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第二章「最初の試練」 第一節 盗賊団の残党

異変に気づいたのは、ガルドだった。

翌朝、三人がギルド支部の前で次の依頼について話し合っていたとき、ガルドが不意に口を閉じた。

話の途中だった。

ガルドが何かを言いかけて、それを飲み込んだ感じがあった。

二人が顔を向けると、ガルドの目が村の入口の方を向いていた。

表情は変わっていない。

しかし体の重心が、ほんのわずかに前に移動していた。

立ち方が変わったのだ。会話しているときの自然な立ち方から、何かに備える立ち方に切り替わった。

真にはその違いが分かるかどうか怪しかったが、分かった。

昨日からガルドの動き方を見てきたので、その変化が読めた。

「人が来る。急いでいる。複数だ」

低い声で言った。

真は耳を澄ませた。

鳥の声、風の音、広場の井戸で水を汲む音、遠くで誰かが話す声。

その全てが聞こえたが、入口から来る足音は真には聞き取れなかった。

しかしガルドは確信を持って言っていた。

傭兵として長年生きてきた耳だ。

真の聞き取れない音域で、何かを捉えているのだろう。

真はユナを確認した。

ユナはすでに広場を一度見渡し終えて、入口の方向を静かに見ていた。

手が腰のポーチに近づいている。

何かを取り出そうとしているわけではなく、近くに置いているだけだ。

いつでも動けるという姿勢だ。

三分もしないうちに、村の入口から五人の男が駆け込んできた。

全員が武装していた。

先頭の男は革の胸当てと鉄の籠手を身につけ、右手に幅広の刃物を下げている。

刃物は抜いていないが、鞘に手をかけた状態だ。

いつでも抜けるという示威だ。

顔の左頬に古い傷がある。

傷の形から見て、刃物で付けられた傷だ。

体格のいい男で、首が太く、肩の筋肉が盛り上がっている。

後ろの四人は体格が様々だが、全員が似たような武装をしていた。

グループとして動いている。

連携が取れている動き方だ、と真は見ながら思った。

真は先頭の男に見覚えがあった。

一昨日の夜、森の空き地でユナに迫っていた三人のうちの一人だ。

記憶が正確かどうか一瞬不安になったが、左頬の傷が確証になった。

あのとき真の「やめろ」で追い払われた男だ。

恥をかかされたと感じていれば、戻ってくる動機はある。

男の目が広場を素早く走り、真を見つけた。

目が止まった。それから歯を食いしばる表情になった。

「いたぞ」と男は言った。

仲間に向けた言葉だったが、広場全体に届く声量だった。

「黒い髪の外国人だ。昨日の話をつけに来た」

昨日と言っているが、実際には一昨日だ。

それほど頭に血が上っているのか、あるいは日にちの感覚が曖昧なのか、どちらとも言えなかった。

しかし「話をつけに来た」という表現が、交渉の意思ではなく報復の意思を示していることは明らかだった。

広場にいた村人が、空気の変化を感じ取った。

朝の水汲みをしていた人間が少し離れ、子供を遊ばせていた母親が子供の手を引いた。

老人が家の中に引き上げていく。

村人が「これは自分の話ではない」と判断したときの動き方だ。

村にとって見慣れた光景かもしれなかった。

冒険者が拠点にする村には、こういう揉め事が定期的に来るのだろう。

ガルドが前に出た。

真やユナより先に、自然に前に出た。

事前に打ち合わせたわけではないが、そうなった。

体が大きく、斧を持っている。

見た目の威圧として、ガルドが前に立つのが合理的だ。

ガルドも同じ判断をしている。

「村の中で刃物を抜いて来る用件か」とガルドは言った。

声は落ち着いていた。

怒っているわけでも、脅しているわけでもない。

ただ事実を確認するような口調だ。

「通りすがりの冒険者を捕まえに来るより、昨日お前らが先に女の子に絡んだことを考えた方がいい。先に手を出したのはどちらだ」

「関係ない」と男は言い、屈辱が滲む顔をした。

表情に感情が全部出ている。

怒りと恥が混ざって、その混合物が顔に張り付いている。

「あいつに一言叫ばれただけで全員逃げた。魔法でも使いやがった。あんな恥はかかせられない」

「魔法ではない」とガルドは言い、少し間を置いた。

「それより、一言叫ばれて逃げた、というのは自分で言った話だ。今日また来て、それを俺たちに話している。その話を聞いた人間がどう思うか、考えたか」

男の顔が赤くなった。

追い討ちのような指摘だったが、ガルドの口調はあくまで淡々としていた。

煽っているわけではなく、ただ事実を並べているだけだ。

しかしその事実の並べ方が、男のプライドをより深く傷つける形になっていた。

「俺を含めた三人が相手だ」とガルドは斧を手に取りながら言った。

ゆっくりとした動作で、扉に立てかけてあった斧を右手に持った。

「手荒なことはしたくないが、こちらには引く理由がない。あなた方が何かをするなら、こちらも相応のことをする」

男が前に進もうとした。ガルドが立ちはだかる。

二人の間に三メートルほどの距離がある。睨み合いが続いた。

真はユナの方を確認した。

ユナは三人の左側、少し離れた場所に立っていた。

前を見ている。

穏やかな立ち方だが、目だけが周囲を測っていた。

広場の端、死角になりそうな場所を確認している動きだ。

正面の睨み合いに集中していない。

全体を見ている。

ユナが何かを察知した様子を見せた。

目が少し動き、左側の路地の方向を一度見た。

それだけだったが、真はその動きを見逃さなかった。

均衡を破ったのは、男の仲間の一人が別方向から走り出したことだった。

最初から計画されていたのかもしれない。

正面でガルドに向き合いながら、一人が迂回して回り込んでいた。

村の外周を回って、真の背後から接近していた。

足音を消した動きだったが、石畳の上では完全には消せなかった。

真が気づいたのは、男が手を伸ばしてきた瞬間だった。

肩を掴まれる、とその手が届く直前に分かった。

分かったが、回避の動作が間に合わなかった。

咄嗟に体を動かそうとしたが、深夜のコンビニで養われた体は戦闘的な回避行動を知らなかった。

男の手が真の肩に届く直前に、別の手がその男の腕を掴んだ。


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