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小さな変化

翌朝。

「おはようございます。ご迷惑おかけしました。」

愛美がそう言ってコールセンターのドアを開けるやいなや佐江が駆け寄って来て、抱きつかんばかりの距離で停止する。

「愛美!?アンタ無理してない?ねえ…あれ…?」

最初こそ不安げな表情をしていた佐江だったが愛美の顔を見てその表情が一気に疑問へと変わる。

それもそのはずだ。あれだけ青々とひどかったクマは取れ、ほんのりと頬は上気して、艶すら感じさせていたのだから。

愛美はクスリと笑うと一言。

「ごめんね、心配かけて…。熱もひいたし、それに昨日は眠れたんだ。」

「眠れたんだ、ってアンタ…昨日とまるで別人なんだけど…」そう訝しがる佐江に愛美は、

「とにかくもう大丈夫だから、ね?」と声をかけるやいなや始業のベルと共にコールセンターの電話が一斉に鳴り出した。


今日も今日とて様々な顧客からの連絡が入る。

不良品の対応。ネチネチと執拗いクレーマー。買ったはいいが使い方の分からない老人。いたずら電話。

それら一件一件をこなしていくのは正直神経が摩耗してゆくが⸺今日の愛美は少し違った。

「…はい。保証期間切れの商品でそれまで正常に使えていたのが動作しなくなった…はい。ええ…。そうですね、こちらでは対処致し兼ねます。」はっきりとした拒絶。

電話口の向こうの男性は声を荒げていたが、愛美はそれに臆することなく一言。「対処致し兼ねます。これ以上のお話は平行線ですのでこちらの電話は切らせていただきます。」

そう言うや否や愛美は音を立てて受話器を置く。

隣の席の佐江は別の対応をしながらもそれを見ていたが、愛美のあまりの変わりように驚いたような顔をして口をパクパクとさせていた。


短い昼休憩。

佐江は手作りの弁当を開きながら愛美に攻め寄る。

「ねえ、アンタ絶対なんかあったでしょ…?オトコだな?白状しろっ、この!!」

そう言って昨夜のおかずの唐揚げを愛美に突きつけると、愛美は笑いながらそれを口にする。

「…おいし。別に何もないよ?よく眠れたってだけ。新しい彼氏もできたわけじゃない…し…」

言いながらも昨夜の情景が頭をよぎり思わず赤面する。

「ふぅーん…?」佐江は訝しがりながらも自らも唐揚げを食べて一言。

「やば。私やっぱり料理の天才かも。」

そうして短い昼餉の時間は過ぎていった。


淡々と業務をこなし、あっという間に終業時間となった。愛美は伸びをして立ち上がるとロッカーから荷物を取り出し帰り支度を始める。

「お先に失礼します。」

そう言うと愛美は颯爽とコールセンターを後にした。

帰る道すがら愛美はインソムニアに連絡を取る。

「はい。また鵺さんで。こちらは18時には帰宅できると思うので…はい。」

ラッシュアワーの時刻。窓際に押しやられて西日が顔を照らす。

が、それだけではない赤みが愛美の頬を染めていた。

否応なしに胸は高鳴る。

識ってしまった者。

愛美は電車に揺られながら薄っすらと微笑んでいた。

その目はどこか遠く⸺しかし近い未来を示唆しているようだった。

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