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朝舞探偵事務所~妖魔のおもてなし~  作者: 空と青とリボン
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永遠に死ねないということは

「それで薬を貰うために鶫守の秘密を洩らしたのね。」

「仕方なかったのよ!薬をやる代わりに腕一本くれとか足一本くれとか目玉くれとか言われたけどわけが分からない!そんなことしたら女優の道を諦めなければならないじゃないの!」

しずくは鶫守に対して罪悪感は微塵も持っていないようだ。

それを見て茜さんはかすかに首を横に振った。そして静かに語りだす。

「今はそれでいいかもしれない。でもこの先何十年、何百年と今の姿のままで変わらないんですよ。今は良くてもじきにあなたが年をとらないことに日本中の皆が気づきますよ。」

「茜さんの言うとおりそうですよ。いくら整形手術の技術が進んでいるからといっても限界があります。ヒアルロン酸注入、リフト手術、ボトックス注射しまくって今の若さを保っていると嘘をついてもそんなのおかしいと皆から指摘されますよ。だって60歳になっても20代の容貌を保っているなんて普通じゃないです。」

俺は持てる知識を総動員して力説した。茜さんはそんな俺を見て怪しげに目を細める。

「太郎ちゃん、なぜそんなに整形手術に詳しいのかしら。ハッ・・・もしかして!?」

そう言うと茜さんは俺の全身を頭の上からつま先まで舐めるように見た。

「整形なんてしていませんよ!僕が整形してなんになるんですか。整形してこれですか?」

言った後で気づいた。俺、今、自爆したよな?

一方、しずくはなんだそんなことという態度で胸を張った。

「それはご心配なく。あと10年女優やったら完全引退するから。」

「引退!?」

大女優・秋川しずくのいきなりの爆弾発言だった。こんなことがもし世間に知られたら大騒ぎになるじゃないか。翌朝のスポーツ新聞は軒並み一面でそのことを書き立て、芸能記者が他の誰かの会見をほったらかしにして大慌てで駆けつけてくる大事件だぞ。

それなのにしずくはまるで無頓着、芸能界への未練などまったく感じさせない冷めた表情。

「引退とかそんな簡単に言いますけど、そのことをマネージャーさんや事務所の人は知っているんですか。」

「マネージャーや事務所が知っているわけないじゃないの。話していないもの。第一、私が不老不死の薬を飲んだことさえ知らないわよ。」

「え?じゃあ、しずくさんの独断で薬を?」

「当たり前でしょう?私が薬を飲んだことなんて誰も知らないわよ。それにこのままずっとこの姿だったら周りに怪しまれることぐらい最初から分かっているわ。だからころあいを見て芸能界から身を引くのよ。日本にいたら秋川しずくだとばれるから海外に引っ越すつもりよ。そこから第二の人生。」

しずくは実にあっけらかんとしていて、事の重大性をまるで分かっていないような気がする。俺は果てしない違和感を覚えた。なんだろう、このしずくの軽さは・・・。

俺は首を傾げた。茜さんの表情はしずくとは正反対に一層深刻になる。

「本当にそれで済むと思っていますか。不老不死というのは単なる長生きとは違うんですよ。永遠に死なないということなんですよ。」

「・・・。」

茜さんの言葉にしずくは黙ってしまった。

「海外に移住すると言いましたけど移住した先でもあなたは年を取りませんよ。近所の人、行きつけの店の店員、友人、知人の全員があなたが年をとらないことにいつか気づくでしょう。」

「そっ、そんなこと分かっているわよ!」

先程まで他人事のように平然としていたしずくの声が若干震えだした。動揺しているのだろうか。

「そうしたらまたよその町へ引っ越すのですか。」

「そうよ!周りの人間におかしいと気づかれる前に引っ越すわ。そこでまた気づかれそうになったら引っ越す。引っ越して引っ越して引っ越ししまくってやるわよ!!」

しずくは明らかに動揺していた。強がっているといってもいい。焦りの色が冷や汗となってしずくの額から流れ落ちてくる。

「そうやって永遠に世界中を転々とするのですね、まるで根無し草のように。それこそ何百年、何千年と。」

「何千年・・・?!」

しずくは愕然としながら茜さんの言葉を反芻した。

「そうです、何千年です。いや、永遠ですから何万年かもしれません。不幸なことに地球から人類がいなくなったとしてもあなた一人だけは残るでしょう。それがあの妖怪が作り上げた不老不死の薬です。」

「!!」

しずくは驚愕のあまり、体を凍りつかせてしまった。

それにしても途方もない話だ。考えただけで眩暈がしてきた。全人類が滅びても自分だけは生き残るという話は漫画やハリウッド映画でたまに見るけどそれが現実になるなんて誰が想像しただろう。

「そんな・・・。何万年とか嘘でしょう?せいぜい何百年の話じゃないの?普通の人より倍くらい長生きするだけでしょう?・・・。」

しずくの顔は真っ青だ。唇も体も小刻みに震えている。事の重大性が分かってきたのだろう。だがこうなることも覚悟して薬を飲んだのでないか。普通は不老不死になろうとする時は相当な覚悟がいる。他人より2倍くらい長生き出来るだろうという甘い考えで不老不死になったとは思いたくない。もしそうだとしたらあまりに浅はかだ。

しかし茜さんに縋るように見つめるしずくがあまりにも憐れでいたたまれなくなってきた。

まるで時が止まったかのような重苦しい空気が支配する中、茜さんは非情にも宣告する。

「いいえ、妖怪が作り出す不老不死の薬は人間が作り出すアンチエイジングとは全く異なります。そこに容赦も分別もありません。あるのはただ死なないという事実だけです。」

「!!!」

しずくは想像もしていなかった衝撃に思わずよろめいた。俺は慌てて体を支えようとするがしずくは俺の手を払いのけた。その時、しずくの瞳が怪しく光った、まるで絶望の中に一縷の希望を見出したかのように。しずくは抑揚のない声で言葉を紡ぎだす。

「だったら自分の手で自分の人生に幕を下ろすわ。」

「なっ!」

今度は俺が驚愕した。何という事を言うんだ!俺は焦った。それってつまり・・・。

それでも茜さんは冷静だった。

「それって自殺をするということですか。」

茜さんの冷めた声色に俺はぎょっとした。とんでもないことを言っているのになぜ二人ともこうも平然としてられるんだよ!

「はやまらないで下さい!!」

俺は懸命にしずくに訴えた。しずくは自嘲気味に笑みを浮かべる。

「だってそれしか方法がないじゃないの。」

「そんなことないです!」

「そんなことで死ねると思っているのですか。」

突然に告げられた茜さんの言葉。それは死刑宣告と同じだった。

俺としずくは信じられないものを見たかのように茜さんを見つめた。茜さんの冷たい眼差しを見て背中に戦慄が走った。しずくは考えたくもなかった事実を知らされ悟ったのだろう。焦燥感にかられ震えが止まらない。それでもその事実を少しでも否定して欲しくて藁にもすがるようなか細い声で茜さんに問う。

「まさかそれさえ許されないとかはないわよね・・・?」

「好きな時にいつでも死ねるというそんな甘い考えで妖怪の不老不死の薬を飲んだのですか。だとしたらあなたは愚か過ぎました。」

容赦ない茜さんの最終通告。残酷なまでにしずくの心に突き刺さったものは後悔と絶望だけ。希望の残骸がしずくの胸を押しつぶす。目の前が真っ暗になって体がふらついて、次の瞬間、しずくはショックのあまり倒れた。

「しずくさん!!」


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