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萌芽のダンジョンコア  作者: 旅燕
序章

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冒険者

 今日も今日とて、リュールはダンジョンの拡張と戦力増強を行なっていた。

 階層の数自体は十一層から増やしていないが、一層ごとの広さは随分と広がった。

 一ヶ月の間で色々実験をして分かったことだが、どうやら魔物を増やすのが一番魔力が成長しやすいらしい。

 ダンジョンの一層目はレンに言われた通り、薬草と薬木のエリアのまま。広さに余裕ができたら食料になる植物も増やしてくれと言われていたので、今では穀物、野菜、果物なども植わっている。草食の魔物たちには大好評だった。

 リュールが、六層目で魔物の配置を考えている時であった。


 ――リュール様ー!


 どこかからエミリの呼ぶ声が聞こえる。探すと、一層にある入り口で彼女が手を振っていた。

 ダンジョンコアにとってダンジョン内部の状況を把握するのは簡単なことであった。それにこの体……レンは依代に近いものだろうと言っていた……はダンジョン内であれば好きに移動できる。

 リュールは依代の体を瞬間移動させて、エミリの前に姿を表す。


「呼んだ?」

「はい。レンが帰ってきたので、その報告を。ただ、ちょっと困ったことがありましてですね」


 リュールは首を傾げる。



 それから数十分後。ダンジョンの第一層でリュールはコボルトたちから事情を聞いていた。

 その集団は、男性三人、女性四人、子供が十人である。

 彼らは集落が滅ぼされてしまって、行き場を失くした者たちであった。

 男性三人は行商に出ていて無事だったコボルト。女性と子供は、いざという時のために用意してあった避難所に逃げ延びて助かったコボルトたちであった。


「集落はひどいありさまだったよ。建物は全部壊されて、殺されたコボルトたちも……毛皮や牙を剥がれていた」


 行商の護衛をしており、その場に居合わせたレンが語る。


「ひどい……誰がそんなことを?」


 リュールが聞くと、レンは一瞬躊躇した後で答える。


「人間だよ」

「っ!」


 自分と似た姿をしているという生き物。その言葉に、リュールは胸を締め付けられるような感触がした。


「冒険者を名乗る連中の仕業で、間違いないと思う。魔物相手なら、コボルトたちはあんな目に遭わされていないだろうからな」


 その場にいるコボルトたちが悔しそうに拳を震わせる。


「それで……みんなはこれから、どうするの?」


 リュールが聞くと、この場にいるコボルトのリーダーである黒毛の個体が言う。


「……どうしようもないですよ。人間たち相手じゃ、おれたちは敵わない。嵐に遭ったとでも思って、別のところに集落を建て直すだけです」

「レンでも無理なの?」

「ああ。オレが暴れれば人間の集落のひとつふたつ滅ぼせるかもしれないが……それで終わりだ。人間たちは数が多いし、団結する。人間に牙を剥いた魔物は、追い立てられて狩られるだけだ」


 レンの言葉にリュールは視線を落とす。

 人間。自分に似ているという生き物。


「コボルトたちは、人間に何かをしたの?」

「まさか。見つからないように息を潜めていただけですよ」

「人間たちは、オレたちの魔石や血肉、骨、毛皮といった素材を得るために狩りをするんだ」


 あまりにもひどい話だ。

 何故、何の罪もないであろうコボルトたちがそんな目に遭わなければならないのか。

 やるせない気分であった。


「つきましては、リュール様にお願いがあります」


 黒毛のコボルトはその場に跪く。


「集落を建て直すまでの間、ご慈悲をお恵みいただけないでしょうか?」

 硬い言葉遣いだが、意味は分かる。集落の再建をするまでの間、手助けをしてほしいということだ。

 土下座をする黒毛のコボルトに、リュールはレンを見て意見を求める。


「オレは、彼らを助けて構わないと考えている。でなければここに連れてきていない。コボルトたちは受けた恩を忘れない種族だし、口も固い。それにオレたちも、いつまでもダンジョンに引きこもっているわけにもいかないからな。いずれ周囲の魔物に見つかるだろうし、それこそ冒険者がやってくる可能性もある。外部との接触は、どうあっても避けられない」


 その第一段階として、コボルトは悪くないとレンは言う。


「うん、分かった。レンがそう言うなら信じるよ」


 リュールはコボルトたちに向き直る。


「分かったよ。ぼくたちにできることであれば、力になる」


 すると大人のコボルトたちが一斉に頭を下げる。

「ありがとうございます! リュール様、レンの旦那! このご恩は忘れません!」

「あはは。気が早いよ。それより、ぼくたちにできそうなことって何があるかな?」



 コボルトたちには、ダンジョンの一層目を貸し与えることに決まった。

 八層目までに生息するダンジョンの魔物たちには、コボルトたちを攻撃しないよう伝達する。九層以降の魔物にもコボルトたちが逗留していることは伝えているが、ここより先に侵入してくるようなら攻撃して構わないと伝えた。

 名付けをしていないダンジョン産の魔物に限るものの、リュールはダンジョンコアを通じて自分の言葉を伝えられる。便利なものだ。

 当然コボルトたちにも、攻撃されたくなければあまり奥まで進まないように伝える。


「はい! 子供たちにもよく伝えておきます!」


 またコボルトたちからは見返りとして、調薬と裁縫という技術を教えてもらうことになった。

 それと、リーダーである黒毛のコボルトには、リュールから名前を授ける。


「きみの名前は、『メレム』にしよう」


 ――賢く、勇気あるリーダーになれますように。


「ありがとうございます! まさか名前までいただけるとは……! このメレム、決してあなたを裏切らないことを誓います!」


 一通り話が終わったところで、ダンジョンに実る植物を収穫し、食事を始める。

 コボルトは肉を好むが雑食の種族なので、問題無くダンジョンの恵みを受けられる。

 リュールは空腹を感じない……食べなくても問題のない種族らしいので、この輪には入らず見守るだけだ。

 そして観察に徹していたリュールは、ふとレンのある様子に気付く。


「レン、食べないの?」


 レンは、コボルトたちが適当に収穫してきたダンジョンの恵みを漁っていた。


「ああ、いや。食べるよ」


 やがてニンジンを見つけたレンはそれにかじりつく。けど、その表情は複雑そうだ。


「……? 芋もあるけど」


 最初に会った時のレンが貪るように食べたそれを、リュールが手に取る。

 しかしレンは首を振る。


「いや、いい」


 そして複雑そうな表情をしながら、事情を話す。


「この姿になってから食べ物の好き嫌いが激しくなってな。芋なんて、粉っぽくて食べられたものじゃないんだ」


 その言葉を聞いてリュールはピンと来る。


「それって、生で食べてるからじゃないの?」

「へ?」


 リュールは即興でかまどを作り出すと、火魔法で芋を炙る。十分に火が通ったところで火を消し、レンにそれを渡す。


「騙されたと思って食べてみてよ」


 レンは怪訝そうな顔をしながら、それでもリュールが言うことならと焼いた芋をかじる。


「これは……!」


 レンは驚いた顔をすると、夢中になって芋を食べ進める。そして食べ切ると、納得したように呟く。


「なるほど……人間がいちいち食べ物を焼くのはどういうことかと思っていたんだが、こういうことなんだな」


 そしてリュールが作ったかまどで、色々なものを焼いて食べてみる実験を始めた。



 食事が終わったところで、リュールはレンに聞く。


「人間や、冒険者のことについて知りたい」


 ダンジョンの主として、知っておかなければならないことだと感じた。


「分かった」


 レンはそう言うと、土の上に簡単な地図を描き始める。

「ここが、オレたちが今いるダンジョンだ。それで、ここがコボルトたちの集落があった場所で……ここが人間たちが住む街だ」


 位置関係としては、ダンジョンと街の間にコボルトたちの集落があった形だ。


「このダンジョンと人間たちの街は結構近いの?」

「ああ。オーガが本気で移動すれば一日もかからないくらいの距離だ」


 人間の足ならどの程度なのだろうかと思ったが、おそらく数日以内には到着するだろう。


「人間は群れで生活している生き物だ。個々は大して強くないが、数がとにかく多い。だから侮れない。そして冒険者についてだが……」


 レンは今までに聞いたり見たりした彼らの所業を思い返す。


「やつらは残虐で、オレたちのことを肉か素材か、もしくは的としか思っていない連中だ。そりゃオレたちだって狩りはするけど……アイツらとオレたちじゃ考え方が違う」


 魔物の狩りは、基本的に生きるために行うものだ。糧のため、身を守るため……テリトリーを巡って闘争になることもあるが、それだって回りくどいが生きるためなのだ。

 自分が生き延びるのに必要なテリトリーさえ確保すれば、それ以上は求めないのが普通だ。

 けれど冒険者は違う。魔物のテリトリーに土足で踏み入り、称賛のために魔物を狩る。そこに、人間への害意があったかなど関係無い。


「オレが見た中で一番酷かったのは、魔石と耳だけを取られて放置されたゴブリンの集落だな」


 リュールは絶句する。自分たちと似た見た目の種族と聞いて、勝手に親近感を得ていたのは自分だけだった。


「あの、それじゃあ、ぼくの精神のことって……」

「ああ。黙っておいた方が良いだろうな。そんなことを言ったら警戒する魔物の方が多いはずだ」


 レンとエミリに受け入れられたのは、ただの偶然……いや、レンは自分が彼の心を縛ったからで、エミリは自分が生みの親だからだと、リュールは考え直す。


 ――コボルトたちは、ぼくのことを知ったらどう思うのだろう……?


 軽蔑されるだろうか。怯えられるだろうか。

 だが何にせよ、軽々しく口外することではないとリュールは悟る。


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