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彼の国(かのくに)  作者: 春の雪
 第二章 彼の国にて

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第14話 軍事拠点

 (1)

 時宗は影3が裏口から入るのを見届けて、車のトランクを開けたまま雪野を呼んだ。


 「あんまりキョロキョロせんと見てな。

 さっき裏口出る前に地下に降りる階段があったやろ。降りた先は地下道であっちに向かってる。」


 時宗がさりげなく手を向けたのは入る時横を通った立体駐車場とは逆の側の出口の方だ。


 「もしかして忍具の試技をした所の裏の通路でおっしゃってた倉庫がある方ですか?」


 「そうや。あの駐車場を出た道の向こう側のあのコンクリのでかい建物が倉庫や。」


 「お店より倉庫の方が大きいのですね。」


 「そうや。店舗はショールームみたいなもんや。

 ショールーム言うても最新鋭の物はほとんど置いてない。

 

 子供や初心者、忍びではない他の仕事をしてるけど趣味や健康のために訓練をしてる人などを対象にした物がほとんどや。


 あとは外国のお客さんとかな。この国の忍者映画のファンも多いんや。

 たまにさっきのような内外の諜報機関の奴らとかな。」


 「なりすまし影子さん達!」


 「そういうことや。あれは敵の、北の国の諜報機関の奴らやけど、他にも同盟国の諜報員も来る。」


 「では最新鋭の品物は倉庫にあると?」


 「そういうことや。これから車で周りの他の建物も見ながら食材市場の方に行くから、しっかり見て覚えてや。」


 「はい。」

 方角音痴の雪野は自信がなかったが先ほどの体験があったので、しっかり覚えなければ、という緊張感から強く頷いた。


 二人は車に乗って倉庫の前の出口から駐車場を出た。


 「倉庫は地下1階、地上5階建なのは店舗と同じや。ただ、面積は店舗の4倍ある。


 品物も最新鋭の物を置いてる。

 ただ、倉庫の中の店に入れるのは国の忍びとして認可された者だけなんや。


 理由は、敵に最新鋭の武器を売ってやる訳にはいかん、ということや。」

 

 「確かに!」

 雪野は納得した。なので自分はショールームの方の対象なのだ、という小さなショックは消し飛んだ。


 「ただ、必要があれば君が使う物をわしが代わりに買うことはできる。

 

 今日、君の防刃防弾仕様の忍衣を買ったけど、あれは君のサイズのを影子が倉庫から持って来た物や。」


 「そうなのですね、ありがとうございます。」

 雪野は自分を守る忍衣は最新鋭の物にしてもらえたことがちょっと嬉しかった。

 

 「クナイなどの武具は今は初心者向けのやけど、進歩にしたがってプロ仕様にしていくしな。」


 「はい。」

 この時雪野の頭の中に、強くなって倉庫で買い物ができるセレブ忍びになる、という目標ができた。


 時宗は車を倉庫の塀に寄せて停め、忍具店の隣の建物を指した。

 

 「忍具店は横幅1、奥行き2の区画や。

 倉庫は4×2区画。

 そして忍具店の横のこの3×2区画にある建物は運送会社や。」


 「そういえば忍具店の正面入り口の隣に白犬運輸という看板が。」


 「そうや。よく見てたな。」

 

 「あの子犬をくわえて運んでる、どこかで見たようなロゴが可愛くて…。」 雪野は笑った。


 「ハハハ、どっちがパクリかは考えたらあかんで。さ、次行こか。」


 時宗はゆっくり車を走らせて、倉庫と運輸会社の先の交差点を直進した。


 交差点を渡ると、左側は『街かど医院』という医院で、隣は小さな駐車場と薬局だった。


 道の右側は小さな町工場のようで、金属を扱っているような音がしていた。


 「この工場は金属部品の工場で、車の部品、武器などを作ってる。」


 「えっ?サラッと……怖いです。」


 「最新鋭の忍具や武器というてもどこかに頼んでたら秘密保持が確実とは言えんやろ。

 君のおった方の国でもそういう工場はたくさんあったはずやで。」


 「そうなんですか?」

 確かに、『武器工場』などと看板を出しているはずもない、小さな武器工場が近くにあっても気付かなかっただろう。


 「この工場は車の部品の下請け工場ということになってる。

 実際、白犬運輸に置いてある軍事用車両の部品を作ってるしな。」


 時宗は次の交差点は直進せずに右に曲がった。

 

 右側が工場になり、左側は商店街とは違い、3階建のアパートがたくさん並んでいる。

 金網のフェンスに囲まれてはいるが、アパートの造りはよく見えた。


 「このアパートはここの商店街の警備員が住んでる。忍具店の警備員も、ほとんどがこのアパートに住んでるか、部屋を持ってる。」


 「凄いですね。この辺一帯が軍事拠点なのですね。」


 「ほお…君の口からそんな言葉が出てくるのは驚きやが、その通りや。」


 「軍事施設は郊外で高い塀と有刺鉄線に囲まれてるようなイメージがありましたが、こんな街中にさりげなく…。」


 「ここは中央棟一帯の拠点に次ぐ、首都で二番目の軍事拠点や。


 そして重要なんは君がこの拠点の庇護下に置かれた、ということや。」


 「えっ?」


 「君はさっき寝てたから聞いてなかったけど、わしの弟子になったことで君には様々の危険が予想される。

 

 実際、なりすまし影子達の上司の奴から通信が入って、部下を解放せんと君に接触する、と脅してきた。」


 雪野は息を飲んだ。


 「大丈夫や。ちょっとばかり脅し返しといたから今回は何もせんやろ。

 

 しかし、あいつらが毎回ご丁寧に先に通告して来るとは限らん。いきなり君を誘拐しに来るかもしれん。」


 雪野は、忍具店でリュックを引っ張られた時の恐怖を思い出した。

 

 あの時はすぐに時宗が介入して敵が逃げたが、1人の時だったら自分はあまりにも無力だ。


 「君はここのアパートにも部屋を借りることになる。

 わしが出張などで首都を離れる時はここの拠点で保護、警護することになる。」


 「私1人などのために…?」


 「わしの近しい関係者になるし、中央棟の関係者にもなるからな。

 

 頭領は君をこの国に連れて来ると決めた時、わしは君を弟子にすると決めた時、君をここで守りながら育てていくことを決めた。

 

 さっき拠点の責任者である親爺さんも同意した。


 しかし、もし君が平穏に暮らしたかったら、今やったらギリギリ間に合う。地方の静かな街で、忍びなどには縁のない学校に通うこともできる。」


 「いやです。このまま、ここで守られながら育って、強くなります。」


 「………君はリュックや靴以外も即決やな。しかも…なんや遠慮のない決意やしな。フッ…」時宗は苦笑いをした。



(2)

 それから時宗は右折して、忍具店の正面側の道に戻った。

 

 白犬運輸の店内のカウンターには宅配便を持ち込む人が並んでおり、忍具店からは親子連れが笑いながら出て来る。

 少し前の騒ぎなど誰も知らないようだ。


 「この道の左側は衣料品店や靴屋やな。

 家族連れ向きの店が多いみたいや。」


 時宗はそう言いながら立体駐車場を過ぎた大きな交差点を左に行った。


 「こっちにもう一本、歩道付きの道がある。この両側はほぼ全部食料品店や。

 奥にまた駐車場があるから、そこに駐めて買い物するからな。」


 「はい。」


 食料品街は良くできていて、駐車場の近くは米屋、八百屋など重い物の店、先に進むと、魚屋、肉屋、惣菜屋などが並んでいた。


 向かい側にはパン屋、菓子屋などが並んでおり、その奥まったところになぜか本屋があった。


 「本屋の中に文房具も売ってるからな。」


 二人は最初に雪野の希望の地図と文具を買った。


 それからパン屋、肉屋に寄り、魚屋に来た。


 魚屋では隣りのスペースで焼き魚も売っており、食欲をそそる良い香りがしていた。

 時宗は雪野に、

 「君は(うなぎ)は食えるか?」と聞いて、雪野が

 「大好きです!」と言うと蒲焼きを頼んだ。


 雪野が鰻を包んでもらいながら幸せの香りを満喫している間に時宗が他の魚を買ってアイスボックスに入れ、二人は魚屋を離れた。


 あとは野菜を麻のズタ袋に入れ、米も買って車に戻った。


 時宗は荷物を積み込み、雪野は鰻を抱えて助手席に乗り込んだ。


 「さて、帰って飯にしよな。そのあとに君がまだ眠くなければビデオを見ながらこの国のことや、君のおった国との関係を説明しよう。

 

 忍具店のことが先になってしまったけどな。」


 鰻を抱えて口元が緩んでいた雪野は一瞬で固まった。


 


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