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空渡る希望

それから約1ヶ月後。

西園兄弟とインソムニアのメンバーたちは成田空港にいた。

軽快なアナウンスが流れる。

「成田発シカゴ行き747便はまもなく発着となります。ご搭乗のお客様におかれましては…」

真一は燕の小さな肩を抱き、啓二に一言。

「じゃ、行ってくる。あとのことはお前に頼む。」

燕は初めて見る兄の会社の面々に圧倒されながらも、頭をペコリと下げると一言。

「みなさん、今までお兄…兄を支えてくださってありがとうございます。きっと二人で帰ってきます。だから…」

その姿に思わず烏が涙ぐむ。

やせ細って今にも折れてしまいそうな体で、これから控える大手術に耐えるのだと思うと⸺それだけで涙が込み上げて来る。


定刻通りボーイング747便はシカゴに向けて飛び立って行った。

青葉梟⸺啓二がインソムニアの面々に向かって口を開く。

「君らどうすんのさ…。特に夜鷹。散々いたぶられてまだ続けるつもり?」

夜鷹はポリポリと頭を掻きながら返す。

「俺にはこれしかないんで…やらせていただきますよ。」

烏も、木菟も頷く。

啓二は「あっそ。」と一言言うと空を仰ぐ。

その瞳からは一筋の涙がこぼれていたがそれをぐい、と拭うとインソムニアのメンバーに向かってこう言った。

「兄さんが帰るまでは俺がルールだ。鵺の代わりをスカウト!一からの仕込みだ、忙しくなるぞ!!」


ほぼ同時刻。

空を飛んでいくボーイング747便を邸宅から雲雀は眺めていた。

「本当に見送りに行かなくて良かったので?」

白鷺が尋ねる。

雲雀は手にした扇子を広げると「いらん。」と短く返し、更にこう続けた。

「命の恩人ですよー、なんてどの面下げて会いに行く馬鹿がいるというんだ。それに私は忙しい。五億の穴埋め。いや、倍にして返してやる。」

そう言ってPCに向かう雲雀の背中が微かに震えていたが⸺白鷺はそれを見なかったことにして居室を去った。


そして⸺愛美は元の職場へと戻っていった。

雲雀が裏で根回しをしたらしく、病欠扱いとなっていた。

コールセンターのドアを開く。

その瞬間に佐江が抱きついてくる。

「バカ!バカ!バカバカバカ!!」

泣きじゃくりながらポカスカと肩を叩かれて思わず愛美は苦笑する。

「ごめんね…。心配かけたね…。ごめん…。」

そう言って佐江の背中をさするうちに愛美の目にも涙が溢れてくる。

「すっかり良くなったんだよね…?もう大丈夫なんだよね…?」

涙を拭いながら尋ねる佐江に、愛美はニッコリと笑って答える。

「うん。もうすっかり!また一緒にがんばろうね!」

それを見た佐江もまた微笑んで一言。

「心配させたお詫びに…また新作のフラペチーノ奢りね…?なんと7月は桃!これは外せないでしょ!」

始業のベルが鳴る。

と同時にけたたましく鳴り出す電話。

その音をどこか懐かしく感じながら愛美は受話器を持ち上げた。


虎太郎は愛美の居室で空を見上げていた。飛行機雲を作りながら飛んでゆく機体。あの中に梟はいるのだろうか。そんなことを考えていた。

虎太郎は自然と手を組み祈る。

何もかも上手くいくように⸺ただ祈っていた。


こうしてそれぞれがそれぞれの日常を取り戻していく中、飛行機はどんどんと高度を上げてゆく。

希望を乗せたそれは一路シカゴへと向かっていった。

アパートの軒下ではツバメの雛が忙しなくぴいぴいと声をあげている。虎太郎はそれを眺めると、ふ、と笑いながらテーブルにある求人雑誌をめくり始めた。

夜の世界に生きていたものが昼の世界に生きるのはそう容易いことではない。それでも⸺愛美と共に歩むのだと決心を宿した目で虎太郎はページをめくり続けた。

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