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萌芽のダンジョンコア  作者: 旅燕
第一章

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乾燥小屋

 レンの妹が去った後、リュールはレンの背中に声をかける。


「良いの? 妹さんなんでしょ?」


 リュールに家族はいないが、レンの妹が滞在していた数日で彼女がレンを深く想っているのは伝わっていた。

 レンは振り返ると小さく頷く。


「ああ。オレはもう、アイツを守ってやれる立場じゃないからな」


 妹と同じ灰色の瞳はどこかさみしげだった。


「だが、アイツなら大丈夫だ。感情的になることもあるが、落ち着いて考えれば分かるやつだからな」

「そうなの?」

「ああ、そうだ」


 レンは誇らしげに頷くと、妹が消えていったダンジョンの入り口を見やる。


 ――妹さんのこと、信頼しているんだな。


 リュールがくすりと笑うと、それに気付いたレンは小さく咳払いをして次の話題に移る。


「それよりも、紹介したい人がいるんだ」


 レンは一度ダンジョンの外に出ていく。ダンジョンの外で作業をしているウルファムとラナを呼びに行くためだ。


「なんでしょうね。レンが戻ってくる度に、誰かを紹介されてる気がします」


 エミリがそんなことを呟く。

 ほどなくレンは、ウルファムとラナを連れてダンジョン内に戻る。


「リュール、エミリ。この二人はウルファムとラナ。ドワーフの隠れ里で知り合った夫婦で……ここで暮らしたいと言っているんだ」

「……鍛冶師のウルファムだ」

「アタシはラナ。大工だよ」


 リュールは突然の来訪者にも混乱することなく対応する。


「ぼくはリュールだよ」

「エミリです。リュール様にお仕えしているマンドレイクです」


 エミリの自己紹介に、ウルファムとラナは不思議そうな目で彼女を見る。


「……マンドレイク?」

「には、見えないけどねえ」


 一般的にマンドレイクといえば、茶色の根っこである。緑の髪の小人という形態は二人にとっては未知である。


「ぼくもレンに紹介したい子がいるんだ」


 エミリと見つめ合うドワーフ夫妻を置いて、リュールはレンに目を向ける。リュールの後ろには、きょとんとした目で来訪者を見るフラファンの少女がいた。


「この子はぼくが生み出した魔物で……フラファンっていう種族なんだって」

「うん。リュールさまから聞いてる。青い髪に白い角の人。レン、だよね」


 フラファンの少女はすっと手を上げて、レンに握手を求める。


「ああ。オレはレン。オーガだ」


 そして握手を交わした後で、レンもまたドワーフ夫妻のように不思議な目でフラファンの少女を見る。


「それにしてもフラファン、か。前に一度見たことがあるが、だいぶ雰囲気が違うな」


 レンの記憶にあるフラファンはローブに身を包み、毛むくじゃらの手足の先と尻尾だけが見えていた。

 それに対して今目の前で首を傾げる彼女に、毛むくじゃらという印象はない。亜人に見えてもおかしくない外見だ。


「わたしは、フラファンだよ?」

「ああ、そうだな」


 マンドレイクの件でリュールのダンジョンではそういうこともあると理解しているレンは、考えるのを素早く放棄した。


「それで、ウルファムとラナは、どうしてこのダンジョンに来たの?」


 リュールに聞かれて、相変わらずエミリと見つめ合っていたドワーフ夫妻ははっとする。


「ああ。俺はレンに付いてきてな」

「レンに?」


 ウルファムは自分の目的を説明する。

 オーガが使っても壊れない武器を作ることが趣味であり、目標であり、研究テーマであること。

 しかしドワーフの隠れ里にオーガはおらず、作った武器を試してくれる相手がいなかったこと。

 オーガの進化個体であるレンは、自分の研究を試す対象として申し分ないこと。


「で、あたしはそれに付き合う妻さ」

「へー」


 リュールにその情熱は理解できない。だが、目を見ればウルファムが本気であることは分かる。

 なので滞在許可を求められたリュールは……


「うん、良いよ」


 とあっさり承諾した。

 リュールが承諾すれば、エミリやフラファンの少女もそれに続く。


「ところでリュール、ひとつ聞いても良いか?」


 話がまとまったところでウルファムはリュールに対して改めて口を開く。


「うん」

「この場所はダンジョンなんだろう? その……」


 少し躊躇いながらもウルファムは言う。


「このダンジョンに鉱床があれば……少し掘らせてもらっても良いか? 鉄がここで採れるとありがたいんだが」

「鉄?」


 リュールは首を傾げると、地面に手をかざす。


「欲しいものがあるなら、できる限り用意するよ?」


 するとダンジョンの地面からにゅっと金属の棒が生えてくる。地形生成機能を使えば、多少の魔力と引き換えに好きなものを作れる。


「……は?」


 ウルファムは少しの間それを触ったり叩いたりして……


「鉄、だな。それも異常に精錬されている」


 そして思いついたように、次々に鉱物の名前を挙げる。

 銅、銀、金、錫、他にも思いつく限りの様々な鉱物に宝石。

 リュールはその全てを次々と生成する。


「……ここは鍛冶師の天国か?」


 様々な鉱物や宝石を見て、ウルファムは唖然としながら呟く。


「じゃ、じゃあさ、形を決めて作ることはできるのかい?」


 興奮したラナが聞くと、リュールはそれにも頷く。


「できるけど……どんな形が良いの?」

「そうだね。とりあえず、白い石の板を……厚さはこんなものかな。大きさは任せるよ」

「はい」


 リュールはダンジョンの地形生成機能を使って、ラナに言われた通りの白い石の板を作る。


「こりゃ大工にとっても天国だよ」


 できあがった板を軽く叩きながらラナは言う。






 炉の材料になる石のブロックを、リュールは頼まれたとおりに作り上げた。


「これなら良い炉ができそうだ!」


 石のブロックを確認しながらラナが喜ぶ。


「ねえ、木材は作れないのかい? それが作れれば完璧なんだけど」

「木なら生やせるけど……」

「えっ! 本当に!?」


 リュールの能力に興奮しきりのラナ。早速クヌギの木を生やしてもらって、歓声を上げていた。


「生木だから乾燥には時間がかかるけど……でも、これ以上文句言っちゃいけないね! いや、でも待てよ……」


 ラナは少し考えると、リュールにこんな提案をする。


「ねえ、ダンジョンの環境ってアンタが色々いじったりできるのかい?」

「うん。できるけど」

「じゃあさ、昼の砂漠とか作れない? 本で見た話だと、暑くて乾燥した土地なんだよね?」

「んー」


 リュールは少し考えると……ダンジョンコアの本能が告げる通りに言う。


「やったことはないけどできる……気がする」


 リュールはダンジョンに十三層目のフロアを追加すると……本能が告げるままに環境を作る。地面は砂地。高温。乾いた空気。


「昼夜は無しで良いんだよね?」

「できるなら昼に固定してほしい。あとそよ風がずっと吹いてる状態にもできるかな?」

「分かった」


 常昼と、常に微風が吹く設定にしたところで準備が終わる。


「とりあえずまだ小さい空間だけど」


 リュールの案内でやってきたダンジョンの十三層は、百メートル四方程度の砂漠の洞窟だった。


「ふわー。私はここ、無理ですー」


 エミリは早々に退散したが、ラナは感激したように震えると、リュールにキラキラとした目を向ける。


「大工の神って呼んでも良いかい?」

「やめて」


 レンは灼熱の階層をきょろきょろと見回す。


「ラナはこの空間を作って何がしたいんだ?」


 すると、ラナはそう聞かれるのを待ってましたとばかりに胸を叩く。


「乾燥小屋だよ」


 そしてラナはつらつらと語り出す。


「木材を急ぎで乾燥させたい時はね、薪をガンガン焚いて小屋の中を熱くて乾いた環境にしてやる必要がある。でもここなら、薪を焚く必要が無いのに乾燥小屋の中みたいな環境になる。さいっこうだよ!」


 そう言って子どものようにはしゃぐラナ。


「ああ、リュール。ここで作業ができる魔物って作れるかい? こっちの指示を理解できて、力持ちな魔物が……」

「ラナ、あまり調子に乗りすぎるな」


 見かねたウルファムが止めに入った。


「あはは。別に良いよ。ぼくにやれることなら何でも任せて」


 リュールはそう言うと早速条件に合った魔物……ロックゴーレムを生み出す。誰かの役に立てることがとても嬉しかった。


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