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第四節「石窟の罠」

「言葉は、嘆きを超える」俺が声に出した瞬間。洞窟が、微かに震えた。

ほんの数秒。 それだけだったが、全員が足を止めた。

「今の……」

「地震ではないですね。魔力の反応がありました」リリアが手のひらを前に向けて感知した。

「文字を読んだことで、何かが反応した?」

「可能性があります。古代の遺構には、特定の言葉や行為をトリガーとした魔法仕掛けが残っていることがあります」

「罠か?」

「罠というより……起動装置のようなものかもしれません」ガルドが壁の文字を見た。

「つまり、この文字を読ませるために、ここに書かれていた?」

「そう考えることができます」

「俺が読んだことで、何かが起動した?」

「分かりません。でも、魔力の流れが変わったのは確かです」俺は壁の文字を見た。

嘆くな。言葉は、嘆きを超える。

この洞窟の名前は「嘆きの石窟」だ。 嘆くな、と書かれた文字が奥にある。

「これは、意図的に名前と対になっている?」

「その可能性があります。嘆きの石窟と呼ばれるこの場所に、嘆くなという言葉を刻んだ。逆説的なメッセージです」

「誰が?」

「三万年前の言霊師かもしれない。あるいは、もっと後の時代の誰かが、言霊師の言葉を引用したのかもしれません」ガルドが腕を組んだ。

「地震みたいな揺れは収まった。今すぐ何かが来るわけじゃなさそうだ」

「進みますか?」

「依頼は前半区画の安全確認だ。ここはまだ前半のはずだ」

「そうです。前半区画はもう少し続きます」

「行こう。ただし、変な動きがあったらすぐ戻る」

「了解です」俺たちは地底湖の端を歩いた。

水面が静かに揺れている。 ルミナ石の光を反射して、幻想的な模様を作っている。

「綺麗だな、こういうのは」俺が言うと、ユナが水面を見ていた。

「……ずっと見ていたい」

「そうだな。でも今は先に進もう」

「分かってる」

ユナは名残惜しそうに、でも足を止めずに歩いた。地底湖を抜けると、また通路に入った。

少し狭くなっている。 天井も低くなってきた。ガルドが屈みながら先を確認した。

「この先、二股に分かれてる」

「どっちが前半区画ですか?」リリアがメモを確認した。

「左です。右は前半と後半の境界に近いはずです」

「左で」俺たちは左の通路へ入った。

少し歩いたところで、ガルドが再び手を上げた。

今度は止まれではなく、警戒のサインだ。

「魔物か?」

「違う。罠だ」ガルドが地面を指差した。

床に、わずかに色の違う部分がある。 踏み板だ。

踏むと何かが起動する仕掛けだろう。

「古い罠ですね。遺構に残された罠が今も機能している場合があります」

「迂回できる?」

「壁側を通れば……ここから足幅一つ分左に寄れば、踏み板を避けられます」

「分かった。一人ずつ通る」ガルドが慎重に壁側を進んだ。

俺が続く。ユナ、リリアと続いた。

全員が通り過ぎて、振り返った。踏み板は反応しなかった。

「よし」

「この先も同じような罠があるかもしれません。足元に注意してください」

「リリアさん、罠の知識もあるんですね」

「古代遺構の研究をしていれば、自然と覚えます。学者仲間が何人か罠にかかって怪我をしたので」

「怖い話だ」

「だから一人で調査するのは限界があって……今回同行していただけて本当に助かっています」俺は頷いた。

確かに、一人でここに来ていたら、さっきの踏み板も見落としていたかもしれない。

チームで動く意味は、こういうところにある。


さらに進んだ先に、開けた場所があった。

前節の空洞より小さいが、壁の三面が加工されていた。

「これは……部屋です」

リリアが魔法灯を高く掲げた。

四角く整えられた空間。 壁に棚のような突起が並んでいる。 床は石畳だ。

「誰かが使っていた?」

「かなり古いですが、確実に人の手が入っています。ここは……休憩場所か、保管場所だったのかもしれません」棚の突起を確認した。

何かが置かれていた跡がある。 今は空だ。

「何があったんでしょう」

「分かりません。持ち去られたか、朽ちたか」ガルドが壁を叩いた。

「しっかりした造りだ。石の積み方が外の廃屋と似てる」

「そうですね。同じ時代の建築様式と見ていいと思います」俺は部屋の奥の壁を見た。

他の壁より少し、違う。

「リリアさん、この壁」

「はい、私も気づきました」

奥の壁だけ、岩肌ではなく、明らかに整えられた石が積まれている。 そしてその石の一枚に——

刻まれた文字があった。

「また、日本語だ」俺は近づいた。

「読めますか?」

「……待って。これは長い」

石一枚ではない。 壁の一角に、複数の石が並んでいて、それぞれに文字が刻まれていた。

「これは……」俺は一字ずつ、声に出さずに確認した。

長い文章だ。 崩れた字体もあるが、ほとんどは判読できる。

「全部読めますか?」

「時間がかかるけど、読める」

「記録しますので、読んでいただけますか」

俺は息を整えた。そして、読み始めた。


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