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萌芽のダンジョンコア  作者: 旅燕
第一章

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名付けと呪い

 レンが目を覚ましたのは、寝台の上だった。


「あれ、オレ……」


 レンは寝台から起き上がろうとして、次の瞬間強い頭痛があることに気が付く。


「っ!」


 とっさに額を押さえる。

 身体の調子がおかしい。頭がガンガンと痛む。吐き気がする。体全体が鉛のように重い。

 ひどい体調に、レンの頭の中にある言葉が浮かぶ。


「二日酔い……?」


 それはレンにとって、話に聞いたことしかない概念。だが、今の自分の体調はそうだとしか思えない。


「どうして……」


 自分は今まで、そんなことになった覚えがない。どれだけ飲んでも酔わないのが自慢だったのに。

 そう考えたところで気が付く。


「あ……」


 白く細い腕。丸い爪。かろうじて残った短い角。

 そうだった。自分の体は変わってしまったのだった。


「…………」


 レンは窓の方に視線を向ける。影の向きからして、ほとんど時間は経っていないと思われた。

 その時、ギッと扉を開く音がして、オークの戦士長が部屋に入ってきた。


「起きたか」


 戦士長はレンが起きていることに気が付くと、寝台のそばに椅子を持ってきてそこに座る。


「丸一日だ」

「……何がだ」

「おまえが眠っていた時間だ」

「え?」

「嘘じゃない」


 まさか一日も寝込んでいたなんて。メレムに申し訳ない。すぐにでも起きて、帰り支度をしなければと思うが……体は重く、言うことを聞かない。

 戦士長は、はあとため息をつく。


「おまえは、変わったな」

「…………」


 レンは言葉を返さなかった。


「それはやはり、名付けのせいか?」


 が、戦士長の言葉にピクリと反応する。


「そうか」


 それだけで戦士長は察した。


「おまえは、どんな想いで名付けられた? 姿形が変わるほどの名前を、どんな想いで?」


 まっすぐにレンを見つめる戦士長。

 寝台に伏したまま、レンは小さな声で言う。


「……言えない」

「ならば、おまえの名付け親のリュールとやらに聞くしかないな」


 が、戦士長の次の言葉を聞いて、観念する。


「『友達になれたら嬉しい』。それがオレの名前に込められた願いだ」

「……なるほど」


 戦士長は納得したように頷いた。


「その結果、おまえの魂は今、どうなっている?」

「…………」


 レンはしばらくの沈黙の後に言葉を返す。


「今のオレは……アイツへの想いが、とめどなく溢れてくる。アイツへの愛情。愛されたいという渇望。尽くしたいという願望。喪失への恐怖。そういうのが全部溢れて、止められない」


 こうして話をしている今だって、すぐにでもリュールのもとに戻って、その姿を確かめたいという欲求があるくらいだ。


「自覚はあるんだな」

「ああ。歪んでいる自覚ならある。けど止まらない」


 レンの言葉を聞いて、戦士長はこう返す。


「もはや祝福ではない。呪い、だな」

「…………」


 レンは何も答えられない。自分の今の状態を表すのに、これ以上ないほど適した言葉だと思ったからだ。


「おまえの名付け親はそのことを知っているのか?」

「知らない。言ったところでどうにもならないからな」


 ……魔物の名付けは、一度成されれば撤回不能。そこに込められた想いも、祝福も、呪いも。

 だからレンは、この呪いを抱え続けて生きるしかない。


「アイツは、何も知らなかったんだ。名付けの意味も、祝福も、呪いも。だから仕方がない」


 その重みは、自分の胸に留める。それがレンが出した結論だ。


「だからおまえも……アイツには言ってくれるな。アイツを責めたところで、もうどうしようもないのだから」


 戦士長は友人の言葉にこう返す。


「そうだな……おまえならそう言うだろうな」


 レンは思わず目を見開く。


「……そうだろうか」

「ああ、おまえはそういうやつだ」


 戦士長の目に、嘘や気休めは見えなかった。レンは小さく笑う。


「そうだと、良いな」


 魂のあり方が歪められ、精神の構造が変わろうとも、変わらないものもある。


 ――オレは、オレのままだ。


 レンは思う。



 そして次の朝。まだ少し体調は悪いが動ける程度には回復したレンは、メレムを連れてオークの里を出る。

 二人のオークと戦士長も一緒に、だ。

 戦士長は里の者たちに向かって、豪快に手を振る。


「おう! それじゃあ、しばらく留守にするからな!」

「行ってらっしゃい、戦士長!」


 戦士長はリュールに対して個人的な興味を持ち、会ってみたいとレンに持ちかけたのだ。

 レンは渋ったが、弱みを握られた以上はどうにもならなかった。実際のところ、戦士長は何があっても他言しないだろうと分かっていても。

 表向きは取り引きを見届けるため。裏ではリュールに会い、レンをドワーフの隠れ里に導くために、戦士長は里を留守にする。


「よし、じゃあ行くかレン。メレムのことはおまえがおぶってくれ」

「それは言ってくれるな」


 一昨日の失態は今でも鮮明に思い出せる。

 だからこそ二度は繰り返さないと、レンは顔を赤らめつつも誓う。

 メレムとお付きのオークたちは意味が分からずに首を傾げた。


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