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駆け引きとすれ違う心

梟と青葉梟が去ったあと少しして、バーMoonlightの扉が開いた。

「何やってんだお前…」

浅黒い肌。威圧感のある眼差し。夜鷹だった。

夜鷹は蹲ったままの鵺の顎を右手でクイ、と上げると厭らしい笑みを浮かべる。

「お前…梟を怒らせたな?あの女か。小鳥遊愛美…」

鵺はその手を振り払うと夜鷹を睨みつけて一言。

「お前には関係のない話だ。気安く触るな。」

そんな鵺を見て夜鷹はニタリと嗤うと何事かを耳打ちした。

鵺の目が見開かれて夜鷹を見つめる。

「やるかやらねえかはお前の自由だよ…でも金がいるんだろ…?なに、梟にバレなきゃいい話だ。」

そう言うと夜鷹は嗤いながらインソムニアのドアを開けて去って行った。

「俺次第…」そう呟く鵺の言葉は冷たい夜の空気に吸い込まれて行った。


開けて月曜日。

「ごめんなさい……!!私…わたしは…佐江の心配を無碍にして…今更謝っても許して貰えるなんて…思ってない…。でも、謝らせて…!!」

早朝のコールセンターで愛美は佐江に頭を下げる。

窓の外を燕が行き交う中、佐江はしばしの間愛美を見つめていたが⸺やがてふ、と笑うと愛美を抱きしめながらこう言った。

「おバカ。本当に心配したんだからね…。それで夜のお仕事は…?」

愛美は薄っすらと目に涙を浮かべて答える。

「辞めてきた。私…その…彼氏できて…もう必要ないかな、って…。」

佐江はその報告を聞いて暫し驚いていたが、愛美を抱きしめる腕に力を込めるとこう言った。

「そっかぁ…。よかったじゃん…。これでもう無理しなくていいんだね…。あ、でも佐江さんはまだ怒ってますよ…?」

その言葉に愛美がビクリとすると佐江はカラカラと笑いながら、

「今日の帰り。新作のフラペチーノ奢って?それでチャラね。」


その日の仕事もなんとか終わり、二人並んで歩いてゆく。新作のフラペチーノは濃厚なショコラとバナナのフレーバー。甘味が疲れ果てた脳を癒やしていく。

「で、彼ってどんな人なの?」

佐江が興味津々で尋ねると愛美ははにかみながら、

「まだ…写真とかはないけど…撮れたら見せる…」と頬を染めながら返す。

「約束だからね?さ、脳みそチャージできたところで帰りましょ!また明日ね!」

駅で佐江と別れた愛美はあの夜聞いた鵺のメッセージアプリに連絡を入れる。

「近々会えるかな?」

すぐに既読になり返事が返ってくる。

「今夜行く。そこで話がある」

愛美は思わずスマートフォンを握りしめ、柔らかな笑顔を浮かべる。鵺が今夜も自分を愛してくれる⸺その期待で身体は火照り、心拍は否応なしに上がってゆく。

何物にも代え難い多幸感に包まれながら愛美はラッシュアワーの電車に揺られていた。


20時を回った頃、鵺は愛美の部屋を訪れた。すっかりと身支度を整えた愛美を鵺は無言で抱きしめると深い口づけを落とす。

そして⸺また貪るように二人の身体が重なり、快楽の声が小さなワンルームに響く。

「鵺…愛してる…ッ…!好きなの…大好き…!」

鵺は喘ぎながら必死に言葉を紡ぐその唇を塞ぐと激しく身体を動かしてゆく。

「愛美…!!離したくない…ッ!!ああッ…!」

最早汗なのか涙なのか⸺あるいは体液なのかわからないぐしょぐしょのシーツの上で二人揃って果て⸺くったりと倒れ込むと、鵺はまだトロンとした目の愛美に口づけを落としてこう言った。

「しばらく…会えないと思う。インソムニアを抜けるのにいくつか条件があって…多分3ヶ月…いや、もしかしたら半年…でも合間を見てできるだけここには来るから…」


その言葉を聞いた愛美は最初はぽかんとしていたが⸺やがてその目に涙が滲む。

「けりをつける、って言ったよね…?鵺…。」

鵺は視線を逸らすと一言。

「その後はずっと一緒だから…頼むから待っていてくれないか…?」

愛美の目から涙が零れ落ちる。

やっとのことで開かれた口から出た言葉。

「嘘つき…ずっと一緒って…けりをつけるって…!!ねえ!!」

鵺はいたたまれなくなり服を着ると黙って愛美の部屋を後にした。

「なんで…なんでよぉ…!!」

ドア越しに愛美の泣き声が聞こえる。鵺はその場に蹲ると目を伏せてぽそりと呟いた。

「言えるわけ無いだろ…一千万なんて…そんなこと言ったらまた君は夜の世界に戻ろうとしてしまうだろ…」


ドアの内と外で繰り広げられるそれぞれの痛み。

これからの二人の運命を嘲笑うかのように月夜に数匹の蝙蝠が飛んでいった。

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