↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
萌芽のダンジョンコア  作者: 旅燕
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/29

祝宴

 レンたちが帰還したのは翌々日の午前中だ。

 その日の夜は宴会だ。オーガたちが狩猟してきた獣の肉と、マンドレイクやコボルトの子供たちが収穫してきた果物や野菜。大皿に盛られたそれを前に、レンが乾杯の音頭を取る。


「オレとしては正直色々と思うところはあるが……ひとまず、全員が無事だったこと、オーガの里を防衛できたことは素直に喜びたいと思う。乾杯」

「乾杯!」


 リュールのダンジョン内で、オーガの里から持ち帰った酒を開けて乾杯する。オーガたちだけでなく、リュールたちやドワーフ夫妻、コボルトたちも同席する。

 味覚の弱いオーガたちであるが、酒は好物だ。味は分からずとも、酔いや場の空気を楽しむ。

 なお酒を飲まない者には代わりにマンドレイクたちが搾ったジュースが振る舞われており、レンもそれを飲む。


「みんな楽しそうだね」


 レンの隣に立つリュールが笑う。

 依代も含めて食事の必要が無いリュールであるが、食事の真似はできる。飲み物は十歳という見た目に合わせてジュースだ。


「少しはしゃぎ過ぎだがな」


 大騒ぎを始めたオーガたちに、レンはくすりと笑う。


「でも、今日くらいは良いだろう。酒なんて、次はいつ手に入るか分からないからな」


 レンの派閥に属していたオーガたちは、全員がこのダンジョン近辺に住むことに決まった。

 リュールのダンジョンの食料生産能力は高いとはいえ、オーガが十七人となれば一層だけでは食べ尽くされるので、新しく追加した十四層を二層と入れ替え、畑にすることが決まった。

 畑を作ったり階層を入れ替えたりができると聞いた時のレンは、思わず「何でもありだな」と呟いた。

 ラナの希望で作った十三層も、三層と入れ替え済みだ。

 空間維持と魔物の維持も合わせて自由にできる魔力の量はだいぶ減ってしまったが、リュールに後悔はない。どうせしばらくしたらまた増えると分かっているので。


「えー、レン。酒が手に入らないのかよー」


 既に酔っ払っている女オーガが、レンの肩に馴れ馴れしく手を置く。


「確認せずに来たほうが悪い」


 レンはその手を簡単に振り払う。最初はレンの姿に戸惑っていたオーガたちであったが、もうすっかり慣れた様子であった。


「良かったら、お酒の材料を作りましょうか?」


 エミリがそう提案すると、酔っ払いオーガは「本当に?」と赤い顔で聞く。


「はい! 畑のことは私たちマンドレイクに任せてください!」


 畑の世話担当は彼らの強い要望によりマンドレイクたちになった。リュール様のお役に立ちたいとのことだった。


「エミリ、甘やかさなくていい。それにここではまだ、酒を作るどころじゃないからな」

「だったら、レンの旦那。おれたちがサテュロスのところに材料を持っていってやろうか?」


 続けて提案をするのはメレムだ。


「アイツら多分、できあがった酒の半分をやるって言うだけで大喜びで依頼を受けてくれるよ」

「おー、そりゃ良いな。護衛ならウチに任せろよ」


 酔っ払いオーガは拳を軽く打ち出す真似をする。


「だが、ここの植物を持ち出すにはリュールの許可が無いと……」

「別に良いよ?」


 リュールはあっさり許可を出す。


「さっすが、レンの見込んだお方! 気前が良いねえ!」


 酔っ払いオーガは多少乱暴にリュールの頭を撫でる。


「……あまり迷惑をかけないようにな」


 レンは肩をすくめて笑うと、今いる場所を離れてオーガたちの集まっている一角に向かう。


「あ! レン!」


 ようやく主役が来たとばかりに、オーガたちは輪の中にレンを迎え入れる。


「ちょうど今ね、お兄ちゃんの話をしてたんだよ!」


 レンの妹は無邪気に笑う。


「お兄ちゃん、すっごく強くなったよね? あたしちょっとだけ見てたんだけど、人間たちがばーんと吹っ飛んでいくし、魔法も使ってるしでびっくりしちゃった!」

「他にも、族長たち三人相手に大立ち回りもしてたよな! ちっちゃくなってもさすがだよレンは!」


 口々にレンのことを褒める仲間たち。


「進化すると、あんなに強くなるんだな! 良いなあ、進化!」

「私もリュールさんに名付けてもらおうかな?」


 勢いで話が危うい方向に流れかけるのを、レンはやんわりと止める。


「やめておけ。オレの進化は多分、たまたま相性が良かっただけだ」

「えー」

「それに、アンタたちも名付けられるっていうのがどういう意味か分かってるだろう?」

「それは……」

「この話はこれで終わりだ」


 レンはこれ以上話す気は無いと、話を打ち切った。

 少しの間沈黙が流れた後、誰かが言う。


「それはそうと……レン、あなた今日は飲まないの?」


 レンはその質問に、やはり来たかと思う。

 オーガの姿だった時の自分は里一番の酒豪で、酒宴となれば誰よりも飲むのが当たり前だったからだ。

 しかし今は……


「飲まない」


 レンははっきりと言い切る。


「え? どうして? お兄ちゃん、あんなにお酒好きなのに?」


 妹にそう聞かれると、レンはあらかじめ用意していた言い訳を使う。


「里を追放されてからは飲まないことにしているんだ」


 その言い訳を受けたオーガたちの反応はというと……


「そうか。レンがそう言うなら仕方ないな」


 あっさり受け入れたのは緑髪のオーガ。しかし一方で、食い下がる者もいる。


「えー。別に良いじゃないか今日くらいは」

「そうそう、その里を守れた記念なんだから」

「今日を逃せば、次にいつ飲めるか分からないのに?」


 むしろ食い下がる者の方がずっと多い。


「飲まない」


 しかしレンはきっぱりと断る。とりつく島もない様子だ。

 そして……それを見ていた者の一人が、にやりと笑う。


「じゃあ飲ませてやるよ!」

「は?」


 ばしゃっ!


 レンの頭の上から酒が降った音であった。

 ぽたぽたと酒の雫が垂れる中でレンが酒が飛んできた方向を見ると、一人のオーガがニヤニヤ笑って酒樽を持っていた。


「おまえ……」


 少し怒った様子のレンに、仲間たちは悪ノリを始める。


「レン、俺の酒も食らえ!」

「そら、おかわりだ!」


 ばしゃっ! ばしゃっ!


「ちょっとおまえたち!」


 ばしゃっ!


 レンがそろそろ怒鳴り声を上げようとした瞬間だった。

 ぐらり。

 視界が揺れる。


 ――っ! まずい!


 こんなところで酔って失態を晒すわけにはいかない。

 焦ったレンはダンジョン下層に降りる階段に向かって突っ走る。


「おー、レンが逃げたぞー!」

「追いかけろー!」


 オーガたちは新しい遊びとでも思っているのか、その後を追いかける。


「レン……?」


 少し離れたところでリュールが首を傾げた。






 レンはダンジョンの四層で足がもつれて転んだ。足に力を込めるも、もう立ち上がれなかった。


「レン」


 そこに瞬間移動をしてきたリュールが姿を現す。


「りゅ……」


 うまく言葉を喋ることもできなくなっているレンを見て、リュールはレンが逃げ出した理由を理解する。


「レン、顔真っ赤だよ」

「う……」

「大丈夫。ぼくが守るから」


 リュールは地形操作や植物生成を使って、レンが倒れている辺りを囲い、外から見えないようにする。


「とりあえずこれでよし」


 満足げに頷くリュール。


 ――守って、くれたのか?


 回らない頭で何とかそれを理解した瞬間、レンの胸にとてつもない喜びが押し寄せる。


「レン、立てる?」


 そして優しく手を差し伸べるリュールに……レンは勢いよく抱きついた。


「わっ」


 リュールとレンは揃って地面に倒れ込む。


「レン……?」

「りゅーる……」


 リュールを抱きしめれば、安心感で満たされる。

 レンは口元に笑みを浮かべると、酔った頭で考える。


 ――良かった。里を守れて。みんな無事だった。ケガはしてたけど、みんな治せた。オレが治したんだ。オレが戦って、オレが守って、オレが治して、オレが、オレが……


 そこでレンの思考はぷつりと途切れる。

 リュールが見ると、レンは穏やかな表情で眠っていた。


「……おやすみ、レン」


 リュールは微笑むと、レンの頭を軽く撫でた。






 翌朝。


「う……」


 二日酔いの頭痛の中でレンは目を覚ます。


「あ、おはようレン」


 レンの腕の中でリュールがにこりと笑う。

 一瞬、頭が回らなかった。一瞬だけだった。


「っ!」


 レンはリュールを離してばっと起き上がる。


「いっ……」


 突然動いた反動で頭が痛む。


 ――……最悪だ。オレは何をしてるんだ。リュールに抱きついて、そのまま寝こけて。


 記憶はしっかりと残っている。よりによって一番失態を見せたくない相手に、それを見せてしまった。


「レン」


 二日酔いと自己嫌悪に頭を抱えるレンに、リュールは声をかける。


「レンは、恥ずかしいって思ったのかもしれないけど……でもね、ぼくはレンに頼ってもらえたみたいで少し嬉しかったよ」


 レンが顔を上げると、リュールは笑顔を見せる。


「…………」


 その笑顔に、レンの自己嫌悪は溶けていった。どうやら誰も傷付けずに済んだらしいという安堵と共に。


 ――まあ、今回はいいか。


 レンは少しだけ口角を上げると、リュールが差し伸べた手を取って立ち上がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。