角を隠して
できる限り急ぎで移動して、人間の街の近郊までやってきたのは昼前。
そろそろと思って歩きに移行したところで、レンはアーマーグリズリーを解体している冒険者一行を見かける。
「あ? なんだおまえ。見せ物じゃないぞ?」
少しの間観察していると、冒険者の一人がレンを睨んでそう言う。
「ああ、すまない。すごいなと思って、つい見てしまった」
レンがさらりと嘘を付くと、レンに話しかけてきた冒険者は途端に機嫌が良くなる。
「そうだろう? アーマーグリズリーを狩れる冒険者なんて、そうは多くないからな!」
「そうだな、アーマーグリズリーがやられているところなんて初めて見た」
実際のところレンは徒手で倒せるのだが、そこは言わない方が良いと空気を読んだ。
「それよりおまえ、見ない顔だが新人か? だとしたらこれ以上進むのはやめとけ。この先は強い魔物が増えるし、西に行くとオーガも出てくるから気を付けろよ」
「ああ。教えてくれてありがとう」
冒険者たちに軽く会釈をすると、レンは街の方向に向けて歩き出そうとする。その時だった。
「ああ、そうそう」
冒険者がレンを呼び止める。
「なんだ?」
唐突に呼び止められたことにレンは内心緊張しながら振り向く。すると冒険者は軽い口調でこう言う。
「一個教えておいてやる。オーガは臭いからな。近くにいればすぐ分かる。変な匂いがしたら急いで逃げろよ」
……どうやら全く疑われていないようだ。
「分かった。憶えておく」
「おう!」
そして軽く手を振り合い、レンは冒険者に背を向けて歩き出す。
――とりあえずは問題なさそうだな。
帽子の中の角を思い出しつつ、レンは黒く染めた髪をなびかせ街がある南へと進む。
「それにしても臭い、か」
レンは自分の手首をくんと嗅ぐ。
「やっぱり人間もそう思うんだな」
オーガの体臭が強いのは、レンもこの姿になってから気付いたことだ。
自分の一派のオーガたちが越してきた後、レンは毎日の水浴びを彼らに徹底しているのだがそれでも改善しない。
「……オレは、大丈夫だよな?」
自分の匂いは自分では分からないが……冒険者たちが顔をしかめる様子も無かったので、大丈夫だろうと言い聞かせる。
街が近付くに連れて、冒険者の数は次第に増えてくる。目が合う者もいたが、誰もがちらりとレンを見るだけで興味を失う。
レンの正体について、何も疑われていない。
やがて森が切れ、人工的に切り開かれた草原が目に入った。レンは知る由もないが、森から魔物が攻めてきた時を想定した緩衝帯である。
緩衝帯の向こうに、街壁に囲まれた中規模の街が目に入る。
「あれがマルスか」
今は亡き父から聞いたことがある。聞いたのは街の名前だけで、どんな街かまでは知らないが。
街の北門には一応見張りの兵がいたものの、特に呼び止められることもなく街の中に入れた。
街の中には当然だが多くの人間が歩いている。
――さすがに、少し緊張するな。
周りにいるのは自分の天敵だ。オーガの里での戦いで、人間の数人程度なら敵にならないことは分かっている。しかし、ここは敵の本拠地。多少の緊張はあった。
とはいえ、誰かに話しかけなければ話は進まない。しばらく歩いたところで公園を見かけたので、そこで日なたぼっこをしている老爺にレンは話しかける。
「こんにちは、爺さん。少し話を聞きたいんだが、良いか?」
「ん……? どうしたね? 兄さん」
老爺は突然話しかけてきた見知らぬ青年に、少し驚いた様子であったが、すぐに気を取り直して優しく微笑む。
「オレはこの街に初めて来た冒険者なんだが……どこか見どころとか、あるか?」
「見どころ? そんなもんありゃせんよ。この街は観光地じゃねえし」
「そ、そうか」
一瞬気まずくなりかけるも、続けて老爺はこう聞いてくる。
「兄さんこそ、なんでこんな街に来たんだ?」
「オレが来た理由? まあ、何となくだ。この街の名前が気に入ってな」
もちろん適当な嘘である。しかし老爺は深く考えずにそうかいと言う。
「だとすると、最悪な時期に来ちまったねえ。兄さん、仮面の亜人って知ってるかい?」
「いや、知らない」
レンが小さく首を振ると、老爺はこっちに来いと手招きして小声で話し出す。
「二ヶ月近く前の話さ。レノシア兵が北西にあるオーガの巣に攻撃を仕掛けたんだ」
「はあ……」
この時点でレンは何となくオチを察したが、そのまま話を聞く。
「レノシア兵どもは最初は善戦していたらしい。けどそこに、白い仮面を被った男が乱入してきたんだと」
「…………」
「その仮面の男はこーんな長い棒を振り回して、鎧を着たレノシア兵を吹っ飛ばしたんだと。他にも魔法を撃てばレノシア兵が骨も残さず燃え尽きたって」
分かっていたオチにレンは静かに納得する。
――オレの話だな。
ここまで聞けばもう間違いない。白い仮面に黒いケープを被って戦った、あの時の自分のことだ。
「まあ、この街の連中は誰も信じちゃいないけどね。大方、作戦に失敗したレノシア兵どもの嘘っぱちだろうさ」
「そうだな」
実際のところは嘘でも何でもないとレンは知っているが……わざわざ正体を明かすメリットもないので適当に話を流す。
「まあそういうわけで、レノシア兵のやる気が落ちててねえ。その分が冒険者に回っているのさ。冒険者たちは今、すごく忙しいって話だよ。大変だねえ」
そう言いつつも老爺はくすと笑う。
「随分と嬉しそうだな」
レンが指摘すると、老爺はそれを否定せず肩をすくめる。
「そりゃそうさ。レノシア人が苦しむのを見るのは、悪くない気分に決まっているだろう」
レンがわけも分からずに内心戸惑っていると、老爺はふんと鼻を鳴らした。
「儂はグルクシア人だ。卑怯なレノシアになど属した憶えはない。必ずグルクシアに戻れる日が来ると信じておる」
そう言い捨てると、老爺は立ち上がり苛立った様子で去っていった。
「グルクシア、か」
話の文脈からして、それが元々この辺りを収めていた勢力の名前なのだろう。そしてレノシアがそれを奪い取った。
だとすると、突然人間が動いた理由にも納得ができる。勢力が変わり、方針が変わったのだ。
レンが物心ついてからは偶発的な衝突はあっても、人間たちが森に攻め込んでくることはなかった。
――だとすると、また来るかもしれないな。
そう考えて、レンは気を引き締める。
その後も適当に歩いていると、街の人が使う市場に辿り着いた。
――ドワーフの隠れ里と比べると、活気が無いな。
ドワーフの隠れ里の市場は、交渉をする主婦の声や呼び込みをする商人の声で賑やかだった。
しかしこの街の市場は人こそいるものの、その割には静かに見える。
何か理由があるのだろうかと、レンは足を止めて耳を澄ませる。
「やだねえ、また野菜の値段が上がってるよ」
「あら、本当。レノシアになってから上がるばかりよね」
「グルクシアの時はこんなこと無かったのにね」
ある主婦たちは小声で愚痴を言い合っている。
「まったくろくでなしのヴェストリエのせいで、何もかもがめちゃくちゃよね」
「そうねえ。街の電灯も切れたままだし、道もろくに手入れされてないし……」
「ふん。しょせん隠し子だからね。あの人でなしは。庶民の暮らしなんて分からないのよ」
「ちょっと、言い過ぎよ。レノシア兵に聞かれたらまずいわよ」
「あ……そうね。ともかく、嫌になっちゃうわ」
主婦たちは軽く周囲を見ると、そそくさと立ち去っていった。
入れ違いに鎧を着た二人組の兵士が通りがかる。
「はー。もう嫌になるよな、この街」
そろっと後をつけるレンに気付かず、兵士たちは話しながら歩き続けている。
「おれらが頑張ってるのに、住民は文句は多いわ、睨んでくるわ……」
「気持ちは分からんでもないけどな。俺だってグルクシア民だったらキレてるもの」
「まあなー。よりによってあのヴェストリエ家の子供が司令官で、統治者とかな」
兵士たちは肩をすくめる。
「悪い人ではないんだけどな。俺たちから見れば」
「贅沢するわけでもないしな。ちゃんと街に金は流してるし。おれの故郷の領主の方がよっぽどひどかったよ」
「むしろグルクシア民が贅沢なんだよ。もうレノシア民になったんだから、馴染んでもらわないとな」
続く話は愚痴ばかりだったので、レンは適当なところで尾行をやめた。
――どうやら「ヴェストリエ」という家の子供が司令官とやらで……統治者ということは族長に当たる人間なのか? 街の人には嫌われているらしいな。
レンはそういう結論に至ると、また適当にうろつく。
注意深く街を見ていると、今度は空き家が多いことに気がついた。売り出し中の張り紙がしてあったり、雨戸に汚れが積もっていたり。
どういうことかを聞きたいと考えていたところ、小さな路地に薬屋の看板を見つける。窓には冒険者向けなのか、「薬草買います」の張り紙がしてあった。
ちょうど良いと、レンはその店に入る。
「いらっしゃいー。おや、随分な美形さんだねえ」
気の良さそうな中年の男性店主がレンに言う。
「どうも。ここは薬草の買取もしているんだよな?」
「そうだよ」
レンはカバンから草を取り出す。今朝収穫してきたばかりの薬草で、目立つといけないのでこの辺りで珍しいものは含まれていない。
「これらの買取をお願いしたい」
「はいはい。じゃあ鑑定するから、少し待っててよ」
カウンターに並べた薬草の鑑定に取り掛かる店主。
人間の世界では欲しいものがあればお金で買うのが当たり前なので、お金は作っておくようにと言われていた。必要なものがあれば好きに買うようにとも。
「うん。これは良い薬草だ。葉が厚いし、茎も太い。色付きも良し。良い群生地を見つけたんだね。内緒にしておきなよ?」
実際のところは、ダンジョンで育てているものをマンドレイクに分けてもらっただけなのだが……本当のことを言うわけにもいかないので適当に頷いておく。
店主は相場よりかなり良い値段を提示した。もっとも、レンには分からないのだが。
「はい。じゃあこれが代金ね」
「ああ」
査定結果に文句も言わず、レンは革の巾着袋に受け取った代金をしまった。
「ところで、少し聞きたいことがあるんだが」
「ん? どうした?」
薬草を片付けながら尋ね返す店主に、レンはこの店に入ったもう一つの目的を言う。
「この街、やけに空き家が多い気がするんだが、何かあったのか?」
「ああ、それか……」
店主は顔を曇らせた。
「この街は二年前まで、グルクシア王国の土地だったのは知っているだろう?」
「ああ」
それは既に周りの様子で分かっている。
「グルクシア王国では亜人にも人間と同等の権利を認めてたんだよ。だから、普通に街に亜人が暮らしてたんだ。けど、レノシアはそうじゃないだろう? みんな逃げたり連行されたりで……この街の空き家は、いなくなった人たちが住んでた家なんだよ」
「……そうなのか」
亜人というのは、人間以外の人類種のことだ。レンもリュールの授業でその概念は教わっている。エルフ、ドワーフ、ハーフリングが代表的で、地域によっては獣人種など他の種もいる。
「おかげで、この街はすっかりさみしくなっちゃったよ。彼らは今、どこに行ったんだろうねえ。無事に逃げ切れていると良いんだけど」
しんみりとした後、店主は気を取り直すように薬草の片付けに戻った。
そしてその日の夜遅く、レンはリュールのダンジョンに戻ってきた。
「おかえり、レン!」
レンがダンジョンに入るなり、リュールが目の前に転移してきて抱きつく。
「ああ、ただいま」
その頭を撫でてやると、リュールはレンを見上げて嬉しそうに笑う。つられてレンも穏やかに笑う。
「何か危ないことは無かった?」
「ああ。アンタが色々教えてくれたおかげだよ。ありがとう」
「えへへ」
二人はベンチに移動し、レンが報告をする。
「まず街の様子だが……どこか陰気な感じだったな。オレが行ったマルスという街は、二年前まで別の国が治めていたらしい。レノシアという国が治めるようになって大きく変わったそうだ」
住民はレノシアに対してあまり良くは思っていないことや、統治に不満があることを話す。
「それとレノシアという国は、亜人に対する考えが以前治めていた国とは違うらしい。そのせいで住民が逃げたり、どこかに連れ去らわれたりしたんだとか」
「……そうなんだね」
穏健で優しいリュールは心を痛める。そのしょんぼりとした顔にレンも心が動きかけるが……それは無視して話を続ける。
「マルスの統治者は、ヴェストリエという家の子供らしい。司令官とも呼ばれていたな」
「ヴェストリエ?」
リュールが首を傾げて聞き返す。
「ああ。街の人からは相当嫌われているらしい。詳しい話は聞けていないが……次に行く時にもまた聞いてみようと思う」
薬屋を出たあと、レンは何人かの街の人に話を聞くも、統治者の話題になると街の人たちは何も言わずに去っていった。どうにも話しにくい事情があるらしい。
「あとは……オーガの里でのオレの戦いぶりが、噂になっているらしい。『仮面の亜人』と呼ばれているって話だ」
「そうなんだ。やっぱり顔は見られないようにして正解だったね」
「ああ。ありがとう、リュール」
リュールは力になれて良かったと思った。
「他には、貰った薬草を金に変えて、服の予備を少し買った」
「うん。それは良いと思うよ。きみの服、ちょっとぼろぼろだものね」
「ああ」
レンの服は、行き倒れの冒険者からコボルトが失敬したものであるため、あまり品質が良くない。
コボルトたちが丁寧に洗っているおかげで汚れこそ目立たないが、繕った跡があったり、生地がよれていたりする。
「それでこの後のことなんだが……今晩はこのダンジョンに泊まっても良いか? 他の連中を起こしても悪いし」
レンにはまだ個人の家が無い。彼の住まいは男のオーガ三人との共有で、一つの部屋を布(フラファンの少女が織った)で区切った程度の最低限の建物だ。
「うん。良いよ」
「助かる。じゃあとりあえず、染め粉を落としたいから場所を借りても良いか?」
「どうぞ」
リュールと共にレンはダンジョン内の泉へ向かう。
「そういえば、この石鹸というものはどう使うんだ?」
鞄の中から今まで使ったことの無い白い塊を取り出し、レンは首を傾げる。するとリュールがそれに答える。
「これは水やお湯で濡らして、軽くこするんだよ」
レンは早速泉に石鹸をくぐらせると、言われたとおりに軽くこする。
「泡が出てきたな」
「そう。あとはその泡を使って、髪とか体とかを揉んだりこすったりするんだよ。そうすると髪や体が綺麗になるんだ」
「そうなのか」
「うん」
レンは黒く染まった横髪を泡の付いた手で軽く揉む。すると白い泡はたちまち黒く染まる。
「最後に、水やお湯で洗い流せばそれで終わりだよ」
レンは髪を持つ手から魔法を使って水を出し、泡を洗い流す。染め粉の取れた髪は鮮やかな青色に戻っていた。
「なるほど、分かったよ。ありがとう」
「どういたしまして。せっかくだから全身洗っていったら? 今の時間は誰も来ないだろうし。染め粉が残っても嫌でしょ?」
リュールの提案にレンは少し考えてから頷く。
「そうだな。お言葉に甘えさせてもらう」
「うん、ごゆっくり」
リュールは軽く手を振ると、別の場所へと転移した。
一人になったリュールは、ダンジョン内の誰もいない場所に立っていた。
――ヴェストリエ家、か。
考えるのは、オーガの里への侵攻を決めたであろう者が属する家。
――どんな人なんだろう。やっぱり怖い人なのかな。
レンの話を思い返しながら、リュールは一人思考にふけっていた。
しばらくして。
ダンジョン内でレンが呼ぶ声を察知したリュールは、泉のそばに戻る。
服を着直したレンは、髪をボロ布で拭いているところだった。
「この石鹸というものは悪くないな」
リュールが姿を現すなり、青髪に戻ったレンはそう言う。
「水で流した感じが良い。肌を撫でた時に引っかかる感触が無くなった。髪の指通りも良くなった」
石鹸を初めて使った感想を語るレンに、リュールは笑顔を見せる。
「そっか。気に入ったなら良かったね」
「ああ。悪くない」
レンは泉の近くにあるベンチに腰掛ける。まだ湿った髪のレンを見て、リュールはこう言う。
「良かったら髪の毛、乾かそうか?」
「良いのか?」
「うん」
リュールはレンの後ろに回ると、手から温風を放ちながらレンの髪に指を通し、乾かし始める。火魔法と風魔法の合わせ技だ。
「本当だ。さらさらだね」
「ああ」
丁寧にレンの髪を乾かすリュール。
と、レンの小さな角に軽く手が触れる。レンはそれに一瞬身を硬くした。
「あ、ご、ごめん!」
そのことにすぐ気付いて、リュールはレンに謝る。
「いや、良いんだ。気にしないでくれ」
レンは小さく首を振る。
「わざとじゃないのは分かってる。こちらこそ、大げさにしてすまない」
「うん……」
やがて髪を乾かし終わると、リュールはレンの隣に座る。
「終わったよ」
「ああ、ありがとう」
レンが礼を言うと、リュールは少しだけ考えてから聞く。
「角、触っちゃってごめんね。触られるの、嫌だった?」
リュールの言葉にレンは少し考えてから返事をする。
「別に、アンタに触られる分には嫌じゃない」
「そっか。…………」
リュールはレンの方に体を少し向ける。
「もう少し聞いても良いかな?」
「なんだ?」
「オーガにとって角って、触られたくない場所だったりする?」
おずおずとした質問に、レンは頷く。
「気安く触って良い場所ではないな。基本的には家族か、もしくはそれと同じくらい信頼している者にしか触らせない」
その言葉にリュールは申し訳なさそうに俯く。
「落ち込まないでくれ。オレは、リュールに触られる分には嫌じゃないと言っただろう?」
「え? それって……」
フォローのためにかけられるレンの言葉に、リュールは顔を上げる。
「オーガにとって角は、武器の一つであり、誇りなんだ。だからオーガは角を大事にする」
そう言いながらレンは自分の角に触れる。長さ五センチもない、小さな角。
「オレの角はもう武器にはならないが……それでもこれは、オレにとっては誇りのままだ。これがあるからオレは、自分がオーガであることを忘れずに済む」
それは精神のありようの問題。
リュールによる名付けの影響で人型に進化し、ありようも変わったレンだが、その心は未だに変わらないつもりだ。
「そうなんだね」
「ああ」
手を下ろしたレンは穏やかな顔で頷く。
「……ねえ、レン」
「どうした?」
「きみの誇りに、もう一回触ってみても良いかな?」
レンはその言葉に少し驚いた顔をするも……すぐに微笑んでこう返す。
「ああ。良いぞ」
そして軽く頭を下げて、リュールが角に触れやすいようにする。
「ありがとう。……触るね」
リュールはレンの頭に手を伸ばすと、改めて角に触る。
短く、小さく、細い。先端はあまり尖っていない。色は乳白色。きめ細かく、手触りは滑らかでひんやりとしているが、背景を知ればどこか温かくも感じられる。
「うん。もう良いよ。ありがとう」
リュールが手を離すと、レンは頭を上げる。
「小さくても、意外と硬いんだね。優しいけど強い、きみらしい角だと思う」
「そうか。アンタはそう思うんだな」
二人は穏やかに笑い合った。




