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第四節「影の商会の正体」

その夜、ドレンたちと計画を立てた。


地図を広げて、倉庫通りの建物の位置を確認した。昨夜の逃走ルートも書き込んだ。夜間の出入り口と、見張りの位置。昼間にガルドとユナが確認してきた情報も加えた。


「昼間は二人しか建物に近づかなかった」


ガルドが言った。


「夜は三人以上の気配があった。昼間は少数で管理して、夜に人数が増えるということか」


「物を運ぶとしたら、夜の方が動きやすい。昼間は待機している人員が少ない」


「昼間に動いた方が、相手の数が少ない」


「そうだ。ただ、昼間は街が動いているから、こちらも目立ちやすい」


ドレンが地図を見た。


「倉庫通りへの入口は東と西の二か所だ。昨夜は俺たちが西から、お前たちが東から入った。逃げる方向は同じで、職人区側に向かった」


「逃げ道を確保してから動く必要があります」


「そうだな。それと——」


ドレンが少し声を落とした。


「バーグのことだが、生きているとしたら、あの建物に囚われている可能性が高い。救出するなら、その場所を確認しなければならない」


「建物の内部が分からないうちは動けません」


「だから、内部の確認が先だ」


俺は少し考えた。


「隠蔽の刻印を無効化する方法を、昨日ガルドさんに話しました。刻印を上書きして消せれば、建物の中が外から見えるようになる。ただ——」


「中にいる者が気づく、ということだったな」


「そうです。気づいた瞬間に、どう動くかが問題です」


カナが言った。


「内部の見張りが気づいて外に出てくるなら、その瞬間に制圧できる。でも、内部に人質がいれば、外に出る前に人質に手をかけるかもしれない」


「それが一番の懸念です」


「だから、内部の人員配置を先に掴む必要がある」


「正面から入れない以上、別の方法が必要です」


しばらく沈黙が続いた。


ウルが口を開いた。


「隣の空き建物はどうだ? 昨夜見た時、倉庫通りの建物と壁を共有しているように見えた」


「壁を共有している?」


「元は一続きの建物だったかもしれない。空き建物側から、壁に耳を当てれば内部の音が聞こえるかもしれない」


「それは面白いアイデアです」


「空き建物への侵入も必要だが、表立った建物よりは入りやすい」


「試してみましょう。ただし、今夜ではない。昨夜動いたばかりで、相手が警戒しているはずです」


「一日置くか」


「そうしましょう。明後日の深夜に動く」


計画がまとまった。


その後も話が続いた。影の商会についての情報を、ドレンたちがさらに持ってきてくれた。


「テムザリアで古くから噂がある組織だ。表向きは複数の商会の形を取っているが、実態は一つの組織だと言われている。正式名称は分からない。影の商会という呼び名は、テムザリアの冒険者が勝手につけた名前だ」


「何を主に扱っているんですか」


「何でも、というのが答えだ。正規の商会が扱えないものを流す。禁制品、情報、人。それだけじゃなく、力のある人間を雇い入れることもある」


「力のある人間を?」


「冒険者、魔法師、それから——特殊なスキル持ちだ」


ドレンが俺を見た。


「お前が狙われているのは、スキル目的だろう。言霊付与が使える人間は希少だ。利用価値が高い」


「利用というのは、どういう形ですか」


「自発的に協力させるか、強制的に従わせるか、どちらかだ。まず交渉を試みて、断られれば圧力をかける。それでも断れば——消すか、拉致するかだ」


「バーグが行方不明になったのも、そういう流れですか」


「おそらく。バーグは特殊なスキルは持っていなかったが、情報を持っていたか、邪魔になったか、どちらかだと思っている」


「情報を持っていた?」


「バーグは倉庫通りの出入りを長く監視していた。俺たちが頼んだわけじゃないが、好奇心の強い奴でな。独自に調べていた。おそらく、何かを見てしまった」


「それで消された」


「そう思っている」


俺はその話を聞いて、重さを感じた。


好奇心で動いた冒険者が消えた。それは、俺たちも同じ立場になりうるということだ。


「もう一つ聞いてもいいですか」


「何だ」


「影の商会が古代の刻印技術を持っているとしたら、それはどこから来たと思いますか」


ドレンが少し考えた。


「古代技術を持つ人間が組織にいる、ということか」


「もしくは、そういう人間が組織を動かしている」


「……一人心当たりがある」


「誰ですか」


「名前は知らない。仮面の男、という話だ。テムザリアに時々現れる男で、顔を見た者がいない。外見は三十代くらいだが、年齢が全くわからない。様々な場所で目撃されているが、何をしているかは不明だ」


俺はある名前を思い出した。


プロフィールに書かれていた人物。外見三十代、仮面の男。三百年生きる呪いをかけられた古代言霊使いの最後の弟子。


——ゼン。


今はまだ、その名前を口にしない方がいいと思った。


「その男についての情報を、もう少し集めてもらえますか」


「できる範囲でやってみる」


「よろしくお願いします」


夜が更けた。


ドレンたちが帰って、三人になった。


ユナが低い声で俺に言った。


「心当たりがあるか」


「少し。でも、まだ確認できていないことが多い」


「言えない段階か」


「そうです」


「分かった。言える時に言え」


「ありがとう」


ガルドが言った。


「敵が分からない間は、先を急ぐな。情報が出揃ってから判断する」


「そうします」


テムザリアの夜が深くなった。


金鹿亭の食堂に、俺たち三人だけが残っていた。



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