第二節「石の番人」
それは、岩だった。岩が、動いていた。
いや、正確には——岩の形をした魔物だ。
高さが二メートルを超える。 全身が灰色の岩石で覆われており、腕も足も岩のように見える。 目は二つ、赤く光っていた。
「石の番人……!」リリアが声を上げた。
「知ってますか?」
「文献で読んだことがあります。古代遺構の守護魔物です。重要な場所に配置されて、侵入者を排除する——」番人が動いた。
腕を振り上げて、俺たちに向かって叩きつけてくる。
「散れ!」ガルドの声と同時に、四人がそれぞれの方向に飛んだ。
岩の腕が地面を叩いた。 石畳が砕けて、破片が飛び散る。
「硬い!」
俺は短剣を構えたが、岩の体に刃が通るか分からない。 一応、「斬」の言霊は込めてある。
「弱点はありますか?」
「文献によると……関節部分、接合部です。岩同士が組み合わさっている部分は比較的脆い」
「関節か」番人が再び腕を上げた。
ガルドが正面から斧で迎え打った。
金属音ではなく、石が割れる鈍い音がした。
「硬いが、削れる!」さすがの力だ。
俺は番人の側面に回り込んだ。
足首の関節部分を確認する。 岩と岩の接合部が確かにある。
「斬る」俺は短剣を叩き込んだ。
「斬」の言霊が反応した。
刃が関節に食い込んだ。 完全には切れないが、ひびが入った。
番人が俺の方を向いた。まずい。
「まこと、伏せて」ユナの声がして、俺はすぐに屈んだ。
ユナの回復魔法が番人に向かった。 直接、体の内部に働きかける。
岩の体の内側で、何かが軋んだ。番人がよろめいた。
「今だ!」ガルドが斧を振った。
腕の関節を狙った一撃。 斧が深く食い込んで、番人の右腕が砕けた。
「よし!」
「でも、まだ動いてる!」
番人は右腕を失っても、左腕と両足で動き続けている。 左腕を振り上げる。
俺は跳んで避けた。
着地しながら、番人の背後に回り込もうとした。
「リリア!」
「分かってます!」
リリアが魔法を放った。
火属性の魔法が番人の背中に直撃した。 岩の表面が赤熱する。
熱で表面が脆くなる、という発想だ。
「そこへ!」ガルドが背中の関節を叩いた。ひびが広がった。
俺は短剣を腰の関節に叩き込んだ。
「砕けろ」そう言いながら、強く押した。
「砕けろ」という言葉に、言霊が宿った。
短剣が関節に深く入り込んで——番人の体に、大きなひびが走った。
「今だ、全員!」
ガルドが渾身の一撃を叩き込んだ。 リリアの火魔法が重なった。 ユナが番人の体内に魔法を通した。
三方向からの攻撃が、同時に来た。番人が、崩れた。
轟音と共に、岩の塊が床に散らばった。
砂埃が舞い上がって、しばらく何も見えなかった。
静寂。
砂埃が落ち着いた。
番人は、砕けた岩の山になっていた。
「終わったか」ガルドが確認した。
赤く光っていた目が、消えていた。
「終わった……」俺は息を吐いた。
心臓がまだ早く動いている。
「皆さん、怪我は?」リリアが確認した。
「俺は問題なし」
「ガルドさんは?」
「切り傷が少し」
「治します」ユナが素早くガルドの腕の傷に手を当てた。 回復魔法が走る。
「ありがとうよ」
「傷が深かったら言って」
「分かった」俺はゆっくりと立ち上がった。
腕に少し痺れがある。 番人の腕が地面を叩いた時の衝撃が、近かった。
でも怪我はない。
「石柱、見てみましょう」俺は番人が守っていた石柱に近づいた。




