第四章「嘆きの石窟・後編」第一節「深部への道」
前半区画の安全確認を終えて、俺たちはいったん入口近くの広い空間に戻っていた。
地底湖の端。 ルミナ石の光が水面に映る、青白い場所だ。
「前半区画は問題なしと確認しました」リリアがメモを閉じながら言った。
「罠が一か所。魔物がストーン・ラット三体。古代の遺構あり。この内容でギルドに報告できます」
「依頼はこれで達成だな」ガルドが腕を組んだ。
「ただ」俺は地底湖の奥を見た。
二股になった通路。 左が前半区画で、さっき探索した。 右は前半と後半の境界に近いとリリアが言っていた。
「右の通路が気になる」
「気になる、か」ガルドが少し笑った。
「正直に言えよ。行きたいんだろ」
「……はい」
「理由は?」
「あの壁の文字。三万年前の言霊師が書いた文章がある。ということは、もっと奥にもあるかもしれない」
「それだけか?」
「自分の力の正体に関係することが、ここに眠っているかもしれないと思って」
ガルドが俺を見た。じっと、しばらく見た。
「お前さんの目は、逃げてないな」
「逃げる理由がないので」
「よし」ガルドが斧を手に取った。
「行くか。ただし、危ないと判断したら俺の言うことを聞け。撤退は恥じゃない」
「分かりました」リリアが少し顔を上げた。
「私も行きます。……少し怖いですが、ここまで来て引き返すのは研究者として無理があります」
「ユナは?」俺が聞くと、ユナはすでに歩き出していた。
「待ってる意味がない」
「そうだな」四人で右の通路へ向かった。
右の通路は、左と比べて明らかに雰囲気が違った。
天井が高くなっている。 壁の加工が増えている。 ルミナ石が密に埋まっており、青白い光が全体に広がっていた。
「ここは確実に人の手が入ってます」リリアが壁を触りながら言った。
「自然洞窟の中に、古代の建造物が組み込まれている。珍しい構造ですね」
「なぜ洞窟の中に?」
「外から見えにくいから、という理由もありますが……ルミナ石の光を利用したかったのかもしれません。言霊師たちは光に特別な意味を持たせていた可能性があります」
「石板の文字にも『光』という字があった」
「そうです。六つの字——光、道、愛、世界、言葉、還る。このうち『光』が筆頭に来ている。言霊師にとって光は重要な概念だったのかもしれません」俺は歩きながら考えた。
光の道を愛した存在が、言葉によって世界に還る。
その意味がまだ完全には分からない。
でも、少しずつ何かが見えてきている気がする。
「前方、反応あり」ユナが低く言った。
「魔物?」
「違う。もっと重い何か」ガルドが即座に斧を構えた。
「重い、というのは?」
「魔力が重い。存在感が違う」
前方の通路が開けた。そこは大きな空間だった。
天井が高く、左右の壁が遠い。 四方の壁すべてにルミナ石が埋まっており、青白い光で全体が照らされている。
そして、空間の中央に——岩があった。
ただの岩ではない。 高さが三メートルほど。 横幅も同じくらい。 表面が完全に平らに整えられた、巨大な石柱だ。
その石柱の全面に、文字が刻まれていた。
「……石板じゃなく、石柱か」
「これは……」リリアが息を飲んだ。
「文字の量が、今まで見た中で一番多い」しかし、俺がそれに近づく前に。
石柱の後ろから、何かが動いた。




