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朝舞探偵事務所~妖魔のおもてなし~  作者: 空と青とリボン
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宮大工の覚悟

茜さんは頷いた。

「決定的だったのは医者の診断。診断を受けた時に医者から持ってあと3、4年だと言われたそうよ。その時その人は飛び上がって喜んだらしいわ。実際体は衰えていたから本当には飛び上がっていないけど心の中では飛び上がっていたって。あまりに嬉しくて気がついたら医者の手を取ってありがとうと言っていたらしいわ。医者は不思議がっていたそうよ。」

「その人の気持ちが分かるわ。」

しずくはまだ見ぬその人に思いを馳せシンパシーを感じている。

「それで7年前に私の所にその人の家族から手紙が届いたの。『永眠しました。天寿を全うできて本人は幸せでした。』と書いてあったわ。」

「じゃあ私もいつか死ねるのね!!」

しずくは飛びあがって喜んだ。掛け値なしの心からの笑顔を見せている。そして茜さんの手を取った。

「ありがとう!出来ればもっと早くその話を聞きたかったけど。でも今はそんなことどうでもいいわ!本当にどうもありがとう!!」

「いいえ、もっと早く言わなくてこちらこそごめんなさい。」

「いいのよ!私に反省させるためだったんでしょう?思いっきり反省したわ。江戸時代というと今から約200年前ね。200年前に飲んだ人が数年前に亡くなったということは200年ね!200年我慢すればいいのね!」

「そういうことになりますね。」

しずくは茜の返事を聞いたとたんまた涙を流した。今度は悲しみの涙ではない、うれし涙だ。

「皮肉なものね・・・。死にたくなくて不老不死の薬を飲んだくせにいつか死ねると分かって喜ぶなんて。」

しずくは自嘲気味に呟いた。

「あの・・・鶫守には・・・。」

俺は念の為に聞いてみた。今の素直なしずくだったら今までと違う答えが聞けるかもしれないと思ったからだ。

「もちろん謝るわ!!スケジュールを開けて必ず直接会って謝る。」

そう言い切ったしずくの瞳は澄み切っていてまったくの嘘はなかった。俺はほっと肩をなでおろした。それは茜さんも同じで。

いきなりしずくが立ち上がった。あまりの威勢の良さに思わす俺の方がびびる。

「あと200年ね。200年きっちり生きて200年できっちり死んで見せるわ!」

生きる力がみなぎっている。それは瑞々しく、また圧倒的だった。しずくはふと時計を見る。

「もうそろそろ行かなくちゃ。撮影の合間を抜け出してきたから。」

「偉大な女優になってください。」

俺は見送りの代わりに心からの嘆願書を差し出した。

「もうなっているわ。」

しずくは茶目っ気一杯の笑顔で答えてウィンクをした。俺たちは思わず笑った。

「ではごきげんよう。何かあったらここに依頼に来てもいいかしら。」

「ええ、もちろんです。」

「ありがとう。」

しずくは眩しいくらいの笑顔と大女優のオーラを惜しげもなく振り撒きながら華麗にドアを開けて風のように去って行った。

悪態ついたり驚いたり絶望したり歓喜したり、あまりに目まぐるしい感情を見せた嵐が去った後で俺は感慨に更けた。それと同時にあの妖怪の顔が思い浮かんだ。

「それにしてもあの不老不死の妖怪、少なくとも200年以上前から生きていたなんて驚きですよ。」

「妖怪は基本長生きだからね。まぁでも中には人間と同じくらいの寿命を持って生まれる妖怪もいるのよ。」

「そうなんですか。でも茜さんも人が悪いなぁ。もっと早く不老不死ではないということを教えて欲しかったですよ。僕まで動揺しまくりだったんですから。」

俺は軽く茜さんを責めた。だがそのとたん茜さんは押し黙ってしまった。

「茜さん?」

茜さんは黙ったまま自分の机に座り、そのまま何やら考え込んでしまった。その表情は苦渋に満ちていてただならぬ様子だ。

「茜さん、急にどうしたんですか。」

俺が声を掛けても茜さんはこっちを見ようともせず深刻な顔で俯いている。そんな茜さんの横顔を見ている内に嫌な考えが頭をもたげてきた。

「まさか・・・。さっきの江戸時代の人は茜さんの作り話!?」

「・・・。」

茜さんは苦渋の表情のまま、俺の顔を見るのを避けるように尚も沈黙を保ったままだ。

そんな!!嘘だろう!?じゃあしずくはあのまま永遠に生き続けなければならないのか!?

いつかは死ねると分かって歓喜していたしずくの姿を思い出すと罪悪感で胸がズキズキと痛んだ。なんだか涙が出てきそうだ。

「どうしてそんな嘘を・・・。」

本当は理由なんて聞かなくても分かっている。しずくの精神的苦痛を少しでも和らげる為の嘘。でもしずくはいつかそれが嘘だったと分かる日が来るだろう。その時どんなに悩みどれほど傷つくだろう。例えその時に俺たちがもうこの世にいないとしてもこの胸の罪悪感は消えない。俺は途方に暮れた。

すると茜さんは、まるで自分のことのように落ち込み鼻水をすする俺を見てぷっと吹き出した。

「くくくく。」

笑いを堪えている。

「茜さん?」

そのとたん茜さんはあはははと笑いだした。俺はその瞬間悟った。

「もしかして僕をからかったんですか!?」

「全く太郎ちゃんは見ていて飽きないわね。他人のことなのに自分のことのように驚いたり悲しんだり、見ていて飽きないわ。」

尚も愉快そうに笑う茜さん。本来ならからかわれたことに怒るべきだがそれよりも今は気がかりなことがある。

「じゃあ、江戸時代の人の話は本当だったんですね!」

「本当だから安心して。あんな作り話してあんなにぬか喜びさせて実は嘘でしたではいくらなんでも酷過ぎるから。そんなことしたらしずくに恨まれるわ。」

「それを聞いて安心しました。」

俺は心の底から安堵した。

「でもそうなるとあの妖怪が言っていた不老不死の薬というのは看板に偽りありですね、不老でも不死でもないんだから。」

「そうね。でも看板に偽りありで良かったじゃない?本気で不老不死の薬を作られたんじゃたまったもんじゃないわ。」

「それもそうですね。」

俺も心の底から同意した。

「それはそうとその江戸時代の人、なぜそんなに長生きしたかったんでしょうか。体の一部を差し出したんですよね?」

「そうよ。その人は片足がなかったわ。そうまでして見たいものがあったそうよ。」

「そうまでして見たいものとはなんだったんでしょうか?」

「その人ね、宮大工だったの。」

「宮大工って確か神社仏閣を建てる大工さんですよね。」

「そうよ。自分が宮大工として携わった社が何百年後の時代でどうなっているのかどうしても見たかったそうよ。」

俺はそれを聞いていたく感動した。自分の体の一部を犠牲にしてまで自分が建てたものの行く末を見たいなんて到底真似出来る事ではない。

「すごい壮大なロマンですね。恐るべし職人気質というか。」

「戦争でその神社は焼け落ちてしまったけど現代に生きる人々が力を合わせて、昔と変わらない姿で再構築してくれたのを見て嬉しくて涙が出たと言っていたわ。人間のたくましさと前向きさに感動したって。自分が作り上げた社は朽ちてしまったけれどいつまでも悲しんでてはいけないと教えられ、勇気づけられたとも言っていた。」

「そうですか・・・。それは良かったですね・・・。」

俺はなんだか鼻の奥がじ~んとしてきた。

「あら太郎ちゃん、また泣いているの?まったくすぐ泣くんだから。」

茜さんがからかうように俺の顔を覗き込んできた。

「泣いてないです!」

「泣いているわよ。」

「泣いてないですって!」

「はいはい。」


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