ある神官の成長日誌 〜ジュール編〜 10
2.分割回復魔法を、ものにしろ。
ガロンは隣のレイブンを見た。
「レイブン。すまんが、傷を作ってくれんか?」
「傷だ? まあ、構わないが……」
レイブンは、小さく頷くと、右手を自然に下ろした。右腰に吊ったタガーの柄を握り込む。
そのまま、親指で留め革を外し、タガーを抜く。
刃が身体の方を向いた逆手の状態で、左手の手の甲に小さな傷を作った。皮膚と肉が裂け、血が滲む。
「痛っ」
躊躇いもなく自ら傷をつけたレイブンだが、痛いものは痛いらしい。
ジュールはそんなレイブンを見て、痛そうな顔をしていた。
「こっからは、実践じゃ」
ドワーフのガロンが、神官のジュールに声をかけた。
「昼間と同じようにして、傷を癒せ。右手と左手の人差し指に、半分の力の回復魔法を準備するんじゃ」
「はいっ!」
ジュールは言われた通りに、回復魔法を準備した。
「右手で、血管。左手で、筋肉と神経。治す対象を意識するのじゃ。意識したら、癒やしの光を、時間差で照射を始める」
ガロンの指導に、素直に従うジュール。
この世界の回復魔法は、自然治癒力を加速する魔法である。
切り傷には強いが、打ち身や病気にはあまり強くない。
特に、人体内で抗体のできていないウイルスに対しては、全くの無力である。
また、人体の構造を熟知していないと、回復に時間がかかるのも特徴である。部位を特定して治癒させるのと、漠然と治癒させるのでは、必要時間が大きく異なるのは道理であろう。




