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【全年齢版】ルシアナのマイペースな結婚生活  作者: ゆき真白
第二部 - 第二章

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かわいいひと、のそのとき

(新規事業の素案は父上がまとめてくださっているから、別荘に行く前にそれを確認して……ベル様から頼まれていた建国時の記録は執務書庫にあるから先に出しておこう。事前に俺も改めて目を通しておいて……ギュンターがいれば問題ないと思うが、万が一のときのための対処も再確認しなければな)


 あとは何があっただろうか、と考えながらも、自然と意識は左側へと向かってしまう。


(……これは俺も見ていいのか?)


 肌を焦がすほどの視線を受け、レオンハルトは思案するように視線を伏せる。

 これからすべきことを整理し始めてから、ずっとこちらを見つめているようだ。

 何か言いたいことがありそうなわけではなく、ただじっと見つめている。そんな視線だ。


(ふむ……)


 ルシアナがいるのに考え込むはそもそも論外だな、と彼女に目を向ければ、ロイヤルパープルの瞳と視線がかち合う。

 目が合うと、彼女は淑やかに微笑んだ。

 けれど、その微笑みとは裏腹に瞳は熱く熟れており、内に秘める熱情を少しも隠せていない。

 表情はいたって普通なのに、瞳にはレオンハルトに対する愛がこれでもかと溢れかえっていた。


(俺も少しは成長したな)


 人の心の機微を察することが苦手だったが、ルシアナのことはわかるようになってきた。もちろん、すべてを理解できているとは思っていないが、少なくとも彼女からの好意についてはこうして察することができるようになった。

 自分がこうして成長できたのは、すべてルシアナのおかげだ。

 ルシアナの存在が、自分を変えたのだ。

 自分の人生に強い影響をもたらしたかけがえのない人物が、自分に溢れんばかりの愛を向けてくれている。それは、なんて幸せなことなのだろう。


(……このまま黙って見ていたら、ルシアナはどうするだろうな)


 ルシアナを愛おしく思う気持ちから、ちょっとした好奇心といたずら心が湧いてくる。

 彼女を困らせたいわけではないが、愛しているからこそ、ついいろいろな表情が見たくなってしまう。

 ルシアナがそうしていたように、レオンハルトもただじっとルシアナを見つめ続ける。

 そのまま何も言わずにいれば、徐々にルシアナの表情に困惑が滲んでいった。

 口元には少しずつ力が入っていき、薄っすらと色付いていた頬はどんどん赤みを増していく。

 潤んだ瞳には恥じらいが浮かび、ルシアナはおずおずとジャケットを掴んだ。


「あの……レオンハルト様……?」


 戸惑いと不安と甘えが混じった小さな声に、ぞくりと身の内が震える。


(……貴女に対して抱いてしまうこの狂暴性はなんなんだろうな)


 今すぐ彼女を抑えつけて、余すところなく暴いてしまいたい。

 泣いて縋られても構わず蹂躙し続け、身も心にも自分という存在を刻み込みたい。

 彼女を何よりも慈しみ大切にしたいと思っているのに、彼女のことを傷付けるような欲望を抱いてしまうなんて、自分は本当に歪んでいる。

 しかし、これはもうどうしようもなかった。

 いけないと思うほど欲求は膨らんでいくのだから、自分のなかである程度は許容しなければならない。

 それが甘えであることは理解してるが、そんな甘えを目の前の最愛の女性が許してくれるということも、また理解してる。


(今は、だめだ。別荘に行くまでは……我慢しなければ)


 レオンハルトは自身を落ち着かせるように静かに息を吸い込むと、ルシアナの頬にそっと触れた。

 さらりとした、柔らかでなめらかな肌。自分の硬い手のひらが触れては傷付けてしまうのではないかと思って、ルシアナに触れるようになってからは手入れをするようになった。

 困惑しつつも頬をすり寄せてくれるルシアナを見て、手入れをしてよかったと心底思う。

 そのまま頬を撫で、後頭部へと手を回せば、ルシアナの目が期待に揺れる。


 ルシアナはゆっくりと体を寄せ、わずかに顎を上げた。

 その愛らしいおねだりには応えず、レオンハルトはくすぐるようにルシアナの頭を撫でた。指先が肌を掠めるたびに、彼女の長い睫毛も震える。

 ルシアナは、は、と短く息を漏らすと、自らちゅっとレオンハルトの唇に口付けた。

 もう数えきれないくらい――それこそ、毎日何度もしているというのに、ルシアナはすぐに顔を離し、照れたように目を伏せる。


(裸を見られることや行為中のキスには照れないのに、何故それ以外のキスにはいつもはにかむんだろうな)


 愛らしいことに変わりはないから何でもいいが、と思いつつ、後頭部に添えた手に力を込める。ルシアナの頭はすんなりと引き寄せられ、唇が重なった。

 触れるだけにとどめたルシアナとは違い、レオンハルトは遠慮なく舌を侵入させ、彼女の小さな舌を絡めとった。


(毎度思うがまるで捕食だな)


「っふ、んん……っ」


 少し息苦しそうにしながらも、彼女は口を開け、一生懸命口付けに応える。むしろ、もっと、とねだるようにルシアナは体を密着させた。


(可愛い。愛おしい。愛している。ルシアナ)


 溜まった唾液をルシアナが嚥下する音を聞いて、レオンハルトは顔を離す。


「ぁ……」


 ぺろりと唇を舐めれば、ルシアナは名残惜しそうに小さく声を漏らした。

 潤んだ瞳に見つめられると、延々と彼女を貪りたくなってしまう。


(……それはあとの楽しみにとっておこう)


 もう終わり、という意味を込めて頬に口付ければ、それを汲み取ったのか、ルシアナは目を伏せ、首元に顔を(うず)めた。


「考えごとの邪魔をしてしまって申し訳ありません」

「ルシアナが邪魔になることなどない。俺こそ何か貴女の邪魔をしてしまったんじゃないか?」


 顔を隠すように垂れた髪を耳にかければ、真っ赤になった頬と耳が見えた。ルシアナは何も答えず、ぐいぐいと首元に顔を押し付ける。


(本当に可愛いな)


 髪を梳くように頭を撫でながら、ルシアナを抱き締め背もたれに寄りかかる。

 ルシアナはされるがままになりながら、ジャケットを掴む手に力を込めた。


「……大好きです、レオンハルト様」

「ああ。俺も愛してる」


 腕の中でルシアナの体が小さく震える。体重をかけるように寄りかかってくれていることから、喜んでくれていることがわかる。

 この言葉だってこれまで何度も伝えてきたというのに、彼女はいつも新鮮に嬉しそうにしてくれる。この程度のことでこれほど喜んでくれるのだから、いつもいつでも愛の言葉を伝えたいし、何でもしてあげたくなる。

 彼女との日々の触れ合いのなかで、こうした初々しい気持ちを常に思い出させてくれるから、自分の狂暴性を彼女にぶつけなくて済んでいた。


(俺は貴女に生かされている。心の底からそう思う)


 どうかルシアナにとっての自分もそんな存在でありますように、と願いを込めるように、彼女の頭にそっと口付けを落とした。

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次回更新は3月1日(日)を予定しています。

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