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彼の国(かのくに)  作者: 春の雪
 第二章 彼の国にて

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第13話 北の国の諜報員達

(1) 

 5階では親爺様が、

 「黒サソリはすぐには動かんだろうが、それより上が何か仕組んでるとしたらチームを変えてまた来るかもしれん。

 総員警戒を解かないように。


 地下の奴らのうち5人は明日の朝、解放だ。

 指紋、声紋、瞳、ありとあらゆる情報を取っておけ。

 今は下っぱでもそのうち化けるかもしれないからな。


 有罪の2人は薬飲ませてでも何か吐かせろ。」


 そう言うと4階の事務所に通信を繋げて、

 「3時半再開で大丈夫か?」と聞く。


 「レジ全部確認済みです」


 「警備も大丈夫か?」


 「はい。先ほどの私服をそのまま待機させてます。」


 「そうか。変なみやげは置かれてなかったか?」

 

 「最初に時宗様が発見された小型カメラ3台だけでした。中は抜いたので地下の奴ら脅すのに使います。」


 「よし。では3時半再開店。時宗は少し早めに降りていいぞ。たくさん買ってくれ。今日はありがとうな。」


 「こちらこそありがとうございました。」

 時宗は寝起きの子供のようにピンク色のほっぺたをした半寝ぼけの雪野を連れて、親爺様と影5に挨拶をして階下に降りた。


(2)

 「具合はどうや?緊張はほぐれたか?」

 「大丈夫です。むしろ軽快なくらいです。」

 「そりゃよかった。このマントにはいろいろ仕組んであるからな。」

 「凄いです。湿布薬もあっという間に痛みがなくなりましたし。ありがとうございました。」

 

 湿布薬と聞いて時宗がフフッと笑ったので

 ―しまった、やぶ蛇だった!

 と思ったが何くわぬ顔で横を向いた。


 3階に降りると影子がレジに立っていて、2人を見ると横に置いてあったカゴを持って来た。


 「先ほど3階でお選びいただいた物だけお持ちしました。」


 「そらありがとう。ほぼ揃ってるな。後はブーツか。冬物はまだ先でええな。雨対応の長短2足づつと山用やな。あと、これと…。」


 雪野は渡された物をテキパキと試着して素早く決めた。


 「ほんまに速いな。ええ子や。」


 影子がクスッと笑ったが、時宗は知らん顔で、

 「あと、リュックって言うてたな。」と鞄コーナーに移動した。

 

 雪野は、今持っているリュックが旅行用の大きいのだけなので中くらいのを、できればアカデミー用のとラボ用の2つ欲しい、と言った。


 影子が、ちょうどいい大きさで軽くて丈夫な素材のを指して、

 「地の色はモスグリーンで、ラインの色が赤、黄、黒の三色あります。

 

ウエストポーチと折りたたみのトートバックがセットですが、バラでも大丈夫です。」


 雪野は、

 「赤のと黄色のを、できればセットで。」と言って時宗を見た。


 「構わん。ちょうど必要やろ。

 あと、登山用な。軽くて防水仕様のな。」


 これも影子のお勧めですぐ決まった。

 

 「買い物が早く終わったんは影子の的確なアドバイスのおかげやな。」


 時宗が感心すると雪野も強く頷いて、

 「本当に凄いです。ありがとうございました。」と尊敬の眼差しを向けた。


 「いいえ、自分も使ってる物だからです。」と、微笑んだところで店内放送が入り、開店が告げられた。


 「では私はレジに戻ります。

 先生のお会計は事務所で全部一緒に影3がさせていただきます。」


 「そうか、今日はありがとう。

 君も体に不調が出たら我慢せんと言いや。」


 「ありがとうございます。」


 「影子さん、いろいろ教えていただいてありがとうございました。」


 「こちらこそありがとうございました。またお待ちしてます。」


 

(3)

 時宗は影子からカゴを受け取ると、雪野をマントで覆うようにしてスッと裏に出て4階に上った。


 事務所の扉の前に立つとノックをする前に扉が開く。


 「お待ちしてました。」

 影3が扉を押さえながらカゴを受け取る。


 大きなテーブルの上に1階、2階で選んだ物のカゴが置いてあり、影3はその横に3階の買い物カゴを置いた。


 それから、1階でクナイなどを買った時に商品を入力したタブレットを出して、

「2階の分は先に入れさせていただきましたが不要な物がございましたら抜かせていただきますので。」


 「いや、影子の選択に間違いはないやろ。」


 「たくさんお買い上げありがとうございました。3階の分も全部よろしいでしょうか」


 影3はテーブルの上に広げた品を順番にスキャンしていった。


 最後に編み上げ草鞋がスキャンされたので、雪野は気まずそうに、

 「すみません…。」と謝った。


 「買うことは構わん。そやけど、こんな物に眼輝かせて、すぐ横に敵がおるのに気がつかへんのは大失態やで。」


 「はい…。」


 雪野の編み上げ草鞋へのこだわりを知らない影は不思議そうな顔をしたが、何も聞かなかった。


 「品物はいつものケースにお入れして駐車場にお運びすればよろしいですか?」


 「頼む。前回のケースも積んであるしな、一緒に来てもらえると助かるわ。」


 「かしこまりました。」


 影3は品物を頑丈そうなプラスチックケースに入れ、台車に乗せた。

 

 そして事務所の隅にあるエレベーターに運び、三人とも乗り込んだ。


 1階に着いて、降りてまっすぐ進むと先ほどクナイの試技をした後、カーテンの裏に出た所だった。


 時宗が、垂直の通路は駐車場に出る、と言った所だ。

 三人はその通路を駐車場に進んだ。


 「今日は正面から出る予定やったけど奴らの仲間がまだウロウロしてるとあかんからな。」

 「はい。」


 裏の出口に着くと時宗と影3がスッ、スッ、とあちこち触れたり、キーをかざしたりして扉を開けた。


 外に出ると、すぐ前にコンクリートの塀が立っていて外から扉が直接見えなくなっていた。


 塀の高さは2メートル半、幅は3メートルほどで、影は台車を押して左から、時宗と雪野は右から駐車場に出た。


 すぐ前に時宗の車が駐まっており、時宗と影はトランクを開けて荷物の入れ替えをした。


 影は、空のケースを持って、

 「今日はいろいろご迷惑をおかけしました。

 たくさんのお買い上げありがとうございました。


 夜、少しだけメールか音声でご連絡させていただきたいのですが…。」


 「とりあえずメールでな。必要があれば切り替えるし。」


 「かしこまりました。では私はこれで。

 雪野さんもありがとうございました。」


 「こちらこそお世話になり、ありがとうございました。」


 雪野も丁寧に挨拶をして、影は戻って行った。


 「いろいろ聞きたいこともあるやろけど、とりあえず食材を買って帰るで。


 これから少しづつ、この国のこととか、この忍具店のこととか、話すからな。」


 「はい。」


 

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