第20話 日の国(ひのくに)
「ここまで聞いて途中で眠れません。」
時宗は笑って、
「そしたら次は今のこの国の仕組みやな。」
「はい。」
「まず君から質問があった裏の統領と影の統領のことやな。」
「はい。最初に聞いたのは和の国の高校に統領様がいらした時です。
山下先生が、自分達の国の影の統領だ、と紹介されたので。」
「そうなんか?だとすれば統領は君を連れて来ると決めてたんやな。」
「えっ、私はてっきりあの時の面接で決められたのかと。」
「それはありえんな。少しでも連れて来ない可能性があったなら身分を教える訳がない。
たとえその場で殺すとしても余計なことは知らせん。冥土の土産に、なんて言うて名乗るのは時代劇の話や。」
雪野は思わず吹き出して、
「そうなのですか?
あの時、最初はとても怖い顔をしてらしたのに帰る時は優しい雰囲気だったので、いろいろお話して気に入って下さったのかと。」
「それもあったやろな。
ただ、君に直接会う前に君のことや家族のことなど徹底的に調べてたはずやから、君がよほどめちゃくちゃな事を言わん限り連れて来ることに決めてたはずや。
怖い顔してたのは君の度胸を試すためやろ。
あの人ににらまれたらほとんどの若い奴は震えて、まともに受け答えできへんようになるからな。
君みたいに肝の据わった奴はめったにおらんから面白かったんかもな。
かなり気に入ったようやったで。」
「理由は微妙ですが、ありがたいです。」
笑ってそう答えながらも、殺される可能性もゼロではなかったことを思うと顔が強張るのを感じた。
統領も、そして時宗も、殺す必要があれば迷わず雪野を切って捨てるのだろうか……。
雪野の表情を見て、時宗が話を戻した。
「それで裏の統領についてや。
日の国の代表が表の統領。それに対して裏から国を支える組織の代表が裏の統領や。
和の国から分かれ後は領主達の合議制で、そこで決まったことを行う行政は各領地ごとに任されてた。
それが和の国と頻繁に行き来できるようになって、和の国の立憲民主主義や三権分立など、国家の在り方についていろいろ見て取り入れていったんや。
ただ、それまで領主の言うことが絶対やったから民主という点では問題も多かった。」
「領主というのは何人くらいいらしたのですか?」
「30人ほどやな。
それを地域で3つの県に分けて知事を置いたんや。
そして知事は選挙で決めるようになった。
県は、近畿、東海、北陸・関東の半分で1つ、
北関東、東北、蝦夷で1つ、
山陰・山陽、四国、九州で1つ。
その3つの県の真ん中を中央県と呼んでる。
あと2つが西国県、東北県。」
「3つだけですか?ずいぶん大きな括りですね。」
「そうやな。人口が少なかったし、権力を持つ者がたくさんおると問題も増えるしな。」
「その知事3人の合議制になったのですか?」
「いや、各県、知事・副知事を含めて10人づつや。
だから最初の合議制の時と人数は変わらんけどな。
ただ、決まったことを持ち帰って運用するのに知事の権限は絶大や。
その知事を選挙で決めることになったのは大きな改革やった。」
「裏というのは?」
「裏も国の機関や。表の組織がきちんと機能してるかを監督して、問題があれば調べる。
君の言うたように括りが大まかな分、隅々まで行き渡らんことも多いからな。
その他、最近では対外諜報関連の仕事も多いな。いろんな国の◯◯情報局とか◯◯情報室に近い仕事な。
裏の職員は国家公務員や。
影は違う。独立した伊賀の集団や。」
「統領様は両方の統領様なのですか?」
「今はな。ただ、異例や。
裏の統領が戦死して、首都は壊滅状態で選挙ができる状況ではなかったからな。
戦後の処理をするには敵に対しても引かん強力なトップが必要や。
表の統領が強く在るためには裏がしっかり支えんとな。
国内の治安維持も重要やしな。
それで臨時で影の統領が裏も掛け持ちになったんや。
ただ、戦後10年やから、そろそろ再編に動くかもな。」
「影の仕事というのは裏とは関わりはないのですか?」
「本来はな。ただ、裏の仕事を影の忍びが請け負ってる面も多くてな。
昔から陽忍として各地に根を張って生きてきてるから土地のことに詳しいし、問題があって内情を調べるには陰忍としての技術が役に立つしな。
外事に関しても中の国の辺境警備で外国と接する機会も繋がりも増えたし。」
「統領様以外の影のメンバーでも裏の役職を担っている方もいるのですか?」
「いるけど数は少ない。
あくまでも調べる内容や危険度によって影に依頼するという形や。
だから、影に依頼する必要性の有無や、どんな事を依頼するかを決める部署の責任者は影の者がやってる。」
「でも影は全ての情報を把握してはいるのですね。」
「それはそうや。影の把握してる情報量は各県や表の政府が持ってる情報量とはケタ違いやからな。」
「それでも裏イコール影にはしないのですね。」
「万川集海の最初の正心にあったやろ。忍びの力を私利私欲のために使ってはならん、と。
国や国民のためと言っても権力の座に着くと自分に都合のええ方に偏っていくもんや。
だから表からの依頼も裏からの依頼も調べたことを報告はしても独断で処理、処分をしたりはせず一旦表や裏に戻す。
そして極力公権力には近寄らん。」
「そうなのですね。」
「次に、君に最初に覚えてもらいたいのは組織図と役職と担当の顔や。
とりあえず君は影の所属になるから影の組織図と各部署の担当の顔やな。」
「私は影の所属なのですか?」
「君の高校の教師は表に推薦してきたようやが統領が譲らんかったみたいやで。
もちろんアカデミーを卒業して仕事に就く時には君の希望を優先に決めるやろうけどな。
君はまだ未成年やからな、とりあえず君を保護、育成するのは影や。」
「わかりました。」
時宗はチラリと雪野の顔を見たが、雪野がちょっと嬉しそうだったのでホッとして画面を切り替えた。
画面には組織図とそれぞれの責任者の顔が出た。




