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第三章「ダンジョン『嘆きの石窟』前編」第一節「依頼の朝」

ダーレムに来て五日が経った。

朝食を食べながら、俺はギルドから持ち帰った依頼書の束を広げていた。

魔物の討伐。 薬草の採取。 荷の護衛。

小さな街のギルドにしては、依頼の種類はそれなりにある。

俺たちはここ数日、近場の依頼をこなしながらリリアの調査を手伝っていた。 おかげでランクFの経験値がかなり積まれている。 もう少しでEへの昇格試験が受けられるはずだ。

「まこと」

ユナが俺の隣に座った。

銀色のツインテール。 紫の瞳。 寝起きらしく、髪が少し乱れている。

「おはよう」

「……おはよう」

返事が眠そうだ。

俺はスープを一杯、ユナの前に置いた。

「ありがとう」

珍しく素直に礼を言う。 朝はユナの防御が少し下がる。

「今日の依頼、どれにするか考えてた?」

「嘆きの石窟」ユナが即答した。

俺は少し驚いて、依頼書の束を探した。

あった。

「ダンジョン探索支援依頼——嘆きの石窟・前半区画の安全確認」

依頼主はダーレムの冒険者ギルドそのものだ。 石窟の前半区画に異常がないか確認し、記録を持ち帰るという内容。

難易度はE相当。

「これ、俺たちにはまだ早くないか?」

「リリアに聞いた。嘆きの石窟は古代遺跡の上に作られたダンジョンらしい。中に石板が残っている可能性があると言っていた」

「それで行きたいのか」

「そう」

俺は依頼書をもう一度確認した。

報酬は銀貨十枚。 危険度は中程度。 推奨ランクはEだが、経験のあるF複数人でも可とある。

「ガルドに聞いてみよう」

ガルドが食堂に入ってきた。 ちょうどいいタイミングだ。

「嘆きの石窟の話、聞いてますか?」

俺が声をかけると、ガルドは席に着きながら頷いた。

「ギルドの掲示板で見た。あそこか」

「行けそうですか?」

「正直に言うと、ぎりぎりだな。ユナの回復と、リリアの補助魔法があれば、前半区画くらいなら問題ない。ただ、深く入るのはまだ早い」

「前半区画だけなら?」

「俺が前に出る。真が後ろを固める。その陣形でいい」

「ありがとうございます」

ガルドがパンをちぎりながら言った。

「真、お前も最近は動きが様になってきたな」

「そうですか?」

「斬の刻印を入れた短剣、使いこなしてきてる。反応速度がエルムの里にいた頃とは別物だ」

「そう言われると、確かに体が慣れてきた感じはあります」

「異世界の飯を食って、毎日動いて、体が変わってきてる。お前さん、最初より明らかに体格が良くなった」

言われてみれば、そうかもしれない。

日本にいた頃はコンビニのバイトと移動だけで、運動らしい運動をしていなかった。 この世界に来てから毎日歩いて、戦って、異世界の食材を食べ続けている。

スキル情報には「異世界の食材を摂取することで肉体が徐々に強化される」とある。 実際に体が変わっているのかもしれない。

リリアが食堂に下りてきた。

「おはようございます。今日の予定を話し合いましょうか」

「嘆きの石窟に行こうと思っています」

「分かりました」リリアが頷いた。

迷いのない返事だった。

「石板が残っている可能性、ありますよね?」

「あります。嘆きの石窟はダーレムの北東約三時間の場所にある自然洞窟です。内部が古代の遺構と重なっているという報告が過去にあって、私も以前から気になっていました」

「じゃあ決まりだな」ガルドが立ち上がった。

「出発は一時間後でいいか」

「準備します」俺は依頼書をポケットにしまった。

ユナが静かに俺を見ていた。

「一緒に行く」

「当たり前だろ」

「分かってる。でも言いたかった」俺は少し笑った。


出発前に、俺は自室で短剣を確認した。

「斬」の刻印が鍔の部分に入っている。

言霊付与レベル2。 刻んだ文字に力が宿る。

戦いの中で使ってみると、刃の切れ味が通常の短剣とは明らかに違うことが分かる。 魔物の皮膚が硬くても、少ない力でよく切れる。

ただ、まだ俺は言霊をうまく制御できていない。

どこまで込めればどのくらいの効果が出るのか、感覚がつかめていない。 強い意志と感情が力の質を左右するとは分かっているが、それを意図的にコントロールするのは難しい。

「修行が必要だな」俺は短剣を腰に下げて、上着を羽織った。

窓の外、ダーレムの空は快晴だった。


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