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婚約者の浮気が発覚したので、街の中心で「誰か私を貰って!」と叫んだら大物が釣れました  作者: 甘寧


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第21話 絶対に渡さない

「ツェスカ!」


 会場からツェスカの姿が見えなくなったのに気づいたのは、ほんの数分前の事。


 ツェスカの元に例の愚息が近付くのが見えたので、鬱陶しく纏わりつく令嬢を払いのけようとした。だが、僕の行く手を阻むように令嬢らは束になり、上手く撒くことが出来なかった。


 今思えば、彼女たちも彼と一緒になって、僕とツェスカを引き離そうとしていたのではないか。


 ──いや、それは単なる言い訳だ。


「ツェスカ!何処です!」


 男爵とはいえ、夜会が開けるほどの屋敷を持っているので、部屋の数もそこそこある。


「クソッ!」


 知らぬ屋敷では勝手が分からず、苦戦していると


「あははははは!」


 下品な笑い声が耳に届いた。


 すぐに笑い声のする部屋へ向かい、扉を蹴破るようにして中へ。


「ツェスカ!!」


 部屋に入った僕が最初に見たものは、オズワルドの膝の上に座っているツェスカだった。


 だが、明らかに様子がおかしい。表情一つ変えず、僕の方を見ようともしない。


 ……いや、違う。よく見ると、瞳に生気を感じられない。光を失い、曇っているように見える。


「ああ、殿下。遅かったですね」

「お前ッ!ツェスカに何をした!!」


 オズワルドの冷静な口調が、僕の苛立ちを増幅させる。


「可愛いでしょう?従順な俺だけのツェスカですよ」


 頭を撫でながら頬擦りされているのに、ツェスカは微動だにしない。


 ──まるで、心を奪われた人形のよう。


「はははっ、気付いちゃいました?そうですよ。今のツェスカには心がない。器だけの存在です」

「は?」


 コイツが何を言っているのか分からない……


「少し前に、()()()が助言してくれたんです。心を無くしてしまえば、ツェスカは俺のものになるって。まあ、本当はこんな事したくなかったんですけど、あまりにも言うことを聞いてくれないんで、仕方ないですよね?」


 そう言って手に握られたペンダントを見せてきた。

 明らかに術のかかっているそれをよく見ると、隣国の紋章が入っているのに気が付いた。


(……やられた)


 直接ツェスカを狙うんではなく、周りを狙ったのか。


「心を失ったツェスカでは王妃は務まらない。アンタの負けだ。これからは俺がツェスカを愛してやるんで安心してください。心はなくとも、()()は身体が覚えてくれますから」

「ッ!」


 これ見よがしにツェスカの頬を舐めながら、手はスカートの中へ……肌に触れる度、ツェスカの身体が小さく跳ねるのが分かる。


「汚い手でその子に触れるな!」


 堪らずオズワルドを殴りつけ、ツェスカを奪い返した。


「ツェスカ…」


 名を呼ぶが、返事はない。焦点の合わない目に、力のない体。本当に人形のようだが、温もりはちゃんとある。その温もりだけは離れていかないように、強く抱き締めた。


「は、俺からツェスカを奪ったところでもう遅い!」


 ゆっくり体を起こしながら毒づいてくる。


「どちらにせよ、俺もアンタもツェスカも、幸せにはなれない!ざまぁみろ!」


「あははは!」と勝ち誇ったような高笑い。……本当、耳障りでしかない。


「──黙れ」


 腹の底から這い出たような低く怒気を含んだ声に、オズワルドは瞬時に声を詰まらせた。


「何を勘違いしているのか知らないが、どんな姿であろうと彼女は僕のものだ。お前が彼女を愛する資格など微塵もない」

「ふん。アンタがそう言っても、周りは認めてくれない。強がるのも大概にしろよ」

「認められなくて結構。僕は僕の意思で彼女を妻にする」


 僕の妻はツェスカ以外に考えられない。例え、周りがどんなに反対しようと、この気持ちは揺らぐことはしない。


 何を言っても無駄だと感じたのか、オズワルドは「ぐっ」と唇を噛み締めた。


「ふ、ふざけるなよ!俺は両親に捨てられ屋敷を追われ、挙句に好きな女は色ボケ王太子に奪われた!そんなのおかしいだろ!」

「……それは全て自分の行いのせいでしょう?責任転嫁も甚だしい」

「うるさい!黙れ!」


 怒りに任せ、オズワルドが飛びかかってくる。しかし──


 残念。その手は絶対に僕には届かない。


「お待たせ。こっからは僕が相手や」


 軽々とオズワルドを地面に叩きつけたのはハオラン。


「すんません。遅なってしもうた。じきに団長らも到着するで」

「えぇ、ありがとうございます」


 オズワルドが、往生際悪く何やら叫んでいるが、どちらも気にする素振りはない。


「……大丈夫か?」

「大丈夫そうに見えます?」

「……」


 腕の中にいるツェスカを心配して声を掛けてくれるが、悲しみと後悔を滲ませた苦笑いを浮かべる僕に掛ける言葉は見つからないようだった。


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