表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/95

第四節「古代語の断片」

翌朝、ダーレムの街は快晴だった。

ギルドに依頼を出す前に、俺とリリアは宿の食堂の隅に陣取った。

ユナは隣に座り、ガルドは「昔の知り合いに挨拶してくる」

と出かけていった。

リリアが鞄から何かを取り出した。木の薄板が三枚。

いや、よく見ると表面に細かい傷がある。文字だ。

「これは……」

「写しです。本物は別のところにあります」

リリアが説明した。

「デルガ遺跡と呼ばれる古代の遺跡で発見された石板を、私が忠実に転写したものです」

石板。

俺は身を乗り出した。

その文字を見た瞬間、俺は息を飲んだ。

間違いない。これは日本語だ。

完全ではない。字体が古く、崩されている部分もある。

判読が難しい文字もある。だが、明らかに日本語の文字だ。

「読めますか」

リリアが静かに聞いた。

俺は板を手に取って、一字ずつ確認した。

目で追う。頭で整理する。


「……我、言葉もて世界を愛す」

それだけ読んで、息が止まりそうになった。

「そして……言霊師、木下」

リリアが頷いた。

「それが、私が転写した全文です」

木下。

俺の名字と同じだ。

「三万年前の石板に……俺の名字が?」

「姓が一致しているという点では、

偶然の可能性もあります」

リリアが静かに言う。

「しかし、あなたが言霊付与のスキルを持っているとすれば、偶然とは言いにくい」

知っていたのか。

俺は顔を上げた。

「……バレてましたか」

「言霊付与スキルは、現存のスキル一覧には存在しない。ギルドで初めて表示された時、

エルムの里が騒然となったという情報が研究者仲間に届きました」

ああ、あれか。

あの時の受付嬢の反応と、村人の騒ぎ。

噂になってたわけだ。

「それで……この石板を持って、俺に会いに来た?」

「違います。石板の研究が先でした」

リリアがはっきりと言った。

「デルガ遺跡は私が三年前から追っていた遺跡で、言霊師の痕跡を探して調査していました。木下さんとの出会いは、本当に偶然です」

俺はもう一度、石板の文字を見た。

「我、言葉もて世界を愛す——言霊師 木下」

何者が、三万年前にこの文字を残したのか。なぜ俺と同じ名字なのか。


頭の中で、いくつもの疑問が渦巻く。

ユナが俺の袖を引いた。

「まこと」

「分かってる。落ち着けってことだよな」

「落ち着きなさい、じゃなくて……いい顔をしている」

「え?」

「謎があると、まことはいい顔をする」

俺は苦笑した。

確かに、今、心臓が早く動いている。

怖いとか不安とかより、好奇心の方が強い。

「リリアさん」

俺は改めて問いかけた。

「この石板が他にもあるとしたら?」

「デルガ遺跡にはまだ調査していない区域があります。また、他の遺跡にも類似の石板が眠っている可能性がある」

俺は少し考えた。三万年前の言霊師。俺と同じ名字の人物。

日本語で書かれたメッセージ。

これは追うべき謎だ。

「一緒に探しに行きませんか」

リリアは少し驚いた顔をした。

それから、静かに微笑んだ。

「……私でよければ」

ユナが小さく「決まり」と言った。


――――


その日の午後、

ダーレムのギルドでリリアの仮登録が行われた。

「調査支援・魔法担当」という形で、暫定的な同行者として俺たちに加わることになった。

書類手続きを終えて、ギルドの外に出た。


「これで、四人パーティーだな」

ガルドが満足そうに言った。

「前衛が俺と真、後衛がユナとリリア。バランスが良くなった」

「私は戦闘が専門ではないので……」

リリアが遠慮がちに言う。

「補助と攻撃魔法があれば十分だ」

ガルドが明快に言った。

「戦いは人数と連携が大事だ。一人で何でもできるより、それぞれの役割をこなせる方が強い」

「……ありがとうございます」

「堅苦しくするな。仲間になったんだから」

リリアが少し、頬を緩めた。

俺はギルドの窓口で書類に名前を書きながら、もう一度あの言葉を頭の中で繰り返した。

「我、言葉もて世界を愛す」

三万年前のある人物が、この世界に残した言葉。

誰が、何のために書いたのか。答えは、まだ分からない。

でも、俺は確かに、何かの糸を引いた気がした。

そして今、その糸の先を一緒に辿ってくれる仲間が増えた。

「木下さん」

リリアが俺の隣に来た。

「一つだけ、お礼を言わせてください」

「さっきも言ってましたよ」

「今日のお礼ではなく……三年間のお礼を」

「三年間?」

リリアが空を見上げた。

「私は三年間、言霊師の痕跡を追ってきました。でも、その文字を読める人間に出会えなかった」

少し間を置く。

「今日、木下さんと出会って、初めてあの文字が声になりました。三年間、文字だったものが、言葉になった」

「……」

「それは、私にとって三年分の意味を持っています」

俺は何も言えなかった。

でも、リリアの目が本当のことを言っているのは、

分かった。

「一緒に探しましょう。答えを」

それだけ言った。

リリアが頷いた。

「はい」

その返事は、朝より少し柔らかかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ