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朝舞探偵事務所~妖魔のおもてなし~  作者: 空と青とリボン
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不老不死の薬って

俺たちはしずくをソファーに横にさせて毛布をかけてあげた。暖房は効いているから風邪はひかないと思うがしずくがなかなか目を覚まさないので不安になってきた。

それから10分ぐらいした頃だろうか、しずくは目を覚ました。虚ろな目で天井を見ている。その顔は青ざめていて生気がなく、まるで蝋人形のようだった。もしかしてしずくの心は壊れてしまったのでないかと思うとたまらなく怖くなってきた。

「しずくさん、大丈夫ですか。」

俺は恐る恐る声を掛けた。しずくはゆっくりと視線を動かし俺たちを見る。そしておもむろに起き上った。そのさまは心ここに非ず。魂が抜けたように力なくソファーに座っているしずくを見て心が痛んだ。

俺はしずくの胸中を思うとなんと声を掛けたらいいか分からなくなっていた。これからしずくは何百年、何千年という途方もない時間をたった独りで生きていくのだ。それはなんと残酷でどれほどの苦痛を伴うことだろう。俺は途方に暮れて茜さんを見た。茜さんは静かに頷いた。

「自分がしたことの事の重大さに気づきましたか。」

茜さんが厳しくもいたわりのある声で尋ねた。

「・・・今さら気づいたって遅いじゃないの。もう取り返しつかないんだから。」

しずくは力なく答えた。その瞳に涙が浮かんできた。だがしずくはその涙を振り払い、残っている力を振り絞り茜さんに問いかけた。

「ねぇ、不老不死の効果を消す薬とかはないの!?あなた知らない!?いくらでもお金は払うわ!!」

一縷の望みを託し、しずくが茜さんに縋った。きっと藁をもすがる気持ちだろう。

だが茜さんは沈黙を保ったままだ。

それを見たしずくは最後の砦を失い、突然号泣し始めた。張り詰めていた糸がぷつんと切れてしまったのだ。肩を震わせ、母親に置いてきぼりにされた子供のように泣きじゃくっている。

嗚咽するしずくに何もしてやれない俺はただおろおろするばかりだ。

すると茜さんは真摯にしずくに向き合った。そして深い眼差しでしずくを見つめる。

「いいですか。これから話すことはあくまで可能性の話です、断定は出来ません。」

茜さんの前置きにしずくの涙が止まった。俺も何事かと息をのむ。

「不老不死の薬、確かにそれは年をとらなくする薬です。でも永遠に年を取らないというわけではありません。」

「えっ!?」

しずくが驚愕して目を見開いている。俺も驚いた。だってさっきまでと言っていることがまるで違う。

「それはどういうことですか。」

しずくがここに来てから初めて「ですます」を使った。丁寧語を使っているしずくを見て俺はこれまたびっくりした。

「死ななくなる薬ではなく年を取りにくくなる薬、つまりいつかは年を取り死ぬということです。」

「本当に!?」

地底を削ってさらにその下まで沈みきっていたしずくの瞳に急激に光が舞い戻ってきた。これは希望の光だ。

「それは本当ですか!?茜さん!」

俺も俄然嬉しくなった。さっきと言っていることが違うけどそんなのどうでもいい。良い方向に転がるなら大歓迎だ!!

「本当。というか実は私は以前、あの妖怪から不老不死の薬を貰って飲んだ人間に出会ったことがあるのよ。」

「えぇ!?」

とんだびっくり話だ。そんなの聞いてないよ!いや、でもそういえば妖怪から不老不死の薬のことを聞いた時の茜さんの様子を思い出すと嘘ではなさそうだ。

「それでそれで!?」

しずくが身を乗り出してきた。希望を取り戻したしずくはあっという間に元気になった。

「今から10年前ぐらいかしら、私の霊能力の評判を聞きつけてきたある人が私の所に尋ねてきたんです。その人は老いた男性、生まれたのは江戸時代だと言っていました。」

「江戸時代!!?」

到底信じられない話だ。当たり前だが江戸時代なんて時代劇でしか見たことがない。あまりに遠い話で実感が湧かない。江戸時代生まれの人と会うなんてあまりに荒唐無稽な話で嘘なんじゃないかとさえ思えてくるが・・・。

「そう江戸時代。20歳代前半の時にあの妖怪から不老不死の薬を貰い飲んだらしいのですが私が会った時はどこからどう見ても20歳代には見えなかった。どう見ても90過ぎのおじいちゃんでした。」

「それは元から凄い老け顔だったということじゃないですか。」

俺がつっこむと茜さんは軽くため息をついた。

「あのね太郎ちゃん。いくら昔は栄養状態が悪く寿命も短かったとはいえ20代の人が90代の顔をしているわけがないでしょう。」

「でもプロジュリアという病気の人は他の人より何倍もの速さで年をとるというのをテレビで見たことがあります。その男性ももしかしてそれで20代ですでにおじいちゃんの顔をしていたということはありえませんか?」

俺は疑問を呈した。

しかししずくは希望が削がれるのをこれ以上見過ごせないと思ったのか俺をじろっと睨んで

「下っ端は黙ってて!」

「はい、すみませんでした。」

俺は即、謝った。どうやらしずくは完全にカンバックを果たしたようだ。

「その人は20代の頃は他の同い年の人となんら変わらなかったと言っていたわ。だけど薬を飲んだらピタッと年を取らなくなったって。でも150年生きたあたりから徐々に老化が始まってきたそうよ。それまで風邪一つひいたことがなかったのに病気がちになってきて腰も曲がってきて皺も増えてきて動作も鈍くなってきて。」

「それって完全な老化よね。」

しずくは弾むような声で返した。


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