↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/25

16

十二、報道


 美羅が海で溺れそうになった数日後、陽太は自分のワンルームマンションの部屋で、彼女とともに遅めの朝食の準備をしていた。

 いつも通りの日常だった。

 陽太は、トーストが載った皿をリビングのテーブルの上に置くと、傍らのクッションの上に腰を下ろした。

 トーストを手に取りながら、キッチンの美羅に声をかける。

「多分、今日は夕方までに戻れると思うから、晩ご飯は一緒に駅前のイタリアンレストランで食べようよ」

 レタスのサラダが盛りつけられた皿にスクランブルエッグを載せようとしていた美羅が、不思議そうな表情になった。

「どうしたの、今日に限って? あんなに高そうなレストランで夕食なんて」

 決して超高級というわけではなかったが、ただでさえ金のない大学生にとっては、確かにちょっと贅沢といえる、そのくらいの価格帯のレストランだった。

「今日で会社説明会も一段落するから、たまにはちょっと奮発してみてもいいかなと思って。いつも応援してくれる美羅へのお礼っていう意味もあるし……。嫌かな?」

 美羅の顔が、ぱっと明るく輝くのがわかった。

「ううん、嫌じゃないよ。むしろ、嬉しい!」

 そのときだった。

 つけっ放しにしていたテレビで、ニュース番組がはじまった。

 トップニュースは、政治家の汚職に関する内容だった。続いては、物価の値上がりに関するニュース。三番目のニュースが流れはじめたとき、陽太は今まで聞き流していたテレビに意識を向けた。

「三月二十日に埼玉県坂尾市の山中で発見されていた女性の遺体の身元が、判明したとのことです」

 十日ほど前に発見された、身元不明の遺体の続報だろうか。嫌な予感がした。

 女性アナウンサーが、抑揚を書いた口調で、ニュース原稿を朗読する。

「女性の名は……」

「ねえ、レストランに行く前に、ちょっとアクセサリーショップに寄りたいんだけど、いいかな?」

 アナウンサーの声に被せるように言葉を発した美羅は、持っていたスクランブルエッグの皿をテーブルの上に置き、陽太の右側に腰を下ろした。

 次の瞬間。

 アナウンサーが、感情の籠もらない声で女性の氏名を口にした。

 美羅のフルネームだった。

 ――え?

 陽太は一瞬、耳を疑った。

 ――アナウンサーは今、確かに彼女の名を口にした……。

 衝撃のあまり、陽太は美羅がいつもより近くに座り、体を密着させるようにしてきたことにも気がつかなかった。

 胸の奥で膨張する不安を打ち消そうと、無言のままブラックコーヒーを口に運ぶ。

 ほろ苦い味が、口の中に広がった。

 美羅の右手が、陽太の左手に重なった。細くて華奢な美羅の薬指には、おうし座をモチーフにした指輪が光っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。