第19話 この国のこと 5
画面には日の国が中心に描かれた世界地図が映し出された。
「日の国暦200年頃までは、小競り合いはあったものの、まあ穏やかと言える状況が続いてはいたんや。
中の国とも貿易が盛んでうまくいってたしな。
しかし北の国がウロウロするようになってな。最初は貿易やなんやと言うてな。
それで外国との付き合い方で国内が割れるようになってな、中の国派と北の国派で。」
「結局そうなってしまうのですね。」
「世界情勢が変化してきてな。
日の国は直接西大陸や麦の大陸から干渉されることはなかった。
しかし、中の国が西大陸の侵略を受けることがひんぱんになって情況が変わってきたんや。
中の国は日の国にも兵を出すように要請してくるようになってな。
北の国の方は麦の大陸や南大陸からの侵攻に備えて日の国を盾に使うことを考えるようになってな。
両国とも日の国の中で自分らに付く方の勢力を援護して、日の国は半ば分裂状態になったんや。」
「結局どちらが勝ったのですか?」
「最終的には中の国やな。
北の国が、蝦夷地に作った軍事基地に大軍を置いて東北に武力侵攻して来たんや。
その時に中の国が、西大陸と中の国の領界に日の国の兵を出すんやったら先に北の国を押し返すのを手伝ってやるって言って来たんや。」
「やむを得ず中の国の力を借りたのですね。」
「そうやな。結局、中の国が大軍を率いて援護に来て、北の国軍を東北から押し出して、さらに蝦夷地の北の軍事施設も占領して中の国派が大勝利で終わった。」
「それで約束通り中の国に派兵を?
ですが中の国は北の国をあっと言う間に追い出せるほどなら自分の国の兵を動かせばいいのに…。」
「北の国を追い払った時は大軍を一時的に動かした。
逆に中の国と西大陸の国境は少人数でもええから半永久的に兵士を駐軍させて警戒しとかなあかん。
国境線がめちゃくちゃ長い中の国はその一部にでも常駐してくれる兵力を求めてたんや。
辺境に兵を割きすぎるといざと言う時、大軍を動かすことができへんからな。」
「ですが、日の国の兵は言葉も分からない所に行かされるのは…。」
「最初は日の国も、所詮はよその国のことやのに、と言う者が多かった。
しかし、伊賀の考えは違った。
科学の進歩で世界を巡れる軍艦を造れる国が増えて、日の国もそれなりに対外防衛を考えないと近い将来どこかの国に占領、支配されることになる。
それやったら中の国と組んで今から先を読んで力をつけるべきやと。」
「さすがですね。それで中の国に伊賀の手勢を送ったんですね。」
「そうやな。優秀な上忍に若いやる気のある奴らを付けてな。
そして中の国の国境沿いの少数民族と、それに対峙する外国と、両方の言葉を学んで状況を調べて人脈を作った。
それはその後の日の国にとって大きな力となったんや。」
「その後、北の国はどうなったんですか?」
「スノーカラー島までは完全に撤退したな。
日の国内の北の国派も、同盟を結んで大陸に備えようと言ってた北の国がまた東北に侵攻して来るとは思わんかったから、裏切られたと怒って、ほとんどの者は完全に北の国と切れた。」
「ですが最近また戦争があったのですね?」
「10年前に北の国がめちゃくちゃなことをやりやがってな。
北の国は麦の大陸とずっともめててな、国内がガタガタの時、一気に攻められて負けたんや。
その時、あいつらは自分の領土でもない日の国を差し出して麦の国と和睦したんや。
麦の国は、てっきり日の国は北の国の辺境やと思って軍を率いて進駐して来たんや。
拒絶したらいきなり首都を攻められて首都は壊滅状態になった。
幸い麦の国は、日の国が占領に納得してると思ってたから連れて来た兵の数は多くはなかった。」
「信じられないことをするんですね、北の国。」
「そうや。しかもその少し前、北の国はまた蝦夷地に侵攻して来ててな。
わしも20歳になってたからそっちに参戦してたんや。
蝦夷地は中の国の援護でどうにか取り返したけど、首都に戻ったら首都もその周辺も焼け野原やった。」
雪野は言葉が出なかった。
「結局、日の国は独立国家であること、北の国のやったことは国際社会で許されることではない、ということで、麦の国も一応納得した。
それで条件2つで引いたんや。
1つは首都の賠償は麦の国ではなく北の国に請求すること。
もう1つは、今後麦の国が北の国と交戦する時は、日の国は麦の国を援護すること。」
「それは北の国を牽制することができますね。
でも北の国は賠償になんて応じたのですか?」
「自分らも敗戦で国民が飢え死にしてるから年払いにしてくれ、とか言うて2回くらい払っただけや。
催促したら、年払いとは言うたけど毎年払うとは言ってないとかぬかしやがってな。」
雪野は思わず笑った。
「なんかケンカに負けた10才児の言い分みたいですね。」
「そうやろ?開いた口がふさがらんな。」
「それで先生はあんなに北の国を嫌ってるのですね。」
「この国にあいつらを好きな奴はおらんやろな。」
「確かに。でもまだ北の国はこちらの国にスパイを送って来たりするのですね。」
「懲りない奴らやからな。
こっちもかなりの数の忍びを送ってるけどな。」
「ですが戦後10年にしては復興が進んでますね。」
「必ず北の国が何かやらかして来る、と予想して首都機能をある程度分散してたからな。
首都が壊滅して東北も戦争の被害があったけど、西国県にある程度指揮系統を移せた。」
「予想って、するのはできても先に対応しておくのは難しそうですが。」
「普通はな。予算の分配でな。
起こるかどうか分からんことに金使うなら目の前のことを何とかせい、言う方に流れるからな。」
雪野は頷いた。
「そこからが今の政治の仕組みや。
次行っても大丈夫か?今日は疲れたやろ。」




