表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/95

第二節「倉庫通りの夜」

その夜、ドレンたちと合流した。


金鹿亭の食堂の隅で、六人が集まった。俺、ユナ、ガルド、ドレン、ウル、カナだ。


昼間の接触のことを話すと、ドレンが顔色を変えた。


「ロードという男を知っているか」


「知ってるよ。テムザリアで長く商売している斡旋屋だ。正規の仕事もやるが、怪しい橋渡しもやると評判だ。影の商会と繋がっているという噂もある」


「やはり」


「断って正解だ。あそこの仕事を受けると、気づかないうちに黒い仕事を請け負わされる。後から断れなくなる」


「そういう仕組みか」


「そうだ。最初は普通の依頼を持ってくる。信頼関係ができてから、本当に欲しいものを要求してくる。断れない状態にしてから」


「行方不明になった冒険者も、そういう流れか」


ドレンの顔が少し固くなった。


「バーグという男だ。俺たちの顔見知りだった。腕は良くて、勘も良かった。あいつがそんな話に乗るとは思えなかった。でも——」


「強引に消された、という可能性もある」


「そう思っている」


カナが言った。静かな女性の声だ。


「バーグが消えた日、倉庫通りの方角に向かうのを見た者がいる。依頼で呼ばれた、と言っていたそうだ」


「倉庫通りが、危険な場所になっている」


「少なくとも、一部の倉庫は。全部が怪しいわけじゃないが、どの倉庫かが分からない」


ドレンが俺を見た。


「お前が見た建物、刻印があったと言っていたな」


「はい。隠すための刻印と、守る刻印が外壁に入っていました。外から中が見えにくく、中にいる者が守られる」


「それは呪い刻印とは違うのか」


「用途が違います。呪い刻印は対象に害を与えるもの。あの建物の刻印は、防護と隠蔽です。目的が逆ですが、技術の質は同等です」


「同じ人間が作ったと思うか」


「同じ技術体系を持つ人間が作ったと思います。別の個人かもしれませんが、同じ流派というか、同じ知識の源泉から来ている」


ウルが口を開いた。体格が良い男だ。


「近くで見た時に、何か特徴はあったか」


「建物自体は普通の石造りです。ただ、外壁の一部に黒ずみがありました。刻印を施した際の魔力の焼き跡です。かなり最近刻まれたものだと思います」


「最近、ということはその建物が最近使われ始めた、あるいは改装されたということだ」


「そう取れます」


ガルドが地図を取り出した。


「倉庫通りの地図だ。ギルドから借りた。俺たちが確認した建物の位置に印をつけると——」


ガルドが鉛筆で小さな×印をつけた。


「この位置に刻印のある建物がある。倉庫通りの東端だ。ここから一番遠い、目立たない場所にある」


「周囲の建物は?」


「登録されている倉庫が二棟と、元は職人工房だったと思われる空き建物が一棟だ」


「空き建物が隣にある」


「そこにも何かある可能性がある」


ドレンが頷いた。


「夜に確認に行くか」


「ただし、直接踏み込むのは今日ではない」


俺は言った。


「今日は外から見るだけにしましょう。中に何があるか、人がいるかどうかを確認する。それだけで十分な情報が取れるはずです」


「慎重だな」


「ダーレムで学びました。急いで動くと、大事なものを見落とす」


「分かった。じゃあ二手に分かれよう。俺たちが西側から接近して、お前たちが東側から確認する」


「了解です」


深夜、倉庫通りに向かった。


夜のテムザリアは、昼とは別の顔をしていた。表通りは街灯があるが、裏路地は暗い。人通りが減って、音が落ち着く。


職人区を抜けて、倉庫通りに入った。石畳が乾いていて、足音が静かだ。


「あの建物です」


ガルドが小声で言った。


昼間に確認した建物が、夜の中に立っている。窓に明かりはない。人の気配もないように見える。


俺は外壁に近づいた。


昼間に確認した刻印の場所に手を近づけた。


触れずに、気配を感じる。


「……人がいます」


「中に?」


「二人か三人。静かにしているが、気配がある」


「何をしているんだ」


「分かりません。でも、明かりをつけずに待機している感じがします」


ユナが俺の横に来た。


「まこと」


「なんだ」


「屋根の上」


俺は視線を上げた。


建物の屋根の縁に、人影があった。こちらを見ている。


一瞬、目が合った。


「走れ」


ガルドの声が飛んだ。


俺たちは一斉に動いた。倉庫通りから離れる方向に走る。屋根から飛び降りる音がした。追ってきている。


路地に入った。角を曲がった。


「こっちだ」


ガルドが先に走りながら方向を示した。職人区に向かっている。人通りが少ないが、ガルドが地形を把握して動いている。


二分ほど走った頃、足音が遠くなった。


路地の奥の物陰に入って、息を潜めた。


「追ってくるか」


「……止まった気がします」


「見失ったんだろう。夜の路地は慣れた人間の方が強い」


「ガルドさんは?」


「俺はテムザリアに昔来たことがある。職人区の路地は大体覚えている」


「助かりました」


少し間を置いて、静かになったことを確認してから、宿に向かった。


宿に戻ると、ドレンたちが先に戻っていた。


「向こうでも気づかれた」


「俺たちも追われました」


「中に人がいる。しかも、外に見張りもいる。本格的な拠点だ」


「それが分かっただけでも収穫です」


ドレンが真剣な顔で言った。


「お前のさっきの言葉、気配が二、三人と言っていたが——あそこにいる全員がその数ではないはずだ。昼間は別の場所にいる可能性がある」


「そうですね。夜に人が集まる場所なら、昼間は散っている」


「行方不明になったバーグも、あの建物に関わっている可能性が高い」


「救出できるかは、まだ分からない」


「分かってる。でも、場所が絞れてきた」


ガルドが静かに言った。


「今夜はここまでにしろ。情報は整った。次は計画を立ててから動く」


「そうします」


「急ぐな。相手もまだこちらの正体を掴んでいない。今夜逃げた四人組が俺たちだとは分かっていないはずだ」


「そう願いたいです」


ドレンが立ち上がった。


「俺たちも今夜で分かったことを整理する。明日また話し合おう」


「よろしくお願いします」


ドレンたちが席を離れた。


三人が残った。


ユナが静かに言った。


「屋根の上の男、気づくのが早かった」


「そうでしたね。ユナが先に見つけてくれて助かりました」


「わたしは見えやすい方だ。暗い場所でも形が分かる」


「それは俺にはない感覚です」


「違う部分がある方が、組む意味がある」


ガルドが頷いた。


「そういうことだ。それぞれが見えるものが違う。だからパーティーで動く意味がある」


「ガルドさんは地形でした」


「それと、足音の種類だ。追ってきた男の足音で、重さと靴の型が分かった。鍛えた体の男で、冒険者か元傭兵の動きをしていた」


「影の商会が、戦える人員を抱えている」


「そういうことだ。素人の組織ではない」


俺はその情報を頭に入れた。


訓練された人員、隠蔽刻印が施された拠点、複数の街への工作。影の商会は、単純な犯罪集団ではない。


「リリアさんに話しておく必要があります」


「そうだな。別行動中に巻き込まれると困る」


「明日、会いに行きます」


「俺も行こう。アストラ先生のところも、一度確認しておきたい」


「ありがとうございます」


夜が深くなっていた。


金鹿亭の食堂は静かになっていた。


複雑なことが動いている。でも、ガルドが言った通りだ。急がない。計画を立ててから動く。


それが、今の俺たちにできる一番確かなことだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ