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第二節「石窟への道」

ダーレムを出て、北東へ向かう道を歩いた。

舗装されていない草道だが、踏み固められているので歩きやすい。 両脇に木が茂り、時々鳥の声がする。

「嘆きの石窟、という名前はなぜですか?」俺がリリアに聞いた。

「洞窟の奥から、風が吹き抜ける時に独特の音がするんです。呻き声のような、嘆くような音が」

「怖い名前だな」

「実際には風の通り道の形状が原因で、音が響くだけです。危険ではないのですが、初めて入った者がその音に驚いて逃げ帰ったという話が多くて、その名前がついたそうです」

「なるほど」

ガルドが先頭を歩きながら言った。

「昔、嘆きの石窟に入ったことがある冒険者の話を宿で聞いた。音は確かに気味が悪いが、前半区画は魔物も少なくて探索はしやすいと言っていた」

「どの辺から難しくなりますか?」

「奥に進むほど魔物が増えて、通路が複雑になるらしい。今日は前半区画の安全確認だけだ。深追いはしない」

「分かりました」ユナが俺の隣を歩いている。

「石窟の中、石板があると思う?」

「リリアさんが言ってたし、可能性はあると思う」

「あるといいな」

「ユナは本当に石板に興味あるんだな」

「昨日の言葉、気になってる」

「どれ?」

「光の道を愛した存在が、言葉によって世界に還る。その言葉」

ユナが少し声を低くして言った。

「まことに関係があるかもしれない言葉だから」

「俺も気になってる」

「だったら一緒に気になる」俺は少し前を向いた。一緒に気になる、か。

なんでもないような言い方なのに、その言葉が妙に胸に残った。

道の脇に沢が現れた。

水が透き通っていて、底の石が見える。 ユナが少し足を止めた。

「きれい」

「そうだな」

「日本にも、こういう川があった?」

「あったよ。夏に行くと気持ちいいんだ。涼しくて」

「この世界にも夏がある?」

「あるだろ。今は何に当たる季節なんだろうな」

「春の終わり、初夏の始まり、くらい」よく知ってるな、と俺が言うと、ユナは首を振った。

「草の匂いと、花の種類で分かる。今は移り変わりの時期」自然の観察眼は本物だ。

沢を越えて、しばらく歩くと前方に岩の露出した斜面が現れた。

岩の間に、黒い口が開いている。

「あれが嘆きの石窟です」リリアが言った。

「入口の幅は三メートルほど。高さも十分あります」俺たちは立ち止まった。

入口から、かすかに風の流れを感じる。 その風が岩の形状に当たって、低い音を出している。

確かに、呻き声のようだ。

「気味が悪い音だ」ガルドが率直に言った。

「慣れると何でもないですが、最初は誰でも驚きますね」

「行くか」

「行く」

俺が短剣に手を触れた。ユナが小さく頷く。

リリアが鞄から魔法灯を取り出した。 ぽっと光が灯る。

洞窟の中に向けて、光が伸びた。


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