいし、休憩してても構わん。」
そう言って通話を開始した。
「待たせたな。こっちは今やったら音声で大丈夫や。」
「お忙しいところすみません、よろしくお願いします。」
「先に影子のこと聞いとこか。」
「はい。やはり少し出てますね。切先が当たった形跡はないのに痛みを訴えてます。
いつもの薬と湿布を与えて様子を見てます。」
「そうか。さっき診たところでは内側に何かした形跡もなかったから、多分精神的なものや。
痛みがひどくなるようならまた知らせて。深夜でも構わん。」
「承知しました。」
「さて、奴らのことや。その後どうや?」
「まず、外にいた3人ですが、駐車場にバンを駐めていて運転席に1人、隣の運送店前に1人、向かいの靴屋に1人でした。」
「まあ想定通りやな。」
「外の2人は1階の4人が捕まったのを見て駐車場に逃げてバンに乗り込みました。
バンは駐車場を出てスピードを落として正面口の前を通りましたが、皆捕まったと判断したのか、そのまま走り去りました。」
「どこまで追跡できた?」
「拠点域を出たあと西に走って隣り町のスーパーの駐車場に入りました。
そこでこっちが付けたGPSを外して、車体の色も変えて出て行ったようです。すみません。」
「仕方ない。10人も来たんなら本店からやろ。
地下の7人はどんな様子や?」
「それぞれの個室に通気口から少量の薬を入れたので、7人とも少し朦朧としている状態です。」
「誰か何かしゃべったか?」
「逮捕した2人は追加で注射した薬の効果でしゃべってます。
5人のほうは口は軽くなってますが、たいしたことは知らないようです。
5人のうち若い2人は、"何かあったら捕まる要員"だったそうです。」
「なんやそれ?
ペーペーで何も知らんから薬打たれても拷問されても構わんてことか?」
「そういうことみたいです。何をされても泣いてわめいて眠っとけ、って言われたそうです。」
「奴ららしくて笑えるな。
しかし油断するなよ。カスやと思わせて逃げる手かもしれんからな。
役に立たん奴は脳の実験台にするって脅したれ。慌てて何かしゃべるかもしれん。」
「かっ、かしこまりました。」
「赤サソリらは何しゃべった?」
「やはり、この忍具店が軍事拠点になってると疑って調べに来たようです。
ただ、周辺との関わりは全然分かってないようです。
今日のところは下調べで、出入り口や地下や屋上も見て店内の見取り図を作りたかったようです。」
「10人もでゾロゾロ下見に来たんか。しかも"捕まる要員"まで連れて来といて自分らも全員捕まるって……笑うべきか裏があると疑うべきか。」
「中央棟もカメラを全部確認したけど何も無かったとのことです。
他の拠点も確認しました。」
「そうか…他拠点を狙う陽動ではなかったんやな。」
「そうですね。
なんでも忍具店にしては新しい物が無さ過ぎるから、上階か地下に別フロアがあるのでは、と疑ったらしいです。
それで、5階建てなのに3階から上に行く階段が外階段しかないので何かがあるのではと考えたそうです。」
「ニセ影子は計画の内やったんか?」
「いえ、全然何も見つけられなかった赤サソリが焦ってカマをかけてみたらしいです。」
「それでいきなり認識阻害で白い布になって隠し撮りした映像を映して影子になったんか。」
「そのようです。雪野さんが素人のようだったので貼り付けでだませると思ったそうです。」
「ぷっ、困ったもんやな。」
「ですが呼び方で気付くとは凄いですね。」
「赤サソリが中途半端なんや。
まあ、裏に案内しようとしてたら阻止しに入ったけどな。
しかし、何かあるということは知られたやろうからな。
面倒なことにならんで良かった。」
「そうですね。」
「影子を撮影するのはどうやってたんや?」
「ジャケットの胸ポケットのボールペン型のカメラでした。」
「またオーソドックスな手法やな。
撮りながら同時にどこかに送ってた形跡は?」
「それはなかったようです。単純なカメラでしたし。」
「そうか。そしたら3階にいた赤サソリ達2人だけ閃光で影子と雪野の顔の記憶を消しとけ。」
「承知しました。」
「影子は本人が落ち着くまで事務所勤務にしとけ。
それもつらそうやったら入院・カウンセリングな。1人で部屋には置くな。
ただ、親爺さんから別指示があったらそっち優先な。」
「親爺様からは今日のことに関しては時宗様の指示通りにと。」
「そうか。そしたら影子についてはそのように。」
「はい。」
「あと、7人は飯はどうしてる?」
「一応晩飯は出しましたが全員食ってません。」
「水は?」
「口を湿らす程度に飲んでますね。」
「食欲増進剤を少し入れとけ。」
「承知しました。」
「明日は昼頃に豪華な昼飯を出して、お前らも一緒に食いながら和やかに談笑しろ。笑いながら食ってる映像を撮っておけ。
あと、封筒に商店街の福引券入れて渡せ。受け取ってる写真も撮ってな。5人には付き合わせた詫びや言うて金も入れとけ。
アホやなかったら受け取り拒否するやろうけど、そしたら無理に渡さんでもいい。」
「承知しました。」
「あとは食後に血液検査して薬剤が残ってなければ解放で構わんが、時間と方法は親爺様に相談するように。
血液と今回取った生体情報は中央病院のわしの研究室に送っといてな。
夜は寝かせていいけど電気はつけたまま、一時も目を離すな。」
「承知しました。」
「他に何かあるか?」
「いえ、今のところは。」
「そうか。わしからもこのくらいや。ご苦労。」
「お忙しいところありがとうございました。失礼いたします。」
時宗は通信を切って雪野の方を見ると、予想通り固まっていた。
「質問は?」
「あ……あの……み、3つ。」
「まとめて言ってみ。」
「影子さんはどうされたのですか?
閃光で記憶を消すとは?
尋問に使った薬とは?」
「よくまとめたな。」時宗は少し笑った。
「1つめ。
影子はしっかりしてるけど、まだ新人や。
去年アカデミーの高等科後期を卒業して、研究科には進まんと忍具店に就職した。
訓練も受けて実技試験も優秀やったけど、人を殺したことも殺されかけたこともない。
そういう奴が初めて剣やクナイなどを突きつけられたら、その時は何ともないと思っても、あとから刺されたような錯覚が来たりするんや。
あと、君を守らないかんかったのに怖くて動かれへんかったという情けなさで自分を責めたりな。」
雪野は言葉がなかった。そう言えば雪野も、親爺様にソファーで休むように言われた時、体が動かなくて時宗に運んでもらった。
リュックをつかまれただけで直接体に触れられたのでもなかったのに、自分で思ってたより怖かったのだ。
ましてやナイフを突きつけられた影子は……。
「2つめ。
君が和の国の高校拠点で見たのと同じ閃光や。それを見た途端、直前に見たものを思い出せなくなる。」
「普通に、よく使うようなものなのですね。」
雪野はもっと詳しく聞きたかったが、時宗は先に進めた。
「3つめ。
敵の捕虜を尋問する時には落ち着かせるためにハーブなどを使った、体に毒のない程度の薬剤を使うことはある。
興奮して自殺でもされたら困るしな。」
雪野は、自分にとっては1つ1つが大きなことでも、時宗にとってはひと言ふた言で答えてしまえることだということに少しショックを受けた。
時宗が持ついろいろな顔の中で、雪野に見せるアカデミーの教員という顔はきっと一番穏やかな顔なのだ。
「諜報や薬学の授業を進める中でまた説明することもあるやろうけど、今はここまでや。
続いて第二拠点の組織図をやるで。」
「はい。」




