第22話 必ず助ける
あの後すぐに騎士団が到着し、オズワルドは引き摺られるようにして連行された。
最後まで抵抗する姿を見せていたが、擁護する者は誰もいない。血を分けた両親ですら他人事のように冷めた表情で、ただ傍観していた。
城へ連れ帰ったツェスカを待っていたのは、涙を浮かべた侍女のウェンディに、悲痛な表情を浮かべた母。それに、怒りと悲しみと後悔に顔を歪めているツェスカの父……フランツェン伯爵だった。
「正直、貴方の事は殴り殺したいほどに憎い。……だが、それはツェスカが望まない。この子は、自分で貴方の元に残ることを選んだ。それなりの覚悟もあったでしょう。一時の感情で貴方を怒鳴りつけても、ツェスカは戻らない」
ツェスカを愛おしそうに見つめているが、握られている拳は震えている。爪が食い込むほど強く握り、必死に自我を保とうとしている。
「こうなっては、この子を此処には置いておけません。屋敷へ連れ帰り、腕の良い術者を探す事にします」
「──そして金輪際、この子に関わらないで頂きたい」
突き刺すような冷たい視線を向けながら、付け加えられた言葉に、全身の血が抜けるような感覚がした。
「ま、待ってください!!」
「……なにか?」
ツェスカを抱えて出て行こうとする伯爵を引き留めたが、失望に満ちた眼を向けられた。僕には期待していないという圧を感じた。まだ殺気を向けられた方が幾分か良かったと思いながら、ギリッと歯を食いしばった。
「十日……いえ、三日でいい!三日だけでも、私に預けてくれませんか!?」
「……貴方に何が出来ると?」
「恥ずかしながら、何もできません」
ここで嘘は付けないと正直に口にしたが、自分の無力さに腹が立ち、嫌気がさす。
「こうなった要因は私にあります……お願いです!私にも償える出来る時間をください」
深々と頭を下げると、母が僕の肩に手を置いた。
「私からもお願いできますか?」
「王妃殿下。申し訳ありませんが、流石に貴女の願いでも聞き入れることは出来ません」
「母としてこの子の願いを聞いてくれと言っているんじゃありませんよ。私も彼女の笑顔を取り戻したいと思っているのです。これは、王妃でも母でもなくナディーヌとしての願いです。どうか、お願いします」
僕の隣に並び、一緒になって頭を下げた。
すぐに「わ、私からもお願いします!」とウェンディが声をあげ、同じように頭を下げた。
ああ…ツェスカはこんなにも愛されているのか……と胸が熱くなった。
「……三日……」
ぽつりと聞こえた言葉に勢いよく顔を上げた。
「三日だけ預けましょう」
「!!」
「それ以降は、意識が戻ろうと戻らまいとツェスカは連れ帰ります」
「ッ!十分です!ありがとうございます!」
ワッ!と三人で手を取り喜んだ。
***
「嬢ちゃんの様子はどうだ?」
珍しく険しい顔のテオドラが僕の元を訪れた。
「……酷い顔してるぞ。ちゃんと休んでるのか?」
「……」
あれから僕は、手当り次第に術者を呼び寄せた。術者として名を馳せている者や、業突く張りだが腕利きの者。果ては、新参者まで藁にもすがる思いで声をかけた。
──結果は、惨敗。
誰一人として、術を解ける者はいなかった。だが、この術が禁術である事だけは分かった。数人が口にしたので間違いないだろう。
それならば、城に眠っている魔術の本を読み漁り、なんとか手掛かりを掴もうとした。
不満そうにしながらも、ツェスカを預けてくれた伯爵の気持ちになんとか応えたいという思いもあるが、一番はツェスカの笑顔を取り戻したい。
もう一度、僕をその瞳に映して笑いかけて欲しい。思いが、原動力となっている。その為ならば、無理も無茶もどうって事ない。
「お前まで倒れたら本末転倒だろうが」
わざわざ言わなくても、そんな事は分かってる。それでも時間がない。ゆっくりなんてしている暇はないんだ。
「僕の事は心配いりませんよ。それより、彼の方はどうです?」
疲労している目を指で押さえながら、椅子にもたれた。テオドラは呆れたように溜息を溢すと、調査書を目の前に差し出してきた。
「アイツは駄目だ。何を聞いても意味の分からんことしか言わない。頭のネジがイカれちまってるんじゃないか?」
「元より彼には期待していませんでしたけどね」
まともな話ができるなら、このような事態にはなっていなかった。それでも彼は唯一の手掛かり、逃がす訳にはいかない。
「術の発動源である石も見つからなかったしな。相手さんは随分用意周到に手を回してたようだ」
あの時、確かにオズワルドの手に握られたペンダントを見た。だが、どういう訳か、何処を探しても見当たらない。
役目を果たし消滅したのか、他に手を貸した者がいるのか……解決することが山積みだが、弱音は言ってられない。
「静かだな…嬢ちゃんらしくない」
テオドラの視線の先には、窓の外を黙って見つめるツェスカがいる。
虚ろな目でぼんやりとしている。今、何を思っているのか、何を求めているのかすら分からない。
「護ると言ったのに…」
眉間に皺を寄せ、悲痛な表情を浮かべながら呟いた。
「もう少し調べてみる。お前も、無理せず休めよ」
ポンッと力の入った僕の肩に手を置くと、軽く手を振りながら部屋を出ていった。




