第三節「洞窟の内部」
洞窟の中は、思ったより広かった。
入口付近は天井が高く、大人が立って十分に歩ける。 床は土で、踏み固められている。 壁は自然の岩肌が続いていた。
奥へ向かう通路が、緩やかに右に曲がっている。
「魔法灯、一つ貸します」
リリアが俺にも小さな光の石を手渡した。 掌に乗るくらいの大きさで、持つだけで明かりを出す。
「ありがとうございます」
「ガルドさんにも」
「俺はいい。目が慣れる」さすが元傭兵だ。
四人で奥へ向かった。
ガルドが先頭。 俺が左後ろ。 ユナが右後ろ。 リリアが最後尾。
この陣形がここ数日で自然に定まってきた。
通路を進むと、壁に何かが光っていた。
「あれは?」
「鉱石の一種です。ルミナ石といって、微弱な光を出します。深い洞窟に多い」
壁のあちこちに、薄く青白い光を放つ石が埋まっている。 魔法灯がなくても、うっすら見えるくらいの光だ。
「きれいだな」
「古代の人々はこの光を利用して遺構を作ることが多かったんです。ルミナ石が自然に多い場所を選んで、建造物を作った」
「それが遺構と石窟が重なっている理由?」
「一因ではあると思います」通路がさらに続く。
足元が少し下り坂になってきた。 地下に向かっているようだ。
ガルドが手を上げた。止まれのサインだ。俺も足を止めた。
前方から、微かな音がする。 動物の気配だ。
「何匹いる?」とユナが小声で聞いた。
「三匹。小さい」
ガルドも低く答えた。
「ストーン・ラット種だ。岩を齧る魔物で、大きくないが歯が鋭い。群れで動く」
「倒す?」
「依頼は安全確認だ。障害になるなら排除する」ガルドが斧を構えながらゆっくり前進した。
俺も短剣を引き抜いた。
通路の先、岩の陰に三つの影があった。 ネズミよりも一回り大きい。 灰色の体で、目が赤く光っている。
一匹が俺たちに気づいて、甲高い声を上げた。三匹が同時に動き出した。
ガルドが前の一匹を踏み潰すように叩いた。 斧を振るうまでもない、体重を乗せた踏み込みだ。
俺は右から来た一匹に向けて短剣を向けた。 素早い動きだったが、刃が触れた瞬間、「斬」の言霊が反応した。
斬れた。一撃だ。
残り一匹がユナの方へ向かった。
「はい」ユナが片手を出した。
回復魔法の一点集中。 魔物の体に触れた瞬間、傷口が強制的に開く逆用。
魔物が一声叫んで、動かなくなった。
「三体、確認」ガルドが素早く言った。
「他に気配は?」
「今はない」ユナが辺りを確認して答えた。
「進もう」俺たちは再び歩き始めた。
「手際がよくなったな」ガルドが前を向いたまま言った。
「最初の頃は三体相手にもたついていたのに」
「毎日こなしてると慣れます」
「それが一番大事だ。理屈より、体が動くことが」リリアが後ろから言った。
「戦闘の経験がない私には、その感覚はまだ分からないですが……三人の連携は見ていて気持ちいいですね」
「リリアさんは魔法がある」ユナが振り返らずに言った。
「さっきは必要なかったが、もっと多い時や強い相手には助かる」
「……ありがとうございます、ユナ様」
「様、はいらない」
「ユナさん?」
「ユナでいい」リリアが少し口ごもった。
「……ユナ」
「うん」なんとなく微笑ましい場面だった。通路が広くなった。
前方に、大きな空洞が見える。
洞窟の中に、広い空間が広がっていた。
天井が高く、ルミナ石の光が全体に広がって、青白い幻想的な明かりを作り出している。
床に水が溜まっている部分があり、その水面にルミナ石の光が映り込んでいる。
「きれい……」俺は思わず言った。
「地底湖の端ですね。奥まで続いているはずです」
リリアが言った。
「遺構は?」
「この空間の右手側の壁、見てください」
リリアが魔法灯を右方向に向けた。
岩壁の一部が、自然の岩とは違う形をしている。 直線的に切り取られた面があった。
「人の手が入ってる」
「そうです。ここです」俺たちは壁に近づいた。
岩壁の一部が、滑らかに整えられていた。 明らかに、何者かが加工した痕跡だ。
そして、その表面に——文字が刻まれていた。
「読めますか?」リリアが俺を見た。
俺は魔法灯を近づけた。字体が古い。 一部は欠けている。 でも、確かに読める。
「……嘆くな、と書いてある」
「嘆くな?」
「そう。それから……下に、もう一行ある」俺は目を細めて確認した。
「言葉は、嘆きを超える」




