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第19話 昔の友達

(ケント様は何か隠している……)

 

ケントの煮え切らない答えに不審を感じたニケ。

恐らく、ケントはバーモントから何か情報を得たに違いない。

それを意図的に隠しているのだとニケは考えていた。


(どうしてわたしに隠し事をするだろう……?)


 白馬の王子様の正体が分かることがケントにとって不都合なのだろうと考えるのが筋であろう。


(もしかして……ケント様はわたしと結婚したい??)

(いや、ケント様は女を容姿でしか評価しないクズ……だけど、ここまでの行動を見るとそうでもないような……)


 ケントが来てから貧しい領地が日を追うごとに変わっている。

みんな明日への希望に満ち溢れている。飢えるどころか、日に日に豊かさを実感できるのだ。


 バステト族とアヌビス族の争いもなくなった。貧しい土地で暮らすことで、互いがいがみ合っていたが、豊かになれば争う必要はない。

 ニケの父親のハンジロウとアヌビスの長タロがなかなかできた人物であったことも幸いした。

 アヌビス族の頭の固い保守派の長老たちが津波でいなくなったことも不幸中の幸いであった。

 

 アヌビスの政治に深く関わり、強大な力をもっていた漁業組合の長老がいなくなったことは、領地が豊かになる改革には大きかった。


(なんだかモヤモヤする……)


 気分を変えようとニケは、オトワと一緒にカリフの街を散策していた。

 すると道を走っていた派手な馬車がニケたちを追い抜いてからすぐに止まった。窓を開けて顔を出したのは典型的な貴族の令嬢である。


「もしかしたらニケじゃない?」


 ニケは馬車の窓から顔を出した金髪巻き毛で少し意地悪な顔つきの令嬢に見覚えがあった。


「も、もしかしたら……サマンサさん?」

「そうよ、サマンサよ」


 この令嬢の名前はサマンサ・オーベル。ニケと同級生。

 カリフのオーベル伯爵の娘で幼年学校に通っていた。

 ニケをいじめていたグループに属していたが、あくまでも属していただけで、どちらかというと庇ってくれたことが多かった。


 顔は意地悪そうではあるが、良識があり嫌がらせする仲間をたしなめたり、ニケに逃げろと言ってくれたりしたことが多かった。

 親しい友達ではなかったが、気にかけてくれた数少ない知り合いなのだ。

 ニケはサマンサには悪感情はない。サマンサはあっけらかんとした性格で、特にニケのことを気にかけていたわけではない。

 サマンサは悪いことは悪いと判断できる正義感が強いのだ。

 わがままで自分本位な考えをもつ貴族令嬢の中では珍しいタイプだ。


「久しぶりねえ、ニケ。噂どおりの鎧姿ね。うける~」


 サマンサには悪気はない。無邪気にニケの様子を茶化すが、嫌悪感はないようだ。その証拠に一緒にお茶を飲まないかと強引に誘って来た。


 こんな変な格好でも気にしないのはある意味すごい。サマンサにとっては幼年学校の同級生としか映っていないのであろう。


 誘われたニケはオトワを連れてサマンサとカフェに行くことにした。

 この変な姿のニケを誘うことからして、サマンサはある意味、人間ができたお嬢様である。周りの視線は気にせず、自分が思ったことをやる気質なのだ。


「そういえばあなたって、あのケント王子と結婚するんですってね!」


 テーブルに座ると開口一番でサマンサはそう聞いてきた。どうやら、それが聞きたくてニケを誘ったようだ。


「……はい……一応そうですけど」

「あんたやるわね。落ちぶれたとはいえ、ケント王子はあなたの初恋の人だもんね?」

「え?」


 ニケはどういうことか分からない。

 サマンサはニケの表情は分からないから、ニケの戸惑いに気づかない。


「あなた学校の森でケント王子に助けてもらったでしょ。それ以来、王子が学校に來るたびにあなた見ていたでしょ。丸わかりよ」

「そ、それじゃあ……あの男の子はケント様」


「そうよ。なんだ、今頃気付いたの。あなたにぶいわ。そんな鎧を着ているから鈍いんじゃない。見ればわかるでしょ?」


 サマンサはそう言ったがニケの鎧は魔法の鎧。自分に害をなす男は狼に見えるし、どうでもいい男は野菜に見える。

 今のケントはカボチャに見えるのだ。昔の面影など分かるはずがない。


「いいなあ、ニケ。ケント王子は女癖悪いけど、顔だけはいいからね。イケメンは連れて歩くには一番。自慢はできる。それに比べてわたしの婚約者は冴えない顔でねえ……。そりゃ、性格は悪くないのですけど、男らしくないというか、まあ、その分、優しいのですけど……」


 サマンサは自分の婚約者のことを話し始めた。婚約者の悪口のようだが、結局は自慢していてのろけにしか聞こえない。

 サマンサの話を聞きながら、ニケは複雑であった。


 あの天使のような男の子。

 そして白馬に乗って自分を助けてくれた成長した姿。

 それがケント王子だとは……。


 正直、あの男の子が成長して悪名高いイケゲス王子になるとは思わなかった。

 ケントの噂はいろんな人から聞いた。どう考えても女の敵。

 父親代わりであるハンジロウはケントのことを買っているようだが、それは戦上手な能力があってこそ。

 ふだんの素行はどう聞いても悪である。


 オトワもケント王子のことはいつも悪く言う。

 しかもオトワを襲おうとしたこともあるという。オトワの主人であるニケにとっては許すことができないことだ。


(ケント王子は13歳のある時から人が変わってしまったようだ……)


 これはニケがカリフの町や王都クロービスで度々聞いたこと。その言葉が脳裏に蘇った。

 サマンサと別れてカフェを出たニケはオトワに考えた末の結論を話してみた。


「オトワ、もしかしたら、ケント王子は13歳の時に人が変わった。何かが取り付いたのでないかしら?」


 突拍子もない推理であるが、これまでのことを思い出してみるとあながちとんでもない考えでもない。

 ケントの中にまるで違う人格が2つあると考えればつじつまが合う。

 オトワはしばし考えた。オトワはゲス王子のケントしか知らない。しかし、主人であるニケのことを思うと頷いて同意した。


「確かにそう考えると話のつじつまが合います。今の王子にはきっと色欲の悪魔が憑りついているのかもしれません」


 そう考えないとニケが可哀そうだとオトワは思ったのであった。そういう結論にしないと、大切な主人の子どもの頃の純粋な思い出が穢れてしまう。


 オトワの言葉にニケは自信をもった。


「オトワ、わたしは決心しました。ケント様に憑りついた悪魔を追い払います」


 ニケはそう決心した。ニケは悪魔を祓う方法を1つ思いついていたのだ。


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