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背を這う蛇

愛美はインソムニアに連絡したとおり18時前には帰宅した。初夏の空はコバルトブルーと夕日の織りなすマジックアワーを成している。

愛美はふと立ち止まって空を見上げたが⸺すぐにふいと顔を背けるとアパートの鍵を開け中に入っていった。

すぐにシャワールームに向かい、体をくまなく清めてゆく。

「そうだ。」

愛美は何か思い出すと一度脱衣所に戻り瓶を手に戻ってくる。

手のひらに収まるその瓶はバスソルト。薔薇の香りで、結婚式の引き出物でもらったものだ。愛美は躊躇いなくすべてを浴槽へ入れるとゆっくりと全身を浸してゆく。

すぐに良い香りが身を包み⸺一種の高揚感すら覚える。

が、時間は限られている。

愛美は風呂から上がるとすぐに髪を乾かし始めた、その時だった。


玄関のチャイムが鳴る。

鵺がやってきた。

「ご指名ありがとう、愛美。」

昨日と同じように黒いマスクをした鵺は部屋に上がるとマスクを外し、一言。

「いい香りがする…。薔薇?」

愛美は照れ臭そうに微笑んで一言。

「せっかくだから…バスソルト使っちゃったんだ…」

そんな愛美を見た鵺は目を細めてまるで愛おしいものを見るかのような表情を見せたが⸺すぐにもとの表情に戻り一言。

「3時間10000円。それでいいね。」


髪を乾かし愛美がベッドに潜る。と、同時に鵺もその背中にぴったりと寄り添うように寝そべる。

愛美はしばらくその温もりを感じていたが⸺つま先が勝手にそわそわと動いてしまう。

そんな愛美の様子を見た鵺は薄く微笑むとこう言った。

「パジャマの上だけ脱いで…背中を見せてくれる?」

言われるがままに愛美はいそいそとパジャマの上を脱いでうつ伏せになる。

「これ…取るよ?」

鵺はそう言うとブラジャーのホックを外す。

その刺激だけで愛美はピクリ、と体を震わせたが⸺心の中は不安より期待で満ち溢れている。

鵺が背中の窪み⸺脊椎に沿って優しく触れてゆく。

その刺激に思わず愛美は先程よりも大きく身体を震わせる。

「背中ってね…実は性感帯なんだよ…神経が集中しているから…ほら。」

鵺はそう言いながら愛美の肩甲骨のあたりに口づけを落とす。

「…んッ…」


思わず吐息を漏らす愛美に鵺は微笑みながら唇を背中の真ん中まで移動させ、舌を出して舐め上げてゆく。

「ふぁ…!なに…これぇ…?なんかおかしい…」

蕩けた瞳でそう言う愛美にの耳元で鵺が囁く。

「言ったでしょ…あんまり知られてないけどここも立派な性感帯だって…」

ベッドが軋む音を立てる。枕元のデジタル時計の青が滲む。

鵺はそのまま蛇のように丹念に脊椎を舐め上げてゆく。

時にチロチロと本当の蛇のように、腰のラインぎりぎりを悪戯に、ゆっくりと。

「…あッ…鵺…待って…」

愛美の目に涙が滲むが鵺はそれを無視してゆっくりと背中の一番いいところを探るように舐め上げてゆく。

背中から脇腹に少し逸れたときにそれはやってきた。

「もう…だめッ…鵺…!!」

うつ伏せのままの愛美の身体が撥ねる。目の前にチカチカと小さな閃光が走る。

そして浅くせつなげな吐息を漏らすとそのまま愛美は眠りに落ちていった。


「可愛かったよ…つーちゃん…」

最早声も届かないところに行ってしまった愛美に毛布をかけると、鵺はそのままその小さな身体を抱きしめた。

「お金なんか本当は取りたくないんだけどね…」

その囁きはすでに高く登った月だけが聞いていた。

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