5 真夏の夜の夢
合宿が始まると、サークルとは無関係の彼女がいてくれることのありがたさを、僕は思いがけないほど強く感じた。皆で打ち合わせをしている間、彼女はスイカやナシなどの果物を切り、麦茶を冷やし、食後の花火大会の場所を選び、夜遊びに行く店までリサーチしてくれていた。
「ほら、こういう別動隊が一人いると楽じゃない。いつものあなたを真似してみたの」
彼女は何気なく言ったが、その手際の良さは、僕が「器用だ」と言われる以上のものだった。一緒にいるときには見せたことのない一面で、僕は素直に驚いた。
何より圧巻だったのは、夕食後の花火大会に女性分の浴衣を用意していたことだ。ペンションの人に相談し、無料で借りてきたらしい。合宿に参加していた女の子たちは皆大喜びで、僕たちはただ唖然とするしかなかった。
浴衣姿の女性たちと海辺の花火。その組み合わせは、夏の終わりを艶やかに彩っていた。誰かのプレイリストから流れるサザンの曲が、海風に乗ってふわりと漂っていた。
「いいでしょ」
彼女が得意げに言った。彼女の浴衣は自前らしい。いつのまに荷物に忍ばせていたのだろう。
「浴衣の女の子って可愛く見えるもんね」
「うん。可愛く見える」
「私も?」
「うん。可愛く見える」少し強めに答えた。
「ありがと」
めずらしく照れているようだった。その表情が、夏の光よりも柔らかく見えた。
「めずらしいね。あなたがそういうふうに言ってくれるなんて」
確かに、綺麗だとか似合ってるとか可愛いとか、僕はほとんど言ったことがなかった。
「さては私の浴衣姿に惚れ直したな」
彼女がいたずらっぽく言う。
「そうかも」
僕は笑いながら答えた。
本当は、浴衣姿そのものよりも、普段見せない彼女の一面を見たことで、心が軽くなったような気がしていた。
普段の彼女は、わがままに振る舞っているように見えていた。けれどそれは、僕に気を遣っての行動だったのだろう。二人のことにあまり積極的ではない僕を責めず、二人で楽しめるように、彼女が積極性を前面に出してくれていたのだと気づいた。
そう思うと、彼女の存在が、胸の奥で静かに、しかし確かに愛おしくなった。
「浴衣マジックにやられたかも」
僕はそっと彼女を抱き寄せた。
「だ〜め。人が見てるから」
彼女は笑いながら言い、「また後でね」と言って離れていった。
去り際に、ふと振り返って言った。
「今日はあの娘の誕生日でしょ。だからあなたと離れていたくなかったの」
その言葉は、海辺の風よりも静かに、僕の胸に落ちていった。
♪ Chapter Playlist
Every summer has its own soundtrack. Here are the songs behind this chapter.
trf「Boy meets Girl」
小田和正「真夏の恋」
TUBE「Remember Me」
松任谷由実「真夏の夜の夢」
杉山清貴「Moonlight Dancing」
ZARD「こんなにそばに居るのに」
サザンオールスターズ「栞のテーマ」
See you in the next chapter.




